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【第121.5話】不死なる者と不視なる者。

 布石兼ちょっとしたキャラ掘り下げ回です。


 「準備はいいか?」

「十全ですっ!」


「よし、それでは出発しよう」


 リーダーから例の作戦についての詳細を聞いた翌日、私達は早速ヴェルナ山脈に向かうことにした。


 魔王会談までに片付ければいいという話だったのだが、何事も早めに取り掛かった方が利点が多い。時間は有効活用すべきだ。


「しかし、暫く主殿に会えないと思うととても寂しいです……」

「仕方ない、リーダーは忙しいからな。私達と共にウェルナ山脈に向かうのは難しいだろう」


 リーダーは今、最近現れたという新勢力と事を構えているらしく、何やら攫われてしまった知人を救出しに行くのだとか。


「それに、折角リーダーが任せてくれたんだ。最高最良の成果を持ち帰ろう」

「はいっ!」



 思えば、リーダーと出会ってからもう三ヶ月か。当時はただの変人としか思っていなかったが、まさかこうして魔王軍の一員として傘下に入ることになるとは。



“このままこの場所で冒険者に喧嘩を売られるくらいなら、僕と一緒に来ない? 多分、そっちの方が面白いからさ”


 無数の同士の核と、多くの人間の死体が散在している“ハンサナ大湿地”で、リーダーは私にそう言った。


 誘い文句にしてはあまりに適当で、ロマンや魅力の欠片もないセリフ。

 だが、あの時の私にはそれだけで十分だったのだろう。あんなことがあったというのに、我ながら軽率過ぎるとは思うが。


 もしかしたら、疲れ果てていたのかもしれないな。

 簡単に居場所が手に入るのならば、何でもよかったのだろう。


 結果的に、この選択は私の生き方を大きく変えた。



 かつては平穏を求めていたはずの私が、今や居場所を守るために“屍人(ソンビ)の頂点”を目指しているのだから。



「ここからウェルナ山脈となると、三、四日は掛かりそうだ」

「あの辺りは馬車が通っていないので、徒行しなければいけないというのがなんとも……ですが、主殿のために精一杯頑張りますっ!!」

「咲刃は浮いているじゃないか」


 というか、そもそも馬車に乗れるのだろうか。


「以前主殿にも言われましたけど、咲刃にも疲労というものはありますよっ!!」


 この咲刃という名前の少女は、現時点では最後に魔王軍に入った『亡霊(ゴースト)』の魔族。

 彼女は自ら魔王軍への加入を志願したらしく、私はとても驚いた。


 “そんな物好きがいたのか”という意味ではなく、“リーダーの存在を知っていたこと”に対してだ。


 リーダーが魔王だということは、本人から直接聞くまで私は知らなかった。

 しかし咲刃は最初からそれを知っていて、どこにいるのか(屋敷の位置)すらも知っていたのだ。


 リーダーはそれについて特に気にしている様子はなかった。まあ、リーダーからしてみればさほど重要なことでもないのだろう。


 しかしやはり、それを抜きにしても彼女を包むベールはあまりにも厚い。


 例えば、『亡霊(ゴースト)』という一般的な種族の範疇を明らかに超えている幾つもの優れたスキル。

 亡霊である彼女が人の形を成している以上、少なくとも百年は生きているのだろう(若い亡霊は人魂の姿であることが多い)。


 そして、詠唱に加えて印を結ぶことによって発動させる『桜華流忍法』という「魔法とスキルの融合技」の数々。


 戦闘能力、隠密能力、豊富な知識、独創性、勘の鋭さ、謎に包まれた素性──まさに多才……いや、多彩な存在なのだ。


 だからこそ、未だに『亡霊』という種族に留まっていることに疑問が湧く。


 彼女が何の目的で魔王軍に入ったのかは分からない。もしかしたら、ただ単純に“亡霊(ゴースト)の頂点”を目指しているのかもしれない。


 いずれにせよ、彼女のあの忠誠心に偽りはない。



 ────故に、私は気になる。



 彼女が何者で、何を成そうとしているのか。

 その上で、何者に〝成る〟のか。



「なあ、咲刃──もし、魔王軍の中で誰よりも強くなったらどうする?」

「えっ?」


 突然の質問に、きょとんという顔をする咲刃。

 考えるような仕草をしたかと思うと、すぐに妖しく微笑む。



「ヒミツですっ!」



 と、咲刃は口元に人差し指を当て片目をつむり、

 そう言い終えるや否や、丁寧に扉をすり抜けて部屋を去って行った。


「……そうか」


 良い()だ。

 彼女には、ビジョンがあるのだろう。



「私も負けてられないな」


 私は、彼女に続くように部屋を出た。


 

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