【第156話】ゴーストの少女、そして国主。
遅れてすみません!!
『葬覇────』
身体を低く構え、その拳を素早く虚空へ振り抜く魏刹の国主。
「わわっ──」
それを見て、咄嗟に横方向へ飛び退く。
次の瞬間、直前まで立っていた場所でとてつもない衝撃音が鳴り響く。
目を向けてみると、空間が一直線状にまるごと消し飛んでしまったかのような跡が出来ていた。
この技、威力もそのまま実物と同じ……再現度は完璧と言ってもいいですね。あの攻撃を直接受けたことはありませんが、ただでは済まないということだけは分かります。
まだ、その時ではありません。
『桜華流忍法・桜風吹』
すると、咲刃の全身から桃色の花弁が舞い始め、周囲に広がっていく。
「ほう、変わった技だな」
「よく言われますっ!」
ほぼ二対一と言えるこの状況、咲刃が勝利する方法はたった一つ──それは、天黎殿の攻撃を掻い潜りつつトキ殿を倒すというもの。
天妖術による消耗が分からない以上何とも言えませんが……天黎殿を倒したとしても、再び天妖術によって再現されてしまう可能性は非常に高いです。
とはいえ、天黎殿の後ろにいるトキ殿に攻撃を通すのは容易ではありません。
『桜華流忍法・八重桜!』
と、周囲を舞っていた大量の花弁はピタリと動きを止め、すぐさま二人へと襲い掛かる。
この技によって放たれる花弁は、その一つ一つが一般的な中級魔法と同じ威力です。見た目以上に強力で、先ほど天黎殿が繰り出したものと同じ、いわゆる初見殺しとも言える技なのですが────。
『流水』
──シュシュシュシュンッ!!
天黎殿は花弁を軽々と弾き、弾かれた花弁が辺りの木々へと命中する。
「なるほど、これか。魔物の群れを制圧したのは……」
と、何やら考えるような仕草をするトキ殿。予想は着いてはいましたが、トキ殿が直接天黎殿を動かしているという訳ではなさそうですね。
そうであれば、勝算はあったのですが……。
『桜華流刀剣術・一重咲』
──ガキィンッ!!
気付けば目の前まで迫っていた天黎殿の拳を刀で防ぐ。
……いえ、防ぐというより“受け流した”と言った方がいいですね。そもそも受け止めるには、あの攻撃はあまりに重すぎます。
「……」
繰り出された右拳を後方へと反らし──、
『桜華流刀剣術・八重咲』
──大量の斬撃を繰り出す。
『流水』
やはりそう来ますか──ですが、その体勢で繰り出すそれでは全てを防ぎ切ることは出来ないでしょう。
『桜華流刀剣術・乱レ咲』
八重咲のよる八連撃を上回るこの技、デメリットは全方位への攻撃になるため、特定の方向への攻撃が出来ないということ────。
「──刀一本でその連撃……技術は確かなようだが──」
天黎は言う。
「──しかし、それでは次がない」
そう、
この技はその場で宙を舞い、そこから様々な体勢であらゆる方向に斬撃を繰り出すというもの。
だから、着地が必要なのです。
『震天──』
その隙を見逃すはずもなく、天黎殿は拳を放つ────。
「──っ!!」
果たして、その拳は、
咲刃の身体をすり抜けました。
辺り一帯に強烈な衝撃。文字通り、空気が激しく揺れる。しかし、それすら咲刃には届きません。
やはり、
天黎殿の攻撃は、咲刃には命中しませんでした。
「何故だ、属性は纏っていたはず……」
と、トキ殿。
チャンスは、たった一度だけ────。
『桜華流忍法奥義────
────百華此岸』
全身から、花弁が舞う。
『満開っ!!』
────だから、次の一撃に全てを。
「……お前も持っていたのか」
咲刃が、あの場面で『乱レ咲』の発動を選んだ理由。
それは、不意打ちをするためであり、
この技を、発動するためなのです。
『桜華流刀剣術奥義────
一重咲、八重咲、乱レ咲を順に発動し、その直後にしか扱うことの出来ない、必殺技。
────狂イ咲っ!!』
辺りの花弁は一瞬動きを止め、無数の刀へと形を変えた。
そしてそれは、一つの刀へと────。
『飛花流落』
咄嗟に防御の構えを取る天黎殿。
しかしその直後、勢いよく振り返ると、その方向へと飛び込んでいく。
その先にいるのは、ただ一人の大妖狐。
ですが、もう間に合いません。
『天妖術・五重魔力障壁!』
「──無駄ですよ」
──バリィンッ!!
たった一つの刀は、魔法界最硬度のバリアをいとも容易く打ち破る。
「安心してください、死にはしませんから────」
そしてその刀は、トキ殿の胴体を深く斬り裂いた。