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【第133話】魔王、そして機巧メイド。(1)


 〝冥廟(めいびょう)〟──それは、僕が持つものの中で最も強力なスキルであり、正真正銘の必殺技だ。


 継続時間は三十秒。

 無茶をすれば一分程度まで延長が可能だが、スキル終了時に通常の『一時的な影術使用不可』に加えて、強烈な身体疲労に見舞われてしまう。



影蜘糸(アラクネ)



 地上に広がる巨大な影、その至る所から黒い糸が飛び出し、矢のような速さで彼女へと伸びてゆく。


「これはっ──!」


 以前にも説明した通り、開けた場所では冥廟の範囲外へ逃げることは容易だ。実際、あと数秒もあればティファレトさんは逃げ切ることが出来るだろう。


 だがそれは、()()()()()()()()()の話だ。


 ティファレトさんは今、空中にいる。

 地上との距離、おおよそ十メートル強。


 その状態から冥廟の範囲外に出るには、一度地面に着地する必要がある。


 このアドバンテージを生かさない手はない。



無想(ムソウ)京折(ケイセツ)────』


 先ほど聞いたばかりの詠唱を始めるティファレトさん。

 しかし、すぐに詠唱を取り止める。


「……なるほど、これは厄介ですね」


 僕の結界の効果に気付いたのか、そう呟いた。


 そもそも、『冥廟』の影響を受ける〝条件〟は、“(対象の)影が僕の影と重なっている”、もしくは“(対象が)僕の影に直接触れている”というものだ。

 つまり空中にいようが、条件を満たしていればスキル・魔法の無力化の影響を受けてしまうということ。



 ティファレトさんは静かに目を瞑り、剣を構える。

 そして、後ろに倒れ込むような形で()()していく。


「……チャレンジャーですね」

「成功する確率の方が高いので」


 現在彼女へと伸びている無数の糸は、肉眼では目視が難しい程に細いながらも最大強度であり、その全てに『影刃』が付与されている。

 最終的な目標は“拘束”だが、操作次第では一瞬にして傷だらけ(普通は死ぬ)になってしまうほどのもの。


 ────なのだが、どうやら彼女は正面からやり合うつもりらしい。

 それしか選択肢がないとはいえ、あまりにも無謀だ。



 いや、無謀に思えた────、



────キキキキキキキンッッ!!!



 自身へと向かってくる無数の糸、その一つ一つを余すことなく、全て、迅速に、正確に弾きながら、地上へと近付いていくティファレトさん。


「……あり得ないでしょ」


 自分が何をしてるか分かってるのか、あの人は。


 一瞬でも弾くタイミングがズレるか、一つでも弾き忘れるか……まあ要するに、一度のミスがそのまま失敗へと繋がる“作業”を、こなしている。


 百はあるはずだろ、あの糸は。


「冗談じゃない……」


 あの動きが出来るなら、出来てしまうのなら、

 あの人を穏便に止める術が、無くなってしまうじゃないか。


──シュンッ!


 僕は影蜘糸の数を更に増やし、糸の動きや太さを不規則にし──幾つかの糸に、地水火風光闇氷雷といった様々な属性を纏わせた。


 遠目で見たら、そこで何が起きてるのか分からないほどの“影”に満たされている。

 冥廟の効果がなければ、攻撃している僕にすら分からないだろう。


 しかし、ティファレトさんが止まる様子はない。

 まさに破竹の勢いだ。


 地上まで、残り五秒。

 


一喰い(デバウアー)



 影の中から、黒く巨大な()()()()を模した塊が現れ、()()()()()()()


 もう、なりふり構ってられない。

 これ以上は、僕の命が危ない。


 出来れば誰も傷付かない形で解決したかったんだけど──今の僕じゃ、僕が傷付かないようにするだけで精一杯だ。



 ……弱いな、僕は。



『変数を確認── 一定期間、自身に“影術耐性・超大”を付与します』

「なっ──」


 なんで、()()が発動するんだよ。


 無効化されていない……もしかして、あれはスキルじゃないのか?

 しかも()()耐性……ってことはまさか、解析が終わったっていうのか? この短時間で??


 ティファレトさんは、影の龍へと一直線に向かっていく。


 慣れた手つきで糸を弾きながら────、



────ドガァァァァァァンッ!!



 轟音が鳴り響く。

 ティファレトさんが地面に衝突した音だ。


 彼女はどうなったのだろうか?

 当然、僕は知っている。

 何故なら、冥廟の範囲内に彼女がいないから。


「……」


 僕は、どうすればいいのかを考えなければいけない。

 冥廟は既に延長時間に入っていて、あと三十秒もしない内に消えてしまうだろう。


「ふう、計算通りですね」


 激しく舞った砂埃の中に、人影が一つ。


「それでは、第三ラウンドと洒落込みましょうか──ハル様」

「……そう、ですね」


 僕は今、どんな表情をしているのだろうか。

 一応、無表情を保とうとはしていた。しかしまあ、かなり引き攣っていたかもしれない。


 彼女はもう、僕の手には負えない。


 僕に出来るのは精々、()()()()ぐらいだ。


 次回は.5話回になります。

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