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【第128話】機巧屋さん。


 「こんにちは」

「おっ、ハル君! 早速来てくれたんだね!」


 ということで、僕とティファレトさんは目的のお店へと辿り着いた。

 

 こぢんまりとしていて、そして入り口上部に提げられた『Eris(エリス)』の看板の上にある、ゆっくりと動き続けている巨大な歯車。

 事前に聞いていた外観の特徴だけを頼りに進んでいたのだが、遠くから見ても一目でそれと分かるくらいには聞いていた通りのものだった。


「それと……えっ!?」


 エヌさんは僕の横にいる人物に気が付くと、驚嘆の声を上げた。


「テ、ティファレトさん!? どうしてここに……ウチ、怪しい商売とか一切してないです!!」


 そんな分かりやすく取り乱されると逆に怪しく見えちゃうよ。


「落ち着いてください、エヌ様。私はこの方の付き添いで訪れただけですので」

「な、なんだ……よかった……」


 そのまま床にへたり込まんばかりの勢いで受付テーブルに突っ伏すエヌさん。


 ティファレトさんって有名人なんだな。一応はルヴァリさんのお付きの人みたいだし、人知れず陰で国を支えてるタイプかと思ってたんだけど。

 まあよく考えたら、不滅神話とかあるくらいだし知名度が低い訳ないよな。


「でもまさか、ハル君がティファレトさんを連れてくるとは思わなかったよ……ユナさんは一緒じゃないの?」

「はい。多分、今は馬車の手配をしてくれてると思います」

「いいの? もしかしたらナンパとかされちゃってるかもよ?」


 僕は、腕を組んで一考する。


「大丈夫ですよ。僕たち、相思相愛なので」

「……あれ、カップルじゃないって言ってなかったっけ?」


 ユナさんに限って、その手の心配は杞憂というものだ。

 今までそう言った色恋の話は聞いたことないし、仮に誰かが「暇なら遊ばない?」と声を掛けようものなら「ごめん、今は忙しいからまた今度ね!」と一蹴されて終いだろう。


 忙しいというのが事実なだけに、誰も食い下がることが出来ない最強の断り文句。


 もしユナさんと遊びたいなら、まずは魔王になることだ。


「ユナさんはどう思ってるかは分からないですけど……少なくとも僕は、ユナさんを滅茶苦茶に信頼してますから」


 僕じゃあるまいし、まさか本当に好き勝手しているということはないだろう。


「羨ましいなあ、ウチもそういう友達欲しい!」

「え、いないんですか? 友達」

「言い方!! そりゃウチだって友達はいるし、信頼はしてるけどさ〜……」


 と、言い淀むエヌさん。


「なんていうか、二人みたいな“ピュアピュアに超仲良しですっ!”って感じじゃないんだよね〜」

「分かりますよ、そのお気持ち。私も先ほど、エヌ様と同じような感想を抱きましたから」


「うーん……?」


 いまいちピンとこない僕は首を傾げる。


「ハル君はさ、一日中ユナさんと一緒にいても疲れないでしょ? 何もすることがなくても、一緒にだら〜って出来るでしょ?」

「それはまあ……」


 でもそれは、ラティやフェイ、レンやマルタにも同じことが言える。そもそも、普段は一日中ラティと一緒にいるし。


「そういう友達ってホントに貴重だよー?」

「……えっと、それが“友達”ってものじゃないんですか?」

「ハル君……世の中はね、そんなキレイな人間関係だけで回っちゃいないんだよ……」


 と、悪そうな顔で言うエヌさん。


「一口に“友人”と言っても、その関係性は実に多種多様ですから」


 付け加えるようにティファレトさんは続けた。


「そういうものなんですかね」


 その考え方は、少し窮屈な気がしてしまう。

 程度の差はあれ、人はみな打算的に生きているのだから──それでは、自分が疲れるだけだ。


 どんな価値観や考え方も、結局はただの視点の一つでしかないし、何が正解とかは言うつもりもないけど。


「あ、そうだ! 折角来てくれたんだし、ウチ自慢の機巧たちを見てってよ!」


 と、思い出したかのようにエヌさんは手を打った。


「そうですね。具体的にどういう系統のものがあるんですか?」


  軽く辺りを見回してみても、多くの物が並べられている訳ではなかったので、僕は訊いてみる。


「そうだね〜、結構幅広いジャンルのものを取り扱ってるよ。日常用品から冒険者用品までいろいろあるね。基本的にはオーダーメイドだから、もし欲しいものがあるなら聞くよ?」


 なるほど。それならお店が広くある必要はないし、店内に人がいないのにも納得がいく。


「エヌ様の腕はマスターのお墨付きですから、何か依頼されてみるのもいいかもしれませんね」

「ぜひともそうしたいところではあるんですけど……取りに来れるかだいぶ怪しいんですよね」


 魔王会談も控えてるし、それと同時に僕が魔王であることが世界中に公表される。そうなれば、僕は街を変装魔法無しに出歩くことが難しくなるだろう。


「えっ!? もしかしてもうスールパーチに来ないのっ?! え〜ヤダ〜もっと話したい〜!!」

「そういう訳じゃないんですけど……」


 それに僕は魔王会談以降、常時“魔神化状態”でいるつもりだ。

 少し大げさかもしれないが、僕は本格的に天下を取りに行こうと思っている。


 世界征服するとかそういう意味ではなく、記憶を取り戻し、純系魔王へと進化する──これが今の目標。


 ノアさんと時臣さんが帰ってきたら、うんと驚かせてあげよう。


「……」


 まあ、エヌさんには言わなくてもいいか。

 ティファレトさんはどうせ後で気付くし。


「不定期に暇になると思うので、その時に取りに来ようと思います」

「そうして!」


 馬車でなく、僕自身の足で移動すれば往復四日前後に短縮出来るし、それくらいの時間ならつくれると思う。


「それじゃあ、一つ依頼してもいいですか」

「何なりと!」


 エヌさんが作れるかどうかは分からないけど、エリルマーナのために()()を作ってあげよう。


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