【第14.5話】雷帝、その使命。
この話はサブストーリーとなっていて、メインストーリーの裏で進んでいるストーリーです。
数日前、久しぶりに旧友から連絡があった。何やら、俺の協力が必要らしい。
デルクの門を潜る。
そこに広がっていたのは、懐かしい光景だった。最後にデルクを訪れたのは三ヶ月くらい前だったと思う。
「ら、雷帝様じゃないか……!」
「お、おお!」
どんな顔をして民と顔を合わせれば良いのだろうか。
民はまだ、俺のことを『元聖騎士長』として敬ってくれている。とてもありがたいことだが、同時に申し訳ない気持ちにもなる。
俺は、この国から逃げたというのに。
俺はこの国、そして世界の真実の一端を受け止めるだけの度量を持ち合わせていなかったんだ。
「久しぶりだね、セイン! 調子はどうだい?」
「久しぶり、ニファレ。悪くはないよ、そっちは?」
「セインに会えて絶好調だよ!」
目の前のこの男はニファレ。俺が騎士学校に在籍していた時からの友人だ。今は聖騎士団の五番大隊(全部で七番隊)の隊長をしているらしい。
聖騎士副長を狙えるだけのポテンシャルはあると思っているのだが、本人にはまるでその気がない。
「今回セインを呼び戻したのは、緊急の依頼があるんだ」
「ああ、突然変異体の話だろう?」
「そう、それもそうなんだけど……近くの森があるだろ? そこにかなり上位の魔族が目撃されたんだ」
「魔族……」
一般的に、ヒト型に限らず“言語”による意思の疎通が可能性な魔物を魔族という。
逆にヒト型だろうが言語による意思の疎通が不可能な魔物は“魔物”と呼ばれる。
そして魔獣と呼ばれる魔物もいるのだが、普通の魔物とは違い、熊や兎などの“獣”が何らかの理由で進化し魔物になったものがそう呼ばれる。
「セインにはその調査をしてほしいんだ」
「どうして俺に? 調査なら他にも最適な人員がいるだろうに」
「実は二週間後、レルムスに向けて大規模な遠征を行うんだ」
「……何だって?」
魔族が集まり、作られた国が『魔族国家レルムス』。
魔物を絶対敵対視しているこの国にとって、あってはならないものらしい。
「何を考えているんだ、上は」
「さあ、僕にも分からない。最近になって教会側が更に過激になり始めてね……」
レルムスを治める王は、“純系魔王”だ。
この国の戦力である騎士団、及び宮廷魔導師を全て投入したとして、漸く同じ土俵に立てるかどうか、そんな次元の相手だ。
国王と同じ権限を持つとはいえ、教会がこんな無謀なことを計画するとは思えない。
「この遠征には主力含む半分近くの戦力を投入する。だから、この調査を遂行できるだけの人物を割けない──」
「それに、これは僕の独断専行なんだ」
「どういうことだ?」
「この報告が話に挙がった時、議会では『調査はしない』っていう結論になったのさ」
周辺に潜む魔族を無視するというのか? この国の上層部が?
一体何がしたいんだ。
一体何を考えている?
「だから、君に頼むしかないんだ、セイン。僕も、遠征に行ってしまうから」
「……分かった。俺がなんとかしてみるよ」
「ありがとう、頼むよ」
これは償いだ。
逃げた俺の、せめてもの。
もし、俺が魔族を見つけることが出来れば……それを理由にうまく遠征を中止、もしくは延期にできるかもしれない。
このまま、エレストルとレルムスを戦争させる訳には行かない。
「ファルゼによろしく頼むよ」
俺はこうして、ニファレの下を去った。
この国では教会の権限がとてつもなく強い。
それは、この国の人々が等しく神を信仰しているからだ。
当然、俺も例外ではなかった。
あの日、あの真実を知らされるまでは。
神は、天は──我々人間に対する慈悲など、微塵もないということに。
そして、人類の敵は魔族ではないということに。
▲ ▼ ▼
それから数日後、俺は行きつけだった店で変わった青年に会った。
その青年の話を聞いてみると、彼の遭遇した魔物が使わないはずの魔法を使ったという。突然変異体かもしれないと疑った俺は、彼らに同行することにした。
『影刃!!』
『蒼の火焔!!』
何やら、彼らは珍しい技を使う。
あの青年のスキルは今まで見たことのないものだったし、あの少女の扱う炎はとても青かった。
そして、その彼らへの興味が、一瞬の油断へと繋がってしまった。
気配──しかし、気付いた時には遅かった。
木々の間から魔物が勢いよく飛び出して来ていた。
あれはザライガコング……どうして北部の魔物がここに?
それに、背中に誰か乗せているのが見えた。
『迅雷!』
間に合え──!!
「きゃっ!」
「ぐっ……!!」
崩れた体勢で構えた防御では、ザライガコングの一撃を防ぎ切ることは出来なかった。
「結構、飛ばされてしまったな……」
ガサッ!ドゴゴゴッ!!
しかもこちらを追ってくるのか。
彼らに迫る危険が減るならば、こちらとしても都合が良いが……。
目の前に再び現れたザライガコングは、超A級と呼ばれる『A級が複数いれば対処できる』危険度に指定されている。
S級とまではいかないが、俺はA級何十人分の実力があると自負している。
問題は、背中の少女だ。
「こんにちは、人間のお兄さん! 私はザリィっていうの! それで、この子がバーリ!」
やはり魔族か。
容姿は若いが、かなり強い。最低でも上位魔族といったところか──え、今自己紹介された?
「……俺はセイン・バルザード。君の目的はなんだ?」
一応返しておこう。相手が魔族とはいえ、これは礼儀だ。
俺は王国の連中ほど魔族を嫌悪している訳でもない。
「んーえっとねーたしか……そうだ! ディレ君からこの森に潜伏してろって言われて〜……って、これ言っちゃいけないんだっけ?」
これほどの魔族を複数従えているということは手を引いているのは魔王なのか?
この辺りを統治している魔王といえば暴風君主か侵略支配だが……。
「怒られるのは嫌だなあ……あっ、お兄さんを消しちゃえばいいのか!」
とても物騒なことを言い出す魔族。
どの道、戦闘は避けられそうにない。
「やっちゃえバーリ!!」
その掛け声に反応し、ザライガコングはこちらに突撃して来る。
勿論、大人しくやられるつもりもない。
『雷閃!!』
剣と脚に雷を纏わせ、大きく踏み込む。
次の一歩で加速しザライガコングの胴体を斬り付け、その勢いで魔族へ接近する。
「わっ速い!!」
『憤怒の雷龍!!』
「でも〜残念!バーリはまだ……」
ザライガコングはまだ生きており、俺に向けて拳を放っていた。
ああ、そんなこと分かっている。
まるで最初からそのつもりだったといわんばかりに振り返り、
「はぁぁぁッッ!!」
思い切り剣を振り抜いた。
すると、龍を模した強烈な雷はザライガコングを飲み込む。
「ウソでしょーっ!?」
ザライガコングはその場に倒れ伏す。
「もしかして私、ハズレくじ引いちゃったかなー?」
「君たちの目的を話してくれるなら見逃すよ」
「えー何それ! 人間のくせに生意気だよー!」
ナチュラルに見下されたな……。
「言ったらディレ君に怒られるし〜……私は逃げさせてもらうよ!」
「逃すとでも──」
「おいで、カーレ!」
どこからともなく現れた軍狼上位種。
魔族の少女はその魔物に乗ってどこかへ行ってしまった。
「……一旦、ハル君たちの所へ戻ろうか」