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【第109話】古代遺跡探索・攻略作戦任務、開始。


 「──ということで、まだパーティの組めていない冒険者の方はこちらへ!」


 あれから十数分に渡って『古代遺跡探索・攻略作戦任務』についての概要が語られた。といっても、僕が先ほど説明した内容とほとんど同じだったので割愛させてもらった。


「僕たちはこの三人でパーティを組むけど、ユアン達も三人だけで行くの?」


(おい、妾もいるぞ)


「うーん。俺としては、後一人ぐらい欲しいところだけど──あまり贅沢は言えないね」


 ユアンは周囲を見回し、僕もそれを真似る。

 既に大体のパーティは構成済みのようで、余っている冒険者は五人いるかいないかといった様子。


 以前の僕であれば余った側になっていただろうから、彼らに声を掛けてあげたい気持ちはあるが、あまり初対面の人を驚かすようなことはしたくない。


 ちょっとした有名人である僕やレン、咲刃が魔族であることは周知の事実なのだが(咲刃とか若干透けてるし)、それ以上に────、


「主殿! 咲刃、とても楽しみですっ!」

「うん……でも、遺跡を壊すのだけはやめてね。下手したら崩落して皆死んじゃうから」

「はいっ!」


 とまあ、僕達の戦闘に巻き込まれる恐れがあるのだ。そうでなくとも、僕達が無双しているだけの攻略任務など毛ほども楽しくないだろう。


 ちなみに、魔王軍のメンバーや四ヶ月前時点で既に知っていた人達を除いて、僕が魔王であるということを知っているのはヘレンさんとテオルス国主だけだと思う。


 そう──僕は結局、ヘレンさんに全てを打ち明けることにしたのだ。


 最初は腰を抜かすくらい驚いてたけど、最終的には「なんか怪しいとは思ってたんだよね〜」という風に納得して話は落ち着いた。


 受け入れてくれて嬉しい反面、もっと騒いでほしかったという気持ちもある。面倒な性格だな、と我ながら思ったり。



「マルタは何か言ってた?」

「えっと、『面白いもの見つけたら報告して〜』とだけ……」

「まあそうだよな。ほんと、あの他力本願猫は……」


 言い振りからして、僕らが何か見つけるってこと分かってるだろ。

 くそっ、「じゃ、よろしく〜」としたり顔で宣うマルタの顔が浮かんでくる。


 ……とはいえ、お仕置きしようにもそれすら悦んでる節があるし、いろんな意味で無敵すぎるんだよな。あの猫。


(散々甘やかした結果じゃな。懐かれすぎて、何をしてもご褒美のようになってしまっておる)

 いっそ、マルタに会わないとかの方が効くんじゃないか。

(あっちから飛んでくるぞ)

 だよね。



「それでは作戦任務を開始する前に──冒険者代表のレンさんから、一言いただきたいと思います!」


 と、前方にいる受付嬢さん。


「へえ、そういうのあるんだ。作戦任務に参加するのは初めてだから、ちょっと楽しみだな」

「そうですね! レン殿の勇姿、(しか)と見届けさせていただきますっ!!」


 それはちょっと大袈裟だけど。


「わたしはこれで二回目なんですよね……皆さんの前に立つのは」


 そう言いながらとぼとぼと歩いていくレンの背中を見送る。


 これは余談だが、今回の任務のように大人数の冒険者で取り掛かることが前提の任務を“作戦任務”という。


 その多くはA級では手に負えないような魔物や魔族の討伐の為に発注される(例:ディグランの森の討伐作戦任務)特別な任務なのだが、大体はS級冒険者が先に解決してしまうのであまりお目に掛かることはない。


 しかし、今回は探索任務と攻略任務を兼ねている(かなり特殊な例)ので、作戦任務として発注されたのだろう。


 尤も、これは冒険者協会に限った話なので、国主が直接発注する『特別依頼』や、魔導連盟の『特殊任務』とは別物であるということは留意しておいてほしい。



「えっと、今回は古代遺跡に向かうということで、皆さんはとても気分が高揚されているかと思います。

 わたしからは一つだけ──その熱を全て、余すことなくこの作戦任務へと向けてください。ただ、前へ進んでください。皆さんの後ろは、わたし……いえ、わたし達がお守りしますから!」


 そして、レンはいつもの可愛らしい笑顔を向ける。


「「うおおおおおぉぉぉッッ!!」」


 ビリっとくるような歓声が訓練場を満たす。


「ふん。今の内にレンの笑顔をしっかりと拝んでおくんだな、有象無象共め」

「あ、主殿から邪悪なオーラがっ……!」


 くくく、そう何度もレンの笑顔を拝めると思うなよ……これが最後だ。


(──独占欲、及び嫉妬……か。何ともまあ、醜いな)

 ……思考読み取り禁止令を発令しようと思う。

(基本的に垂れ流し故、聞こえんようにする方が手間なんじゃが……)

 それじゃあ契約終了だ。今までありがとう。


 さようなら、ラティ。おかえり、僕のプライベート。

(喜べ、この契約は何方(どちら)かが死ぬまで続くぞ)


 永遠にさようなら、僕のプライベート。



 とまあ、冗談はさておき……。



「おかえり、レン。感動したよ」

「ありがとうございます。わたしとしては、ハルお兄さんが檄を飛ばすところが見たかったですけど」

「僕がやると、檄じゃなくて覇気が飛びかねないんだよね」


「えっ、そんな不安定なものなんですか? 魔王の覇気って……」

「いや? 冗談」

「……」


 さておいたばかりの冗談を再び拾い上げたところで、僕たちは訓練場を後にして、古代遺跡へ向かうことにした。



■ 〇 ●



 「で、でか……」

「主殿の御屋敷の十倍近くあるんじゃないでしょうかっ?!」

「これだけの遺跡が今まで隠れていたなんて、とてもじゃないですが信じられませんね……」


 ファレリアを発ってから約五時間後の昼頃、僕たちは目的の場所に辿り着いた。


 目の前に聳え立っているのは、白く巨大な古代遺跡。太古の神聖さのようなものは全く感じられなかったが、それを補って余りあるほどの存在感と威圧感を放っていた。


 これで内部がダンジョン風になっているというのだから驚きだ。超A級相当なんじゃないのか、知らないけど。


「召喚魔法、か」

「口寄せの術ですねっ!」

「ん? うん……」

「咲刃、口寄せの術には多少心得がありますっ! 見ていてください、主殿──」


 張り切っている咲刃をよそに、改めて古代遺跡に目を向ける。


 この遺跡は、大昔のテオルスが特殊な召喚魔法を使う為に造られたものだという。


 本来、召喚魔法はそれ専門の魔法使いが存在するほど高度な技術を要する魔法だ。

 そのほとんどが魔法陣とそこそこ長い詠唱を元に発動するもので、通常の魔法のように魔法名の詠唱のみでの発動は原則不可能。


 僕も少し前に召喚魔法に興味を持って習得を試みた時期があったのだが、実戦での実用性の低さに気付いて、中級召喚魔法の魔法陣を覚えたところで切り上げた。


 大体の召喚士は多分、適当な紙に魔法陣を書いて(魔法陣の大きさは最低でも召喚対象より大きい必要がある)持ち歩いてるんだろうけど──そもそも、召喚に必要な詠唱を覚えるのが面倒臭い。魔法名詠唱だけで済むなら、もうちょっと頑張れたんだけど。


 とはいえ、それだけあって召喚魔法は強力なものが多い。最上級召喚魔法なら、ドラゴンとか呼び出せるとかなんとか。


 これ程巨大な遺跡を建ててまで行われた『召喚魔法』……昔の人々は、一体何を召喚していたのだろうか。


()けば分かる)

 ……それもそうだね。



「よし、それじゃ行こうか」

「──見てください主殿っ! 咲刃の相棒、フェンリルの蒼牙(ソウガ)です!!」

「ガウゥッ!!」


 気付けば、咲刃が大きな狼の上に乗っていた。

 周囲の冒険者がざわざわしているのが見て取れる。


「えっと……たしかにカッコいいんだけど、遺跡探索には向いてないかな……」


 そうして、僕たちは他の冒険者と共に遺跡へと踏み入れて行った。


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