【第20話】冒険者、帰還する。(2)
「……ここだけの話、僕は魔族なんです」
僕は少し声を落として話始めようとする。
「ええっ!? そうだったのっ!!??」
よし、早速声を落とした意味がなくなったぞ。
「ユナ殿、少々声が大きいでござるよ」
「あっごめん!」
慌てて口に手を当てるユナさん。
「えっと、ハルくんはそれが理由で助かったってことなの?」
「いや、そうではないんです。実は僕、その魔族倒してるんですよね」
「えっ!?」
はっ、と先ほどの動きをまた繰り返すユナさん。
「少し、場所を変えるでござるか」
時臣さんの気遣いで冒険者協会の職員さんに人目の付かない場所を案内してもらった。
「それで、ハルくんが最上位魔族を倒したっていうのは?」
「ああ、はい。それは────」
「────それについては、妾が説明しよう」
その声と同時に、僕の影から魔人が姿を現す。
「えっ、ちょっとラティ……」
「ふむ、お主が影の中の──なるほど、面白い」
はははっ、と楽しそうに笑う時臣さん。
それとは対象的に声が出ないくらい驚いているユナさん。
「あー、えっと……じゃあ続きはこのロリっ娘から」
「ロリっ娘言うな」
「……いやあ、ハルくんには何度驚かされればいいのやら」
あはは、と苦笑いのユナさん。
「話を戻すぞ。まず、ハルが出会った魔族の名はディレ・エルベロという。魔王直属の最上位魔族じゃな」
さりげ、ラティに名前で呼ばれたのは初めてかもしれない……嬉しい。
「実は此奴、エレストルから追放されておるんじゃが──その理由が魔族の疑いらしくてな」
ああ、名前呼びじゃなくなった……。
「エレストルでは、その場で殺されてもおかしくないでござるな」
「此奴が魔族としての姿を晒したのはディレとの戦いの時だけじゃった。あの時は偶然誰かに見られたのかと思っていたが……」
僕は最初から魔族っていう設定なのか。まあ、事の経緯を最初から説明するのは大変だし仕方ないか。
「彼奴らが教会と繋がっていたのなら納得が行く」
「その魔族からハル殿の情報が漏れ、教会に渡ってしまったという訳でござるか……」
「つまり、魔王シリウスと教会が繋がってるっていう線はほぼほぼ確実ってことだね!」
「ああ、そういうことじゃな」
そうなると、あの時魔族と接触していたフェイとセインさんも危ないんじゃないか? 二人とも無事だといいんだけど。
「っておい! 角に触るでないわ!」
「だってボク、魔人って初めて見たんだもん! お願い、少しだけ!」
気付けば、あちらは何やら楽しそうな雰囲気になっていた。
何故だろう、ラティが他の人と話している所を見ているととても喜ばしい気持ちになる。これが親の気持ちというものなのだろうか──成長したな、ラティ……。
「……」
ヤバい、めっちゃ睨まれてる。もしかして、影の中にいないのに心読まれてる?
「ところで、お二人はどうやって教会の目論見を阻止つもりなんですか?」
そろそろ怒られそうなので、僕は真面目に質問することにした。
教会と言ってもその上層部だけなのか、それとも全体がグルなのか、そもそも目的すら分かっていない。
「どうやって……って言われても、ねえ?」
「やることは一つでござるよ」
なんだ、準備は出来てるのか。流石はS級冒険者、いろんな冒険者が憧れるのも頷ける。
「教会に乗り込むしかないでしょ!!」
「ああ、それしかないでござる」
うん。ん?
「んじゃ、これ以上ゆっくりしてるとノアちゃんに色々言われそうだし、そろそろ行きますか!」
ユナさんは掛けていた椅子から飛び跳ねるように立ち上がり、準備運動を始める。
なんて無計画な人たちなんだ!
「……あれ、ノアさんとお知り合いなんですか?」
「そりゃ同じS級冒険者だし! 何々、もしかしてハルくん、ファンだったりするの?」
ファン……なのかな? いやまあ憧れてるんだし、ファンってことになるのか。
「まあ、大体そんな感じですね」
「じゃあノアちゃんに会ったら伝えとくよ! ハルくんのこと!」
「そんな、これ以上迷惑は掛けられませんよ」
ノアさんに。
「なーに遠慮してんのっ! ボクたちはもう知り合いなんだから、情報提供のお礼だと思って!!」
「そういうことなら……」
ふと、僕はあることを思い付く。
これを伝えて貰おう、面白そうだから。
ノアさんはもう僕の事なんか忘れているだろうけど。
「では、言伝を一つお願いします────」
「────すぐに追い付いてみせます、って」
* ☆ *
「それではハル殿。拙者達は行くでござる」
「言伝はしっかりお届けするよ!」
どうやら、時臣さんとユナさんは直ぐにでもエレストルに向かわないといけないらしい。
「こちらこそ、色々ありがとうございました」
(良いのか?)
……ん、何が?
(はあ、素直じゃないのう。一緒に行きたいんじゃろ? お主も)
やっぱりプライバシーの欠片もないな。どんなに隠そうと思ってもバレるんじゃどうしようもない。
(隠そうとすればするほどお主が意識してしまうから、結果的に伝わりやすくなるぞ。逆に、お主が何も考えてなければ何も伝わらないというじゃな)
そんな抜け道があったなんて初耳だ。
(それはさて置き、本当に良いのか? もう行ってしまうぞ?)
うん、あの二人に迷惑は掛けたくないからね。
(ま、お主が良いなら構わぬがな)
エレストルの方へ向かう二人の姿を見送る。
恐らく、二人はエレストルの問題を解決してくれるのだろう。
僕なんかが、出る幕じゃない。
……
それじゃ、そろそろ僕たちも出発しようか。
……ん? 僕は別に行かないとは言ってないよ。
(まさか一人で乗り込む気とはな……どの道、迷惑を掛けるようなものじゃろ。というか、誰に語り掛けとるんじゃ?)
ふっ、甘いねラティ。僕が迷惑を掛けていると思わなければ良いのさ。
(なんじゃその滅茶苦茶な自分ルールは……)
それに、僕には君がいるだろ。
(まったく……懲りん奴じゃな、お主は)
実を言うと、この計画性の無さはあの二人譲りなんだ。
(今日会ったばかりじゃろ!)
そんなこんなで僕は冒険者協会を後にし、王都デルクへ────。
「……」
その時、突然僕の肩が誰かに掴まれる。
「どこに行く気? ハル君」
振り返るのを躊躇うほど、強烈な圧を感じる。
マズい、終わった。
「どうも、ヘレンさん。今日は良い天気なので、少し散歩にでも行こうかなと」
「もうすぐ日が暮れるけど?」
「……夜の散歩って、最高ですよね」
はあ、とため息をつくヘレンさん。
「事情があるなら、私にちゃんと話して」
僕はヘレンさんに拾ってもらって、住む場所だって貸してもらっている。
姉のように慕っているし、今まで一年と少し、一度だってこの恩を忘れたことはない。
だから、
この人に隠し事をするのは、僕には無理だ。
「どうしても、会いたい人がいるんです。それだけじゃ、駄目ですか?」
あの子との出会いが、その僅かな時間が、僅かでも僕を変えたから。
あの子を守ると、決めたから。
「ちゃんと無事に帰って来れる?」
「はい、絶対に」
「じゃあ、待ってるからね」
「待っててください」
僕の肩から、手が退いていくのが分かった。
どうやら、許可が降りたらしい。
「行ってらっしゃい」
「行って来ます」
待たせたね、行こうか。
(物語はここからというわけか。楽しみじゃな)
たとえ僕が出る幕じゃなくても、たとえ誰もお呼びじゃなくても、僕には関係ない。
記念すべき20話ですね。エレストル編はまだまだ続きますので、これからもよろしくお願いします。




