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【第123.5話】一方その頃。


 「なあなあ、いつ戦うんだ?」

「……」

「……」


「もう夜だぞー?」

「……いや、うむ」

「諦めろ、シャトラ。このままではイオが痺れを切らして屋敷が崩壊するのがオチだぞ」


 我が主様が屋敷を離れた日の夜。ついにこの時が来てしまった。


 非常に面倒臭い。最初の頃(千年ぐらい前)はまあまあ楽しく相手をしていたが、今となってはただただ面倒となってしまった恒例行事。


 何故かイオはあまり知らない相手とは戦おうとしない。そのせいで毎回妾達が戦うことになる。

 常識があるのかないのかよく分からんが、兎に角手の掛かる奴であるということは間違いない。


「イオ、二つ約束をしてくれぬか。一つ、屋敷を壊さないこと。二つ、妾が勝ったら暫くおとなしくしていること。()いな?」

「もちろんだぞー!!」


 と、目を輝かせるイオ。


 勝てるかどうかは怪しいが、ベルクロエがおれば何とかなるじゃろ。深夜まで時間を稼いで、後は放り投げれば良い。


「よし、表に出るぞ」


 少し騒がしくなってしまうな。

 スライム娘には悪いが、やむを得ん。


 さっさと終わらせてしまおう。



■ ◆ ◇



 『まさかレンがいるとは思わなかったが、おかげで早く片付いた! ありがとな!』

「こちらこそ、とても助かりました」


 テオルスでの任務の途中、同じS級冒険者のレンと合流した。

 彼女は最近S級になったのだが、とてもよく頑張ってくれている。倒れないか心配になるくらいだ。


 それから協力して任務を終わらせた俺達は、ハルの屋敷に向かうことにした。お互い空を飛べるので、移動にはさほど時間を要さなかった。



「送ってくださってありがとうございまず、ギルさん」


 そう言って深くお辞儀をする龍人族の少女。


 ダルターニャとは真逆だな。もしアイツだったら、“送らせてやったんだから感謝するにゃ!”とか言ってたぞ、絶対。


 ()()S()()でもここまで差が生じるものなのか? 幸いなことに、二人は同期として仲良くやれてるみたいだが……どうせレンがうまいこと合わせてるだけなんだろうな。


『ああそうだ、ハルによろしくな』

「はい──」


 レンが屋敷の中に入ろうと扉に近付くと、

 手を掛ける直前に扉が開く。


「本当に久しぶりだぞ! 腕が鳴るなー!」


「えっ」

『はっ?』


 扉が開き、そこに現れたのはイオ・サンライト。

 純系魔王にして、〝太陽の御子〟という二つ名を持つファイヤードレイクの少女。


『な、なんでお前がここに……』

「ん? おおっ、オマエはあの時の!!」


 イオは俺に気付くや否や、勢いよく指をさす。


「おい、喧しいぞ。まだ始まっとらんというのに……ん? お主は機巧の……」

「久しいな、ギルよ」


 続けて現れたのは、ハルの影に潜んでいる影の魔人と、現在この屋敷に住んでいるという偉大なる吸血鬼。


 まあこの二人はいいとして、どうしてイオがここに……?


「決めたっ! イオはコイツと戦うぞ!!」

『「はあ?」』


 影の魔人と声が重なる。


「コイツと会うのはこれで三回目だからな! もう知らないヤツじゃないぞ!」

「……なるほど」

『いや納得出来ねぇよ!!』


 なるほど、じゃないが。


「あの、クロエさん。どうして太陽の御子がここに……?」

「ああ。どうやら、ハル達が冒険者ギルドに寄った際に遭遇したらしくてな。最終的にマルタに押し付けられる形で付いて来たらしい」


 何やってんだよあの猫。

 マジで、知り合いの猫獣人にロクな奴いないんだけど。


「よかったなイオ、この男は強いぞ。存分に楽しむが良い」

「知ってるぞ! 初めて会った時から戦ってみたいと思ってたんだぞ!」

『いや待て待て、なんで俺が戦う流れになってんだよ!!』


 すると影の魔人はにやりと笑う。


「悪いな、妾の代わりに犠牲になってくれ」

『ぎ、犠牲って……』


 縋るようにレンとクロエに視線を送ると、すーっと目を逸らされる。


 俺、今から純系魔王と戦わされんの?


『どうなっても知らねえぞ……』


 緊急の用事がある訳でもないし、戦うだけならいつもの任務とほとんど変わらない。ただ、相手がめちゃくちゃ強いってだけだ。


「待て、もう少し離れた場所でやってくれぬか──」



『ライジング・サン──!!』


 と、いきなり問答無用の突進を繰り出してくるイオ。


 流石に喰らう訳にはいかないので、横へ飛び退く。


「甘いぞっ!!」


 驚くことに、イオは突進の挙動を直角に曲げ、こちらへ高速で飛んでくる。


『あの速度でそれ曲がれんのかよっ!』


──ドンッ!!


 慣性を感じさせない馬鹿げた突進を喰らった俺は、ふっ飛ばされるかと思いきやそのままホールドされる。


 そして、イオ(と俺)はそのまま上空へと高速で昇っていく。


「おお、久しぶりに見たな。あの初見殺し」



 高度とともに上昇していく周囲の温度。

 並の火属性魔法を優に超える熱量。


 マズいな、何をされるか分からないのがマズい。

 対処を間違えれば木っ端微塵にされる可能性がある。



 仕方ない────、


 ────俺も全力で抵抗させてもらおう。



『ゼロフォールッ!!』


 周囲の(エネルギー)(ゼロ)に収束していく────。


「おおっ!?」


 辺りに満ちていた高熱は消え失せ、推進力を失ったイオは反射で俺の身体から手を離す。


 しかし、一瞬で状況を理解したイオは再び上にいるこちらに向けて突撃してくる。

 先ほどとは違い、シンプルな近接格闘による戦闘に持ち込む気らしい。


 だが、それに付き合うつもりはない。


 俺は空中で体勢を整えると、右拳に大量のエネルギーを集中させる。



『メテオライト・EX(エクス)・ドライブ──ッ!!』



 ガシャン! という音とともに変形した右腕──その右腕を超加速させ、拳を振り抜く。

 その拳は容易に魔王結界を貫き、イオの腹部に命中する。



──ドガアアアアアンッッ!!



 命中してから一秒も経たない内に、上空と地上で激しい轟音が鳴り響く。



「あっつ……」


 俺は右手から右肩にかけて融解し始めていた装甲を一瞥し、大きなクレーターの出来た地上を見下ろした。


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