【第121話】おつかい。
「──ってことがあったので、純系魔王目指してます」
「ノアちゃんが聞いたら卒倒しそうなセリフだね……」
「我は応援しているぞっ!」
次の日、僕は冒険者ギルドに訪れていた。
隼たちの様子を見に来たのと、例のロストについて話したいことがあったためだ。
ちなみに、例の四人は現在休養をとっているとのこと。
「お二人は純系魔王の方と知り合いだったりするんですか?」
「んー、知り合いではあるね。といっても、イオちゃんとミザナにはたまーに会うくらいで、アルデリクスには滅多に会わないよ。忙しいからっていうのもあるんだろうけど」
アルデリクス……純系魔王でありながら、魔族国家レルムスの国主という特殊な肩書を持っている。一応、ほとんどの魔王は自身が治める領地を持ってはいるのだが、正式な国として興っているのはレルムスのみ。
「我はつい先日、太陽の御子に会ったぞ! 人を探していたみたいだが……興奮し過ぎていて何を言っているのか分からなかったゆえ、適当に聞き流すことになってしまった! わっはっは!」
と、クロエさんもといユエさん。
笑い事じゃないというか結構可哀想なんだけど、仲良いみたいだしいい……のか?
「魔王なのに自ら人探しするんですね」
「あー、イオちゃんってすごく信頼できる部下が一人いるだけだから、単純に人手不足ってのもあると思うよ。事情があって自分からそうしてるんだけどね」
へえ、意外と僕と似たような感じなのか。人探しくらいなら手伝ってあげたいけど、どこにいるか分からないしな。イグニア・マウンテンが活動拠点って話だけど。
(彼奴は人懐っこいからな、その辺で見掛けることがあるやもしれぬぞ)
そんなちょっと珍しい魔物みたいに……というかやっぱり皆、魔王との距離近いよね。
(別に彼奴らは悪の大魔王という訳ではないからな。とはいえ、昔はもう少し好き放題していたんじゃが……)
それから少ししてマルタの部屋の前まで辿り着いた僕達。
早速扉を開けようとすると、中から、
「おおっ分かったぞ! イオは今から来るクロエたちを驚かせばいいんだなっ!?」
「ちょ、声が大きいよー……」
という声が聞こえてくる。
「……」
「……」
(……)
「……えっと、これはどうするのが正解なんですか?」
「……思いっ切り驚いてあげようか」
■ ▼ 〇
「ということで、太陽の御子ことイオ・サンライトちゃんだよ。仲良くしてあげてね、だーりん」
朱色の長髪に真っ赤な瞳、そして赤い両角。ファイヤードレイクだからかは知らないけど、こちらにも温かい空気が伝わってきている。
「……うん」
まさか魔王会談より早く会うことになるとは思わなかったな。本当にその辺で見掛けるレベルじゃん。
「いじめちゃダメだよ?」
「大丈夫、マルタしかいじめないから」
「やん、うれし〜」
思ってた反応と真逆のやつ返ってきた!
「おいっ、離れぬかっ!」
「久しぶりだな〜! ずっと探してたんだぞ〜〜っ!!」
横を見てみると、イオに抱き着かれているラティ。
うむ、仲が良いようで何よりだ。
「それで、これはどういう状況なの?」
「んーとね、人づてに魔人さんのことを聞いたみたいで、あちこち探し回ってたみたい」
「ああ、人探しってそういう……まあ楽しそうだし、あの二人はそのままにして話を進めようか」
「な、何じゃとっ!?」
「ごめんラティ、幼女は幼女らしくそこで戯れててくれ。今から僕たちは大人の話をするんだ」
「妾も此奴もお主より年上じゃ──ぐあっ!!」
「わははっ、シャトラはこっちでイオと遊ぶんだぞー!」
と、引きずられて部屋の隅まで連行されるラティ。
「……それでロストについてなんだけど、老魔法使いには逃げられちゃったんだよね」
多分僕のせいだけど。
「まー仕方ないと思うよ。裏には彁羅がいるし、一筋縄じゃ行かないよ」
「……?」
「……?」
「……それ、初耳なんだけど」
「ボクも初めて聞いたんだけど」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「……マルタには後で話があるとして、どこに逃げたか分かったりしない?」
「分かるっちゃ分かるけど、今は追わなくていいかな。どうせまた逃げられちゃうし、誰かが捕まってる訳でもないしね」
ということは、この間助けた四人で全員なのか。てっきりもっといるものだと思ってたけど……思い返してみれば、あの老魔法使いも『四人目』とか言ってたな。
あの言い方からして隼たちが計画の中心かと思ってたのに、すんなりと手放したのには驚いた。
「む、それでは何故我を呼び付けたのだ? 緊急の用があると聞いていたのだが……そのロストとやらを追うのではないのだろう?」
「クロエにはあの四人の訓練に付き合ってもらおうと思ってたんだ。自分じゃまだ力を制御し切れないみたいだからね」
「そういうのはラーくんが最適なんじゃない?」
「ラスタリフは別件で動いてもらってるから、今は手が離せないんだよね」
まあ確かに、スキルで考えたら最適人はラスタリフさんだよな。
しかし、クロエさんとて決して劣っている訳ではない。
究極の〝模倣〟であるラスタリフさんに対して、
究極の〝創造〟であるクロエさん。
この二人が手を組めば向かうところ敵なし、文字通りの無敵だろう。
「あれ、それじゃあボクたちはどうして呼ばれたの?」
ユナさんが尋ねると、マルタは胡散臭い笑みを浮かべる。
「二人には、おつかいを頼もうと思ってね」