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【第143話】同行者。

 ここのとこ会話メイン回が多いですね。


「ノ、ノアさんがピンチ……?」


 僕は、僕の聞き間違いである可能性に賭け、そう聞き返した。


 この場にいる誰もがマルタの発言を疑い、自分の耳を疑っただろう。


「実は、昨日からノアとの連絡が完全に途切れちゃったんだ」

「……え、逆に今までは連絡取れてたの?」

「うん。ユエのつくった『思念伝達(トランシオ)』っていう魔法でね」


 ユエさん、そんな魔法もつくれるのか……もう何でもありじゃん。


 ちなみに、ややこしいので人間の方を“ユエ”、吸血鬼の方を“クロエ”と、呼び名を元の形で統一することにした。


 これはたった今決めたことなので、ユエさんに確認は一切取っていない。思念伝達があるのに敢えて伝えないというのは、マルタの性格の良さがよく分かる一例といえるだろう。


「ただ、習得難易度が『浮遊魔法』をはるかに上回るレベルで高いから、普及は難しいかな。実際、時兄は習得出来なかったし」


 浮遊魔法をはるかに上回るレベル……ってそりゃ、冗談抜きで『蘇生(リザレクション)』級なんじゃないか? 習得してないから分からないけど。


「今のとこ使えるのはマルタとユエ、ノアとラスタリフぐらいかな。ラスタリフの場合はちょっと特別だけどね」


 特別というのは言わずもがな、『定立(テーゼ)』による“模倣(コピー)”のことだろう。


「我に魔法式を教えよ。すぐに習得してやる」

「あ、じゃあ一応僕も」

「マルタは天界に行かなきゃいけないから、思念伝達はユエに教わるといいよ」


 準超越スキルである『万能者』を持つ今の僕なら、習得出来るかもしれない。


 『思念伝達』は、僕の想像通りの魔法なら情報伝達速度を異次元に引き上げることが出来る。情報を素早く入手するというのは、あらゆる面において有利に立てるということ。


 もし存在が明るみになれば、世界中が大騒ぎになること請け合いだろう。



「にしても珍しいよね、マルタが直々に向かうなんて。いつもみたいに、全部押し付けるつもりなのかと思ってたけど」

「だーりんはマルタのこと何だと思ってるの……?」

「何ってそりゃ、他力本願猫でしょ?」


 僕がそう言うと、ティファレトさん以外の全員が首を縦に振った。


「マルタはやることがいっぱいで忙しいから、皆に任せてるだけだよ?」

「でも、会いに行くと毎回部屋で寛いでない?」

「んー……タイミングの問題かな」

「ホントかよ」


 流石に疑わざるを得ない。


「今回、マルタは同行者の()()だからね。もし何かあっても、マルタがいればすぐ帰ってこれるでしょ?」

「あー、確かに……それで、メンバーは決まってるの?」


 僕が尋ねると、マルタは軽く頷いた。


「まず、だーりんはお留守番だね。そろそろ魔王会談があるし」

「そうだね」


 ノアさんの安否はとても心配だが、魔王会談を欠席するわけにもいかないだろう。


「次に、ユナとティファレトもお留守番かな。二人はファルパンクでの事件のことでまだやることがあるだろうし──ティファレトは“こっち”で何かあった時のために残っててほしいんだよね」

「何か、とは?」


 ティファレトさんは若干を首を傾げ、そう尋ねた。


「それはもちろん、予想外の何かだよ。まあ、天黎がいれば大体はなんとかなると思うけど、念の為」

「……」


 このふと覚えた違和感の正体は──マルタか。


 今までと比べると、相当慎重になっている。


 理由は明白、

 今のマルタには、未来が視えないから。


 以前、“不確定要素の多い未来は視えない”と言っていたことから、この先の天界に関する未来はほとんど視えなかったのだろう。


 『未来演算(ラプラス)』を失った今、改めて演算し直すことも出来ず、マルタは一つ一つが手探り状態のはずだ。


 ──だから、慎重にならざるを得ない。


 自分の匙加減一つで、友人の生死が決まりかねないのだから。



 そして、だからこそ、不甲斐ない。



 こんな状況で、マルタの力になれない僕自身を、非常に情けなく思う。


(考えすぎじゃろ)

 ……かもね。



「そうなると、残るは俺ら三人だが……」


 と、ギルはレンとクロエさんを一瞥する。


「レンも、ダルターニャと一緒にやってもらいたいことがあるからお留守番だよ。詳しいことはダルターニャから聞いてね」

「は、はい……」


 今名前の挙がった“ダルターニャ”とは、レンと同じタイミングでS級冒険者へ昇格した冒険者のことだ。

 レンとは同期ということもあって、二人はかなり仲が良いらしい。


 僕は彼女に一度しか会ったことがないが、それでも強く印象に残るような人だった。


「つーことは──」

「なるほどな」


「待って、今回はクロエも外れてもらおうと思ってるんだ」

「ん、何故だ? 我は別に構わぬぞ。奴等には心底会いたくないがな」


「天界には、()()()()んだ」

「……」


 夜が、ない──。


 それはつまり、クロエさんが持つ『夜の王(ノクティクス)』が発動しないことを意味する。


「……ならば、やむ無しか」


 ある程度回復しているとはいえ、ノアさんですら不足の事態に巻き込まれるような場所で、本領を発揮出来ないというのはあまりにも危険だ。


(仮に天界に夜があるのならば、ベルクロエを深夜零時直前に天界へ放り込めば全て片付くからな)

 片付くって……別に喧嘩を売りに行く訳じゃないんだから。

(だが、相手側に敵意がないとは限らん。寧ろ今この状況では、そちらの可能性の方が高いとまで言える)

 それは確かにそうだけど……ていうか、クロエさん強すぎじゃない?



「それじゃ俺は確定として、まさか二人だけで行くのか?」


 確定した天界行きを思いの外すんなりと受け入れている様子のギル。


「んー、最初はそのつもりだったんだけど……」


 言い振りからして、最初から誰を連れてくか決まってたんだろうなあ。「誰か着いてきて〜」みたいな言い方してたのに。


 わざわざ最初に名指ししなかったのは、“ここ”に至るまでの説明を同時に済ませるためだったのだろう。

 マルタのことだから、少しでも僕たちと長く話していたかったとか、それだけの可能性もある。



「──()()が出来たから、そこを頼ろうかなって」


 マルタが何を考えているのか、今の僕には、もう分からない。


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