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【第119話】魔王の力。


 「ああ、大変だ」


 まさか、隼と戦うことになるなんて。

 きっと、奥にいるあの女の人に操られているのだろう。


「戦って、助けなきゃ」


 あの女魔法使いを倒して、二人を助けなきゃ。


蛇之眼(ジャノメ)


「……!」


 隼の隣にいる女性に睨まれたかと思うと、突然身体が硬直し、ぴくりとも動かなくなる。

 そして、同じタイミングで隼が拳を構えてこちらへ突撃してくる。


 僕にはなす術がなかったので、大人しくその一撃を受けることにした。


「はぁぁっ!!」

「……っ」


──ドォォンッ!!


 隼の繰り出した攻撃は腹部へ直撃し、僕はそのまま後方へ勢いよく吹き飛ばされる。


 見た目以上、とんでもない威力だ。

 魔王結界を貫通した時点で、その辺の冒険者のそれとは一線を画している。


「ちょっと、こんなに早く終わったら話にならないんだけど?」


 強いな、良いコンビだ。


 あの女性が後衛で妨害、隼が前線で戦うといった感じだろう。


 ああ、楽しいな。

 ずっとこうしていたい。


「……安心して。僕はまだ生きてるよ」



『──影嵐(テンペスト)


 僕は糸で二本の剣を引き抜き、影刃を付与した糸八本の計十本の糸による無差別範囲攻撃を放った。



 すぐさま二人は後方へ飛び退く。

 それに合わせるように影嵐の範囲を徐々に広げていく。


「チッ、ちょっとアンタたち! 早くなんとかしなさいよっ!」


『蛇之眼──』

失われた光シャドーライト・シフト


「──っ!!」


 動揺、そして動く身体──やはり、発動するには対象を視界に入れる必要があるのか。


 僕は影嵐を解除してその女性との距離を詰める。


「な、何よこれっ!」


 まずは二人の無力化からだな。あのよく喋る女魔法使いは後でもいい。


「はっ!!」


 いち早く僕の動きを察知してこちらへ飛び込んできたのは隼だった。


 ……僕が見えてるのか。隼の持っているスキルはなんだ?


纏衣無縫(てんいむほう)


 左脚を強化し、隼の右拳に蹴りを繰り出して攻撃を相殺する。


「参ったな、今ので君は吹き飛んでる予定だったんだけど」

「……」


 左拳、右拳、左脚の順番で繰り出される攻撃を続けて相殺する。

 そして僕が剣糸による一閃を繰り出すと、隼は飛び退く。


『蛇之眼!』


 あ、やば。忘れてた。


 一瞬の硬直、その隙を隼が見逃すはずもなく────、


「ぐっ──!」


 先ほどより重い一撃を受け、壁に強く衝突する。


「痛……」


 今ならシリウスさんの侵略支配(インベージョン)を喰らったディエスの気持ちがよく分かる気がする。


 というか、いざ戦うってなったらまあまあ狭いなこの部屋。


(おい、いつまで遊んどるつもりじゃ)

 やだな、真剣にやってるよ。強いんだって、あの二人。


(そうか。では、()()はおろか、魔神化すら使わぬ理由を訊かせろ)


 ……この戦いが終わっちゃうから。


(はあ……呆れてものも言えんわ。お主、自分が何のためにここに来たのか忘れたのか?)

 それは……分かってるよ。


 操られているとはいえ、異世界から来た人と戦える機会なんてそうそうないんだ。もう一人も異世界の人なのかは知らないけど……それでも、強ければなんでもいい。


「やっと見えるようになったわ……まったく、ビビらせてくれたわね」


 自分は戦わないくせに、口だけは達者だな──あの女魔法使い。

 まあでも、あの人を倒しちゃうと二人が正気に戻っちゃうかもしれないし、勿体ないよな。


影蜘糸(アラクネ)


「!!」

「くっ!!」


 二人の拘束に成功した僕は、剣糸による斬撃を放つ。


 さて、二人はこれをどうやって突破するのだろうか。隼のスキルはまだ確認出来てないし、もしかしたら面白いものが見れるかも────。


「きゃっ──!」

「ぐあっ!!」

 


 しかし僕の予想に反して、二つの剣は容易く二人を斬り裂いた。

 二本の剣からは、血がぽたりぽたりと地面に滴り落ちている。


「……っ!」


 ……ま、待て。何してんだ僕は。

 なんで助けなきゃいけないはずの二人を攻撃してるんだよ。


 二人を正気に戻すのが僕の役目じゃないのか。


──サァァァァ……


(やっとか……)

 ……ほんとごめん。


影掌底(えいしょうてい)


 一瞬で女魔法使いとの距離を詰め、腹部に鋭い一撃を繰り出す。


「かはぁっ!!」


 魔神化状態の僕の動きを追えるはずもなく、女魔法使いは後方へ吹き飛ばされていく。


 結局、僕はあの二人を傷付けただけじゃないか。


 時々、自分が何をしているのか分からなくなる。

 理屈より感情、他者より自己を優先してしまう。


 面白い面白くないとか、

 それ以前の話だろ、これは。


 ()()()()()()()()()()()()()()


 ただ、自分を満たすためだけの戦いをしてしまう。

 これじゃ僕は、魔物と一緒だ。


 ……さっさと終わらせてしまおう。



『魔王結界────』



 これは『月詠(ツクヨミ)』を失った僕が、その穴を埋めるために生み出したスキル。


 魔王結界に改良を加え、独自のものへと進化させた結界。



『〝冥廟(めいびょう)〟』



 僕の影から大量の影が溢れ出し、一瞬にして部屋全体が暗黒へと染まる。


 ────いや、恐らくはこの廃城全体が僕の影一色になっているだろう。



「たった今から、この廃城では僕が〝規則(ルール)〟だ」


 冥廟──その効果は範囲全域の事象の知覚、影術の強化及び発動範囲の拡張、そして一喰い(デバウアー)によるあらゆる魔法及びスキルの〝無効化〟。


 もし魔法やスキルを発動してしまうと、詠唱の有無に関わらずそれらは喰われ、一時的に使()()()()となる。

 パッシブスキルは範囲内にいるだけで効果を失い、発動中の魔法も全て破棄される。


 欠点を挙げるなら、ディオーソさんの(ゲヘナ)とは異なり()()()結界ではないため、効果範囲から出ようと思えば出ることが出来てしまうということ。


 逆に言えば、外へ出ることが難しい屋内では無類の強さを誇る。



精神操作(マインドコントロール)か……なかなか精度が高いね」

「……!!」


 事象の知覚──僕は今、この廃城で起きている文字通り“全ての事象”を把握している。

 どんな魔法やスキルが発動しているのか、誰かどこで何をしているのか、その全てを知っている。


「ごほっげほっ……無茶苦茶よ……聞いてない……そんな力を持ってるなんて────」


「……そういうことか」


 あの老魔法使いの気配がどこにもない。

 また間に合わなかった──僕が余計なことをしたせいで。


「……君は捨て駒みたいだね」

「……は?」

「君の仲間……あの老いた魔法使いはもう、この廃城にいないよ。それに君の部下っぽいのは全員拘束済み──要は、君の負けだ」


 ズズズ……と、廃城全体を覆っていたそれは僕の影の中へと戻って行く。


 持って三十秒か。冥廟の発動後は暫く影術が使えなくなるし、最低でも一分は欲しいところだけど……。


(ま、要練習じゃな)


「な、なによそれ……私が捨て駒だなんて、そんなわけ……」


 と、項垂れる女魔法使い。

 ちょっと可哀想だけど、自業自得だし仕方ない。


「あ、いたいた! ハルくーん!」


 振り返るとそこにはユナさんがいた。

 流石というべきか、傷一つ負っていない。


「お疲れ様です、ユナさん」

「お疲れ様! 話には聞いてたけどやっぱりすごいねー! さすが魔王!」


「……まだまだ完成には程遠いですけどね」


 そう、完成とは言い難い。

 僕の力も、僕自身も。


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