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【第120話】魔神化、その真実。


 「はあ……」


「あの、ハルお兄さんは一体どうされたんですか……?

目に見えて萎れてますけど……」

「ああ、色々あってな。少々メンタルがやられておる」


 そんな二人の会話を、テーブルに突っ伏しながら聞いている僕。


「もう無理かも……」

「大丈夫なのか? かなり限界に見えるが……」


 と、クロエさん。

 ソファに座って足を組んでるだけなのに、何故か威厳を感じる。


 あれから僕は、ユナさんと別れて屋敷に帰っていた。

 あのままヴェルナ山脈に寄って咲刃とゼーレの様子を見に行く予定だったけど、萎えたので大人しく帰宅することにしたのだ。


 僕が救助した二人と、ユナさんが救助した二人は現在冒険者ギルドで保護されている。

 恐らく今は、セトさんの診察を受けている頃だろう。


 失踪した冒険者ギルドのメンバーは見つからず、結局は無関係。まあマルタは何も言ってなかったし、希望的観測でしかなかったんだけど。


 今はそれよりも────、


「僕、二重人格かもしれない……」

「おお、ユエと似たようなこと言い出したぞ」 


 日に日に自分を制御出来なくなってる気がする。

 いつもの人に近い姿の時より、魔神化してる時の方が遥かに冷静だ。


「何か心当たりはないんですか?」

「うーん……特にないかも」


「ならば、其方(そなた)は元からそのような性格だったのではないか?」

「……それならいいんですけどね。僕が普通に最低なヤツってだけの話なので」


 キリエさんの思考乗っ取りみたいに“気付いたらやってました”とかじゃなくて、“それが正解だと信じてやったけど、実は間違ってました”って感じなんだよな。


 前々から時折おかしな行動をしていた自覚はあるけど、それはちゃんと自覚の上の行動な訳だし。



「……二重人格、か。なあ、ずっと考えておったことあるんじゃが──」


 と言って、ラティは話を切り出した。


「お主の魔神化は、それによって自身の力を大きく増幅させているが──その本質は“回帰”なのではないか?」

「……どういうこと?」


「以前お主の潜在属性を確認した際、それが光と闇であったという話はしたよな?」

「うん……だから、僕は勇者と魔王の血縁なんじゃないかって話だよね」


「ああ。お主が自身の魔力で魔法を使えるようになったのもそのタイミングじゃろ? それは要するに、“元に戻った”ということでもある」

「……つまり?」


「お主の〝魔神化〟とは、“力の増幅”ではなく“封印の解除”なのではないかという話じゃ。この二つは似て非なるものでな──100%を150%に引き上げるのが力の増幅で、50%を100%に戻すのが封印の解除と言えば分かりやすいか」

「……もう一声!」


「〝半魔神〟としてのお主は50%、つまり不安定な状態……そして、魔神化したお主こそが“本来の姿”、素の状態なのではないか?」

「……なるほど」


 今の話を少しだけ噛み砕くと、普段の僕は“力を縛っている状態”であり、魔神化した僕こそが“本当の僕”だということ。


「普段のお主は力を強く制限している不安定な状態ということになり──それにより感情や思考も不安定になっているのではないか、というのが妾の考察なんじゃが……お主はどう思う?」

「その理屈だと、僕は常時魔神化が出来るってことになるね」


「ああ、それについても確認済みじゃ。今までお主は、自己判断以外で魔神化を解除したことは()()()()()()()()。典礼の際も、妾がお主を操って解除させたからな」


 僕がかつて、呪いのせいで魔法が使えなかったのと同じように、僕は無意識の内に“力の封印”によって自己を抑圧している可能性があるということか。


 しかし、今の僕が引き出せる魔神の力は60%。完全に制限を取り払えていない以上、程度の差はあれ不安定であることには変わりないだろう。


 まあこれは今後の成長次第だな。


「更に言えば、お主のそれは正確には『“影”の魔神化』じゃからな。これは相伝スキル『影術』と『成長者』、そして『魔神化』が噛み合った故の産物であると考えられる。だとすれば、今は何らかの原因で封じられているだけで、元々お主は『魔神化』が出来たのではないか?」



「────だから今のお主は、“半魔神”なのではないか?」


 その考察に、その場にいた全員が口を噤んだ。


 僕の素である魔神化状態。


 現在はその場所に〝影の魔神化〟があるというだけで、本来は通常の〝魔神化〟があるのではないかという話。


「とまあ、ここまでは妾が()()()()()()()()()考察でな」


 そう言って、ラティは話を続ける。


「半魔神であるお主が〝魔神〟になるためには、種族をもう一段階進化させる必要がある訳じゃが──」


 魔王に成って亜人族から半魔神に進化したように、半魔神から魔神になるためには同じプロセスを辿る必要があるということ。


「魔王となった魔族が、種族を更に進化させる方法。それは、長き歴史を遡ってもたった一つしか存在しておらぬ」

「……まさか」


 と、クロエさんが何かに気付いたように言う。

 それに続くように僕も気付く。


 というか、先ほどから薄々気付いてはいた。



「お主よ。『魔神化』の解放及び、“完全なる魔神”への進化条件は────」



 ただ、にわかには信じられないというか。


 それがもし本当なら、僕はその()()を持っているということになる。


 それは現在、世界に三人しかいないとされている正真正銘の“最強”である彼らと同じ素質。



「────〝純系魔王〟への進化なのではないか?」



 ラティのその言葉は疑問形の推測でありながら、断言していると言ってもいいほどの“説得力”が確かにあった。


 僕は、それを補足するように言葉を繋ぐ。



「そして、僕の純系魔王への進化条件は────」



 僕がラティの方を見ると、ラティは静かに頷いた。



「────記憶を完全に取り戻すこと、かな」



 僕は一体何者なのか。

 僕と勇者と魔王の繋がりとは一体何なのか。

 あの時見た夢の記憶では一体何が起きていたのか。


 そもそも、どうして僕は記憶を失っているのか。


 僕はその全てを、解明しなければならない。


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