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【第145話】思念伝達。


「これ、一方的に喋りかけたり出来ないの?」


 僕は目の前の少女に尋ねる。


「うーむ……不可能ではないが、相手側がしっかりと聞き取れるかはお互いの才能次第になってしまうな」


 ということで僕は現在、冒険者ギルドでユエに『思念伝達(トランシオ)』を教わっていた。


 いつの間にかタメ口、呼び捨てになっているが、本人からは特に何も言われなかったのでとりあえず良しとしている。

 恐らく、この距離感の方がやりやすいのだろう。


「更に言えば、仮にそれを正確に聞き取れるだけの才能を持つ魔法使いならば、そもそも『思念伝達』の習得も可能だろう」

「そりゃそうだね」


 いずれにせよ、『思念伝達』を扱うには最低条件として“才能”が必要という訳だ。

 その才能というのが具体的に何を指しているのかは分からないが、こと今回においては創作(オリジナル)魔法式の理解力やそれを実際に扱うセンスとか、大体その辺だろう。


「思念伝達を使ってゼーレたちと連絡を取ろうかなって思ってたけど、そんな旨い話はないってことか……」


(ん、向こうには咲刃もおるのじゃろ?)

 そうだけど……それがどうしたの?

(?)

 ?


 何、どういうこと?


「それなら、思念伝達をあの(シノビ)に飛ばすといい。あの者なら、聞き取りも容易だと思うぞ!」

「え、そうなの?」

「うむ! あのシノビは類まれなる“魔力操作”の才能を持っているからな。技術だけなら、その辺の魔法使いを遥かに凌駕していると断言出来る!」


「へえ、そうなんだ……」


 何かと器用だなあとは思ってたけど、まさかそれほどとは。


(逆に今まで気が付かなかったのか? 咲刃の使う『桜華流忍法』とやらは、“魔法とスキルの融合技”じゃぞ?)

 それなら僕も出来るし、皆やってるんじゃないの?


(お主の融合技と咲刃のそれは、厳密には本質が大きく異なる。何と言えばいいか……咲刃の場合、お主が使うような『ただ属性を付与しただけのスキル』ではなく、“印を結ぶ”という動作によって幾重にも重ねられた魔法式を、()()()()()()()()()()()()と融合させた、謂わば『創作(オリジナル)魔法』に近いものなんじゃ)


 え、あの印結びって意味あったんだ。てっきり気合いを入れるためにやってるのかと思ってた……。


(十にも及ぶ数の魔法を寸分の狂いなく統一し安定させ、スキルと組み合わせたという事例は、少なくとも妾は聞いたことがない)


 声のトーンを少し落として、ラティは続ける。



(あれは()()()()()()で、()()()()()()()()()すぎる。あの技術が今まで誰にも発見されていないというのがどうにも腑に落ちん。まるで咲刃自身が創り出し、彼奴の為だけに存在している技術のような────)


 ラティは、そこで言葉を切った。



(……まあ脱線は程々にして、お主が思念伝達を習得さえ出来れば連絡は取れるじゃろう。一方通行にはなるがな)

 習得さえ出来れば、ねえ……浮遊魔法より習得が難しいとなると、相当キツそうだよなあ。


「今から全力で頑張るとして、習得までどれくらい掛かりそう?」

「我の見込みでは、大体二週間だな!」

「二人とも帰ってきちゃうよ……」


「ちなみに、お姉さんは既に習得済みだ!」

「え、マ?」

「マ、だっ!」


 と、すごく誇らしげな様子のユエ。


 ユエの言う“お姉さん”とは、言わずもがなクロエさんを指しており、彼女のクロエさんに対する敬愛具合から考えれば、得意げなその態度にも頷ける。


「……」


 僕は結局、突如として切られたラティの発言について、何も言及はしなかった。



 その先を知ってか知らずか────、


 ────僕自身が、それを聞くのを拒んだから。



 ラティは気を遣ってくれたのだろう。



「ほんと、変なとこで臆病だよなあ……」



■ 〇 ▼



「待って、もしかして僕って天才?」

「素晴らしいなっ! まさかこれほど早く習得するとは!!」

「『万能者』に感謝するんじゃな」


 あれから二日後の夜、なんと僕は『思念伝達(トランシオ)』の習得を終えていた。


 ついでというか、成り行きでラティも思念伝達を習得していた。僕より若干早めの習得だったか、多分僕の『万能者』のおかげだ。感謝してほしい。


「しかしまあ、何とも力業すぎる魔法じゃな。相手の特定及び指定の部分を、索敵魔法の超拡大バージョンで無理矢理通すとは……」

「ああ、今はまだ強引に組み合わせたような形になっているが──これから少しずつ最適化していくつもりだぞ」


「そういうのって、ユエの特殊スキルで魔法式ごと勝手に最適化されるって話じゃなかったっけ」

「うむ……本来はそうなのだが、この『思念伝達(トランシオ)』という魔法は構造があまりに特殊過ぎる故、()()()()()()()()()のだ」


 魔法の世界において“完成”というのは、完璧で正確な魔法式が存在している状態のことを指す。

 完成していない魔法は式に無駄が多く、発動の際に大量の魔力を消費したり機能が完全ではなかったり、そもそも魔法が発動しないこともある。


 ただ、魔法が大きく発展している現在では、完成していない魔法を探す方が難しいだろう。


「どんな魔法でも無制限に創れるってわけじゃないんだね」


「それが出来てしまえば、特殊スキルどころの騒ぎではなくなるぞ。それこそ、ディエスの『願いの起源(オリジン・メア)』相当じゃろう。とはいえ、ユエの特殊スキルは少々常軌を逸していると言わざるを得んがな」


 僕が今まで見聞きしてきた特殊スキルの中でも、“あらゆるモノを不和なく融合させることが可能になる”というのは、何というか──()()()()()()()()()()()気がする。


 クロエさんを自身と融合させたように、融合の対象は必ずしも魔法である必要がないのだから。


 ……まあ、僕もあまり人のことは言えないけど。


「先ほども言った通り、この魔法はいずれ最適化する予定だ。『思念伝達(トランシオ)』を構成するに最も適した魔法を創り上げ、その魔法でもう一度『思念伝達』を創り直す──既存の魔法では、思念伝達を完成させることは出来ないからな」


 と、そこらの魔法使いが聞いたらひっくり返りそうな発言をする黒髪の少女。


 ユエ曰く、『思念伝達』は組み合うことのない魔法を『調和の宴(ハーモニクス)』によって強引に繋ぎ合わせた“本来は存在し得ない魔法”だ。


 もとより“最適の形”が存在しない魔法は、どのような手段を用いても最適化することは出来ない。


 だからこそユエは、『思念伝達』が存在し得るための“新たな魔法”を創り出し、その魔法で思念伝達を完成させようとしているのだ。


「そんなことより、早いとこ連絡を入れた方が良いのではないか? 我の見立て通りなら、あの忍は必ずハルの思念伝達を聞き取ることが出来よう!」


「そうだね。それじゃあ使ってみようか、『思念伝達』を」


 そうして僕は、とあるメッセージをヴェルナ山脈にいる咲刃に向けて放ったのだった。


 そろそろヴェルナ山脈編が始まるのですが、しばらくハル&ラティコンビを描けなくなるのが非常に辛いです。


 魔法式の最適化=完成という認識で大丈夫です。

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