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【第153話】もう一つの集落にて。(1)


 「結論から言います、国主シャルロット────」


「────この件から手を引かぬのならば、相応の対処を取らせてもらいます」


 目の前の狐獣人族(フォクスロン)──ケイーナはそう言った。


 彼女は、今私達がいるこの集落の長をやっている狐獣人族。やけに華やかというか、派手な衣装を身につけている。彼女だけでなく、この場にいる狐獣人の多くは似たような衣装を纏っている。


 集落にいた他の狐獣人とは、雲泥の差だ。


「ニコは誰にも渡すつもりはありません。今ならまだ水に流すことが出来ますよ、国主シャルロット」


「……はあ」


 それに対し、シャルロットさんは呆れた顔でそんな相槌を打った。


「相応の対処、ねえ……おもしれーじゃん。具体的には?」


 シャルロットさんが挑発的な態度で返すと、ケイーナは分かりやすく口の端を吊り上げ、


「ふむ、そうですね……テオルス全域に『幻妖術』を展開する、というのはいかがですか?」


 と同じく挑発的な態度でそう言った。


 ふむ、既に和解の道が途絶えかけているな。どうしたものか。


「ふうん。お前たちに、本当にそんなことが出来んのか?」

「道中でヴェルナ全域に展開された幻妖術を見なかったのですか? テオルスぐらい、造作もありませんよ」

「アタイの知り合いの話じゃあ個人、複数、いずれにせよ、ヴェルナ全域を覆う幻妖術を展開するにはとてつもない労力が必要らしいぞ?」


「……ええ、そうですね。誰から聞いた話かは知りませんが、ここまで至るのに、我々は多くの犠牲を払いました。だからこそ、ヤツら狼獣人族(ライカンスロープ)に負ける訳には────」


「あーワリィ、伝わんなかったか────」



()()を展開してるのは、お前ら狐獣人族(フォクスロン)じゃねーだろって言ってんだ」

「……」


 その場にいた狐獣人、そのほとんどがシャルロットさんの発言に戸惑いを見せる。


 しかし、その中のたった数人の表情が、ほんの一瞬だけ驚愕で顔を歪ませた。


「……それは、どういう意味でしょうか?」


 ケイーナの言葉に、シャルロットさんは困惑する。

 恐らくだが、「ん、今ここで言っていいのか?」という意味だろう。


「そのまんまだろ、これ以上説明がいんのか? 一番理解(わか)ってるのはアンタだろ?」

「……はあ、そうですか。まったく、国主とやらはどうしてこう面倒な人が多いのでしょうか」


 ケイーナは深くため息をつく。


 彼女の反応からして、狼獣人族(ライカンスロープ)との接点を持ったことはバレていても、その会話内容までは知られていないらしい。


「貴方、ニコをここに連れて来てください」


 ケイーナがそばにいた狐獣人にそう声を掛けると、その狐獣人はそそくさとこの場を離れていった。


「いいですか、お二方。ニコが何と言おうと、あの子は貴方がたには渡しませんし、貴方がたが望む“和解”とやらを受け入れるつもりもありません」

「何故、貴方はそこまで和解を拒絶するんだ?」


「そんなもの、和解するメリットがないからに決まっています」

「この無意味で無意義な抗争が終わるという、最も大きなメリットがある」


「ふふ、それは()()()()()()()()()()()()()


 先ほどと同じような、いやらしい笑みを浮かべるケイーナ。


「……何?」


「直に、狼獣人族(ライカンスロープ)の集落は全て滅びますから。いえ、既に滅びているかもしれませんね」

「……滅びるだと?」


「ええ。奴らの集落に、小国を一つ滅ぼしかねない、半魔物群大行進(モンスターパレード)級の数の魔物をけしかけましたから。つまり、この戦いは我々の勝利ということです」


 それを何とも思っていなさそうな、至極平然とした表情の彼女。


 だがそれは、こちらもまったく同じだった。


「ははっ、そりゃタイミングが悪かったなあ」

「そうだな」


 狼獣人族(ライカンスロープ)の集落には、咲刃がいる。


「ふふふ。貴方がたがあちらにいれば、奴らを救うことも出来たかもしれませんね」

「あ? 無理だろ」

「ああ。一対一なら兎も角、集落を守りながら半魔物群大進行級の数の魔物を捌くことは私たちには出来ない」

「おや、思ったより腕に自信がないのですね」


 咲刃は恐らく────、


「一応お教えしておくと、貴方がたにニコを会わせるのは、あちらにいるであろう貴方がたの友人を傷付けてしまうことに対しての、ほんのお詫びなのですよ」


 ────対魔物、対多数において、この中で一番強い。


 それは言葉通り、シャルロットさんより、だ。


「マジでタイミング悪いぜ、アンタ────」


 シャルロットさんはケイーナに憐れみの目を向けた。


 もしかすると、リーダーの任務関係で咲刃と知り合ったシャルロットさんは、私より咲刃の実力を把握しているのかもしれない。



「────その大量の魔物とやら、一匹残らずキレイさっぱり全滅してんぜ? 多分な」

「…………はあっ?」


「────ケ、ケイーナ様っ!!」


 上擦り気味な大声とともに部屋の戸が思い切り開かれると、そこには二つの人影があった。


「た、大変ですっ! 先日送り込んだ魔物の群れが全滅したとの報告がっ!!」

「……な、何──」

「加えて先ほど、トキ様が外出されましたっ!!」

「……」


 ぽかんとした表情に、半開きの口。ケイーナは、笑えるくらいに困惑していた。


 だが、私とシャルロットさんはそれよりももう一つの人影に目がいった。


 白銀ともいえる美しい毛並みを持った、小柄で可憐な狐獣人族(フォクスロン)

 その髪のように真っ白な瞳はこちらに──いや、シャルロットさんに向けられていた。


「よっ、ニコ。元気してたか?」

「……」


 なるほど……これは確かに、智慧の主が一目見ようと直接会いに来るのも納得だ。


「……久しぶり、お姉ちゃん」



 ────彼女が放つ存在感は、あまりにも圧倒的すぎる。


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