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【第141話】始まりの。


 ……始まりの魔王と、始まりの勇者?


 そんなことを、いつだかラティが言っていたのを思い出す。


(ああ。今から二千年前、人間と魔族の戦争が最も激化していた時代──両陣営を率いていた魔王と勇者のことじゃ)


 へえ、二千年前か……そりゃ随分と昔の話だね。ラティってそんな長生きしてたんだ。

(まあな)

 でも、全然そんな感じしないよね。なんか貫禄がないっていうか……良い意味で。

(言っておくが、その言葉はお主が思っとるほど便利ではないからな)


 あれ、良い意味でって言えば何言ってもいいんじゃないの?


(……しかしまあ、そうじゃな──少しばかり昔の話をするとしよう)


 そう言って、ラティは僕の影から姿を現し、僕の横に座る。


「ベルクロエ、少し話がある。此奴(こやつ)にルシフェルについて話すことになった」

「……ルシフェルだと? 何故今になってあの男の話を?」

「うむ。どうやらハルは、ルシフェルと何かしら関係があるようでな────」


 久しぶりに名前を呼んでもらえたことに内心大喜びしつつ、二人の会話が終わるまで待つことにした。


「まさか、こっちでティファレトに会うことになるなんてな」

「マスターから許可をいただいたので、遊びに来ました」

「へえ、遊びに……珍しいこともあるんだな。そうだ、父さんは元気してるか?」

「ええ、元気ですよ。坊ちゃまはまだ帰られないのですか?」

「あー、最後に帰ったのっていつだったっけ────」


「あ、そういえばマルちゃん。あの子たちは大丈夫そう?」

「ん、こっちはかなり順調だよ。それより、マルタはユナの身体が心配かな」

「ボクはもう平気だよっ! 怪我はとっくに完治したからね!」

「えっ!? ユナさん、怪我されたんですか?!」


 この光景を見ていると、またいつもの日常が戻って来たんだなと、改めて思う。


 こんな日常が続いてほしいと、心から祈る。

 この日常を守りたいと、心から願う。


 僕にとって、唯一の────。


「──そうじゃな。まずは、一人の魔族について……って、聞いておるのか?」

「あ、ごめん。少しぼーっとしてた、続けて」


 これ以上は、考えちゃいけない。

 だってそれは、決めたことだから。


「始まりの魔王──その名をルシフェル。彼奴は二千五百年前に“深淵”で生まれた魔族でな。文字通り、ルシフェルは魔族史上初めて魔王へと成った魔族じゃ。そして同時に、魔王史上初の“純系魔王”へ成った魔王でもある」

「因むと、二千五百年前時点で我やシャトラは生きていたぞ。当時は期待の新星として名を馳せていたな」


 二千五百年前のラティとクロエさんって、どんな容姿をしてたんだろう。もしかして、今と同じ感じなのかな?


「……言っておくが、昔はもう少し大人びていたぞ」

「そうか? 今も昔もあまり変わらない気がするが」

「……」


 ラティは余計なことを言うなと言いたげな視線を向け、話を続ける。


「そして、始まりの勇者──その名をサーシャ。彼奴はルシフェルと同じく人類史上初の“勇者”であり、彼奴の覚醒によって、魔族は苦戦を強いられた。ルシフェルが純系魔王として覚醒するまでは、ほぼ防戦一方になるほどに圧倒的じゃった」

「そりゃとんでもないね。まるでノアさんみたいだ」


 人魔間の均衡を崩すレベルの実力者といえば、僕はノアさんと天黎さんぐらいしか思い浮かばない。


「確かに似ておる。()()姿()()()()()()()()()()()()()()、な」

「……えっ?」


 不敵ば笑みとともに発せられたその言葉に、僕は耳を疑った。


「くくくっ。当時の妾もお主と同じ反応をした記憶がある。何せルシフェルとサーシャは、同時に行方を晦ましたのじゃからな」

「同時に?」


「我はただの相討ちだと思っているが、実際のところは誰にも分からない。情報があまりにも少なすぎて、どの推理も憶測の域を出なかったのだ」


 と、クロエさんは言う。


「当時はベルクロエと同じ考えの魔族の方が多かった。行方を晦ます直前、あの二人は“決闘”をしていたからな。じゃが、此奴の持つ記憶を見て妾は確信した────」



「────あの二人は相討ちなんかではなく、何か明確な意図があって姿を消したのじゃと」



「……詳しく聞かせろ」


 それからラティは、クロエさんに僕が取り戻した記憶について事細かに話した。



「──なるほど、そういうことか。そうなると、とても大きな疑問が浮かび上がってくるな」

「ああ。何故、此奴がその記憶を持っているか……じゃな」


 二人は同時に僕の方を見る。


「……え、いや、僕は何も知らないけど……寧ろ僕が知りたいくらいだし」

「まあ、そうじゃろうな……」


其方(そなた)ルシフェルの生まれ変わりという説はないか?」

「僕が? 何世代も離れた前世の記憶が蘇るなんてことあるの?」

「知らぬ」

「だよね」


 何も分からない以上、その可能性がゼロというわけじゃないけど……現実味には欠けるよな。


「……天淵大戦か」


 ぼそりと、ラティが呟いた。


「てん……なんて?」

「天淵大戦──恐らく千年周期で起きている、天界と深淵による戦争のことじゃ」

「ああ、確かにあったな、そんなもの。毎度人知れず発生し、気付かぬ内に終わっているものだから記憶からすっかり抜け落ちていた」


 そんなものがあったのか。文字だけ聞くと、とてつもなく壮大な戦争に聞こえるけど……。


「お主が取り戻した二つの記憶の中で、唯一共通点を挙げるなら()()じゃな。ただ問題があるとすれば、あの二人が天淵大戦の存在を知っているはずがないという点じゃ」


 ラティの言葉に、クロエさんは頷く。


「最初に観測された天淵大戦は二千年前、次は千年前……そのどちらも、既にルシフェル()の没後の話だからな」

「ルシフェルの“未来に力を託す”という発言も気になるが────」


 その時、


「あれ、もうその話してるんだ。マルタも混ぜてよ」


 と、一人の獣人機巧人形が間に割って入ってくる。


「そろそろ()に、話そうと思ってたんだ」


 マルタは、その場にいる全員をぐるりと見回した。


 そして言う────、


「────マルタ……それにノアや時兄が、一体何をしようとしてるのか、をね」


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