【第116話】成果と準備。
「やらなきゃいけないことが増えたね。半分くらい僕のせいだけど」
「最近話題になっている新たな勢力、でしょうか。いずれにしても、手掛かりはゼロなので解決は当分先になりそうですね……」
突如として現れ、隼を攫って姿を消してしまったあの老人、またの名を変な魔法使い。
“眼”がどうたらこうたら言っていたけど、それはやはりマルタの言う〝覚性スキル〟を指しているのだろうか。まあ月詠を失った今の僕は、その覚性スキルを持たない訳だけど。
しかもあの魔法使い、変なのは僕の方とか言いやがった。
(あの魔法陣を発動する際、妾の魔力も四割ほど持っていかれたことから考えて、あれは本来優秀な魔法使いが数十人集まって発動させるような魔法じゃろうな。“変”と言われるのもやむなしじゃろ)
ラティの四割って──その時点で僕の十割超えてる気がするんだけど。
(ああ、超えてるな)
ひえ〜。
しばらく遺跡の中を歩いていると、外から差し込む光が見えてくる。
「あっ、出口ですっ!」
「おー」
一応、咲刃の透過を使えばいくらでも外に出るためのルートは探れるんだけど、色々考えたいこともあったし、敢えてゆっくり帰ることにした。
まだ昼過ぎくらいだろうし。
「おお! お前たち無事だったのか! なかなか帰って来ないから心配してたんだぞ!」
外へ出るや否や、リルドがこちらに駆け寄って来る。
周囲を見回してみると、今回の作戦任務に参加した全ての冒険者がいるように見えた。
「もうみんな外に出てたんだ、早いね。僕たち、途中で道に迷っちゃってさ。行きはよかったんだけど」
「いや、早いっつーかなんつーか──俺たち、まともに探索出来なかったんだよな」
「え?」
僕は思わず首を傾げた。
「ここにいる全員、気付いたら外に出てたんだよ。どこをどう通っても出口になっててさ」
「何それ……」
どういうこと? 気付いたら外に出てたって。
よく分からないけど、これもあの老人の仕業なのだろうか。
それだと、あの老人が片っ端から冒険者を出口付近まで飛ばしてたことになるんだけど、飛ばされた本人たちが気付かないなんてことあるのか。
ん? でも仮にそうだとしたら、僕たちが迷子になったのも仕方ないということになるな。
(それはお主のせいじゃろ……)
「ハルたちは何か見付けたのか?」
「うーん、見付けたっちゃ見付けたけど……」
話していいものかどうかと言われれば難しいところ。
異世界から人間と召喚する魔法陣があったよー、とか。
変な魔法使いにその人間を連れ去られたよー、とか。
……まあいっか、説明だけはしとこう。
軽く、ね。
「……変な魔法陣を見付けたよ。それだけ」
☆ ■ 〇
「ただいまー」
あの後、一度冒険者協会まで戻った僕たちは、諸々の報告を済ませて帰宅。
レンは何やら続けて指名の依頼があるらしく、そのまま目的地に直行した。
S級冒険者ってやっぱり大変なんだな。
「咲刃、ゼーレを呼んできてもらっていいかな」
「承知いたしましたっ!」
そう言うと、咲刃は天井をすり抜けて行った。
「えっと──あの老魔法使いの件は僕が片付けるとして、ヴェルナ山脈の件は予定通りゼーレと咲刃に……」
「やることが山積みじゃな。確かテオルス国主との会談、それに魔王会談も控えているのじゃろう?」
と、ソファに座っている僕の横でこちらに足を向けて寝転がっているラティ。
「そうだね……特に、老魔法使いの件は早めに片付けておきたいんだよね。レンも言ってた通り、あれはノアさんがいなくなった影響で頭角を現し始めた新勢力──まだまだ問題を起こす可能性があるからさ」
僕がそう言うと、ラティはため息を吐き、片足を僕の膝の上に乗せてくる。
「それは本来、お主がやるべきことではないじゃろ?」
「そうは言っても、冒険者ギルドのメンバーにも連絡が着かないらしいし、仕方ない」
「いや、断れば良いじゃろ……」
「僕が興味あることだからいいんだよ。どうせ勝手に首を突っ込んでたんだし」
ノアさんと時臣さんが失踪して以来、冒険者ギルドのA級メンバーも少しずつ姿を消している。謎の失踪ブームで、もうてんやわんやだ。
テラ達は無事みたいだけど、これからも無事とは言い切れない。もしA級メンバーの失踪も何者かの陰謀なら、冒険者ギルドのA級──つまりA級上位を上回る実力を持っているということなのだから。
そう考えると、やはりミラも────。
「帰っていたかリーダー。それで、用事というのは?」
ゼーレはそう言うと、ラティに向けて軽く礼をする。それに対し、ラティは手をひらひらとさせた。
「うん。二人に、前々から話してたヴェルナ山脈の件について、話しておこうかなって思って」
「承知した」
「例の獣人さんについてですねっ!」
僕は二人に任せようと思っていた件について詳細を話した。
現在、東側と西側を分断している巨大な山脈──ウェルナ山脈が抱えている問題。
そして、そのヴェルナ山脈北部に棲む“とある獣人”について。
「直ぐにでも取り掛かった方がいいか?」
「んー、魔王会談までに片付けばいいよ。無茶だけはしないように……まあ、ゼーレと咲刃なら大丈夫か」
色々やることはあるけど、とりあえず僕はマルタのとこに突撃しよう。そして話してもらおう──話せる範囲で全部。
事前に話を聞いていれば防げたことかもしれないんだから、僕には文句を言う権利があるはずだ(多分)。
ということで、二人に説明を終えた後、僕は例のごとく冒険者ギルドへ向かった。