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【第124話】そういうお店。


 「この辺で面白い場所といえば、やっぱりそこにある道具屋さんかな? 道具って言っても、機巧から薬草まで幅広い品が揃ってるんだよ! ウチもよく来るし……というか、さっき行ったばかりだしね!」


 道具屋……勿論選択肢としては悪くないんだけど、中にはユナさんがいるんだよな。

 別にユナさんに会いたくないとかじゃなくて、エヌさんを連れた状態で会うのはあまり望ましくない展開になりかねない。


「……僕もさっき行ったので、そこは飛ばしましょうか」

「あれ、そうなの? あ、道具屋の前に立ってたんだしそりゃそうだよね! ごめんね〜気が利かなくて……」


 少し悲しそうな顔で「あはは」と笑うエヌさん。

 非常に心が痛い。

 

「んーそれなら、やっぱりあそこかな?」


 と、裏路地の方を見る。


「あそこに何かあるんですか?」

「まあまあ、とにかく付いておいで! 男の子には特に人気のお店なんだよ〜!」


 男の子に特に人気──もしかして、ギルみたいな装甲機兵に変身するための道具が売っていたりするのだろうか。

 僕にはあまり必要ないかもしれないけど、一つは持っておきたい。カッコいいし。



 入り組んだ路地裏を少し進んで行くと、そこには怪しげなオーラを放つお店があった。


「……えっと、ここですか? めちゃくちゃ怪しいですけど」

「気持ちは分かる! でも大丈夫、入れば分かるから!」


 と、背中を押される形で扉を開け、中に入ることにした僕。

 そこにはお洒落な雰囲気の空間が広がっていて、僕達以外にも十人弱のお客さんがいた。


「いらっしゃいませ〜! 初めて来店されるお客様ですね?」

「あ、はい」


 突然目の前に飛び込んできた一人の女性。

 驚くことにその女性は獣人らしく、頭の上で耳がちょこちょこと動いており、肌の部分がふさふさとしていた。


 やはりマルタが珍しいだけで、普通はこういう“ケモノ!”って感じの容姿だよな。


「やっほ、久しぶりだねリーエちゃん!」


 と、僕の背中からひょこっと顔を出すエヌさん。


「あ、エヌさん! また来てくださったんですか?」

「えへへ、来ちゃいました〜」

「お待ちしておりました! お二方、こちらへどうぞ!」


 奥の席へ案内される僕とエヌさん。


「このお店はどういうお店なんですか?」


 未だにこのお店の全容が掴めないけど、あちこちに可愛いらしい女性の方がいて、とても目の保養になることは確かだ。


「え、まだ分からないの!?」

「え? まあはい……ちょっと分からないです」

「うわー、イマドキ珍しいね! 超レアだよ! もしかしてハル君、女の子に興味なかったりするの??」

「いえ、超大好きですけど」


 即答。


「あはは、それならよかったよ! ここはその超大好きな女の子とお話出来る場所なんだよ!」

「え、最高じゃないですか」


 なんだそれは、楽園か? 普段あまり女性と話す機会がない僕にとって、ここほど素晴らしい場所はないぞ。


 初めての土地、尚且つ初対面の相手を案内する場所として適切かどうかは兎も角(やましいお店ではない)、確かに男性ウケが良いのは間違いない。


 そもそも、近場と指定したのは僕の方だし。


 ラティがいたら来れなかった(絶対止められてた)だろうけど……悪いねラティ、今の僕は自由なんだ────。



〜一方、その頃〜



 「どうされたんですか? ラティさん。そんなムスッとした顔をされて……」

「いや、何故かは分からぬが少しイラッとしてな。気にするな」

「ふふ。もしかして、ハルお兄さんがいなくて不安ですか?」

「はっ、抜かせ。不安になっとるのは寧ろ彼奴(あやつ)の方じゃろ」



〜そして、スールパーチにて〜



 「へえ〜! ハルさんは冒険者をされてるんですね! 一人で活動されてるんですか?」

「いえ、一応パーティみたいなものは組んでますね」


 実は僕、魔王なんですよ! とかここで言い出す訳にはいかないしな。若干濁した言い方になるのは仕方ない。


「それじゃあ、こんな所に来たのがバレたら怒られるんじゃないですか〜?」


 と、エルフのお姉さん。

 このお店には様々な種族の店員さんがいる。勿論、人間の店員さんも。


 そしてどうやら、こういったお店はどこの国にもあるらしく、それはテオルスでも例外ではないとのこと。


 僕は今まで一度も見たことないんだけど……帰ったら探してみよう。


「あはは、怒られないと思いますよ。僕が何をやらかしても笑って許してくれるような、優しい人たちなので」


 思い返してみると、皆には迷惑を掛けてばっかりだな。改めて、もっと皆を大切にしなきゃ────。



〜その頃〜



 「彼奴のことじゃ、妾達の目が無いのをいいことに、見知らぬ女を口説いておるかもしれぬな」

「ふふ。もしそんなことをしてたら、流石にブチギレですよ」

「冗談に聞こえんのじゃが……ブ、ブチギレ……?」

「へ? わたし、冗談なんて言ってませんよ?」



〜スールパーチにて〜



 「ええっ!? ハルさん、A級冒険者なんですか?!」

「それウチも初耳だよ! すごいじゃん、A級だなんて!」


 うわ、ここで「実は魔王です」って言ったら皆がどんな反応をするのかめちゃくちゃ気になってきた。


「あ、冒険者といえば……今この辺りに、S級冒険者のユナさんが来てるって聞きましたよ?」

「そうなのっ?! ウチ、今度こそちゃんとお話してみたいなー。前は緊張して何も話せなかったし……」


 流石ユナさん。やはり目立つというか、目撃情報が出回る速度が尋常じゃないな。


「僕も一度でいいから会ってみたいです────」


バンッ!


 と、突然勢いよく入り口の扉が開く。


「いたーーーーーっ!!」


 そこにいたのは、赤髪の冒険者。

 たった今話題に挙がったばかりの、S級冒険者だった。


「ユ、ユナさん……」


 こちらにずかずかと近付いてくるユナさん。

 当然、店員さんや他のお客さんの視線は釘付けになっていた。


「用事は済んだんですね、それじゃあ行きましょうか。エヌさん、案内ありがとうございました────」

「いやいや無理だから」


 無理か。


「あのねハルくん。少しの間遊んでていいとは言ったし、たしかに近場だけどさ、これは流石にどうかと思うよ??」

「はい、仰る通りです」

「ボクは理解あるからいいけどさ、ラティちゃんが知ったらどう思うか考えてよ!」


「“まあ、今更何か言うほどのことでもないじゃろ”って言うと思います」

「……フェイちゃんが知ったらどう思うか考えてよ!」


「“ハルさんって、ちゃんと大人の女性に興味あったんですね!!”って言うと思います」

「…………レンちゃんは?」


「えっと、“わたしは気にしませんよ!”……とかですかね?」

「レンちゃんだけ解像度が低いっ!!」


 そうかな、すごく言いそうだけど。レンは優しいから基本的に何でも許してくれるし……これって解像度低いの?


「あ、あの〜……」


 と、恐る恐るといった様子で僕たちに声を掛けるエヌさん。


「お二人は一体、どういう関係なのでしょうか……?」


 この時代に“解像度”というワードは不適切かもですけど、それは気にしたら負けです。

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