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【第130話】冒険者、そして機巧メイド。(2)


 「どこにいるんだろう……」


 スールパーチの出入り口付近に辿り着いた僕とティファレトさんは、ユナさんを探し回っていた。


 あの人は本当によく目立つから、どうせこの辺でサイン会でも開いてるかと思ってたんだけど。


「もしかすると、馬車で待機されているのかもしれませんね」 


 ということで僕達は、ユナさんが手配したであろう馬車のいる城門の外へと向かうことにした。


 ちなみにスールパーチは城郭都市であり、どの国でも首都や主要都市はこの形をとっていることが多い(ファレリアやデルク、明瑶(メイヨウ)太珪(タイケイ)など)。


「ああ、ティファレトさんに魔族の冒険者さん。待ってましたよ」


 僕達が城門を抜けようとすると声を掛けられた。

 その人物は、この城門を警備している数少ない生身の衛兵さん。


 基本的に、外から中へ入る際の審査は厳しく行われるのだが、その逆はそうではない。

 そのため、まさか声を掛けられるとは思っていなかった僕は少々面食らった。


「ライゼン様からお二方へ向けた言伝を預かっていまして……“急用が出来たから先に帰ってて!”とのことです」


 僕とティファレトさんは顔を見合わせる。

 正確には、僕が一方的に見つめただけなんだけど。


「えっと、分かりました。ありがとうございます」


 ユナさんが一人で帰ることになってしまうのは若干心苦しいが、どれくらいで用事が片付くか分からないユナさんを待ち続けるのはティファレトさんに申し訳ない。


 ユナさんはS級冒険者だから、こういうことはよくあるのだろう。

 実際、何度かやむを得ず巻き込まれる形でユナさんの“急用”を手伝ったこともある。


「それじゃあ……帰りますか」

「はい」


 そうして、僕達はスールパーチを後にした。



■ ▼ ●



 「つかぬことを伺いますが、ハル様はどちらの出身なのですか?」


 二人だけの客車の中で、ティファレトさんはそう尋ねる。


 現在、この馬車には御者さんを除けば二人だけ。恐らく、ユナさんが気を遣ってくれたのだろう。


「……多分、テオルスじゃないかな」

「多分、ですか?」

「僕、昔の記憶がないんですよ」

「それは大変ですね」


 別に隠している訳でもないし、僕は正直に伝えた。


 このことはフェイを始め、僕の知り合いはほとんど知っている。

 記憶を取り戻すことについて、皆は協力的なのだが、努力むなしく成果は得られなかった。


 どうすれば記憶が戻るのだろうか。


 そして僕が記憶を取り戻した時、本当に純系魔王になることは出来るのだろうか。


「ティファレトさん、僕と手合わせするという話ですが──実は、僕の記憶を取り戻すためのものなんです」

「というと?」


「かくかくしかじかで……」


 僕は、過去に唯一記憶を取り戻したと言ってもいい“悪夢(ナイトメア)”の件や、ディオーソさんや様々な人物との激闘について説明した。


 そして、それによる自身の〝成長〟についても。



 どうしてだろう。僕は今日出会ったばかりのこの人に、全てを話そうとしている。


 ただ、僕の話を聞いてほしかった。



「なるほど……それなら、確かに私は適任かもしれませんね」


 ティファレトさんは、僕の目を見据えて続けた。


「私は、エリート機巧人形なので」

「……それ、決め台詞か何かですか?」


 いつもはラティがいるから何も思わなかったけど──僕って意外と寂しがり屋なのか?


「そうですね、決め台詞の一つです」

「他にもあるんですか?」

「ええ、軽く百は超えてますね。例えば、『おっと、欲張るのはいけないよ』とか……」

「な、何故それをっ……!?」


 それは、かつて僕がエイヴンに向けて放った台詞じゃないか。


「? 今のは先ほど私が適当に考えた決め台詞ですが……これでいつでも引き出せるようになりました」

「僕の名台詞(?)がいとも簡単に……」


 というか、

 ティファレトさんのそれは、もはやただの“言いたい台詞リスト”と言った方が正しい気がする。


「ああ、そうでした。話の続きですが──」


ガタンッ!!


 ティファレトさんの話を遮るように、馬車が突然停止する。


「お、お客様、大変ですっ!!」

「「?」」


 何事かと思い客車から身を乗り出すと、そこには三体の機巧兵士が立っていた。


「これは街道を警備している機巧兵士ですが……どうして正面に?」

「わ、私にも分かりません……」


 その問いに、御者さんは首を傾げる。


 その三体の機巧兵士は、馬車の進行を妨げるように立ちはだかっていた。


「私が何とかしましょう」


 そう言って、ティファレトさんは目を瞑る。

 しかし、直ぐに目を開くと、


「……早い」


 そう呟いた。


「ティファレトさん? 大丈夫ですか──」

「ハル様、今すぐここを離れましょう」


 と、食い気味で告げられる。


「この機巧兵士達の制御権が、()()()私にはありません」

「……」


 ファルパンク国内の……いや、少なくとも今目の前にいる機巧兵士の制御権がティファレトさんの手から離れている。


 これが、ルヴァリさんのいう〝暴走〟なのか……? 聞いていた話とは少し違うみたいだけど。

 確か、機巧の暴走はティファレトさんの暴走と同時期に発生するもので、そもそもそれはもう少し先の話さったはずだ。


 その時、三体の機巧兵士がティファレトさんへ飛び掛かる──。


「もう、長くはありません」


シュンッ!!


 どこから取り出したのか、ティファレトさんの両手には二振りの剣が握られていて、三体の機巧兵士は全て両断されていた。


 音を立てて崩れ落ちていく機巧兵士。

 御者さんは、その突然の出来事に目をしばたたかせた。

 

 ティファレトさんは、その場に立ち尽くしていた。


 そして──、


「──っ!」


 次の瞬間、ティファレトさんは僕の目の前まで迫っていた。

 僕は咄嗟に背中に提げていた剣を直接抜き、彼女の攻撃を防ぐ。


 もし僕が剣を一つしか持ってなかったら、今頃どうなってたことか。


「……」


 ティファレトさんは目を伏せている。


「場所を変えましょうか」


 僕はそう言って、


影蜘糸(アラクネ)


 自身と彼女を糸で包み、浮遊魔法で二人同時に宙へ身を繰り出した。


「……すみません」


 そんなティファレトさんの台詞を聞きながら、僕は人気の無さそうな場所へ向かった。


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