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【第108話】冒険者、冒険者協会へ。


 「待たせたね、レン。それに咲刃(さくは)も」

「大丈夫ですよ、わたし達も今来たところなので」

「お待ちしておりました主殿(あるじどの)っ!」

「……どっち?」


 冒険者協会のロビーで、僕は待ち合わせしていた人物と合流した。


 ロビーには僕達以外にも沢山の冒険者が集まっていて、服装や装備の様式から他の国からもそこそこな数の冒険者が訪れているのが分かる。

 先ほど協会の外で待機している冒険者を見掛けたが、確かに外で待ち合わせをした方がよかったかもしれない。


「流石S級冒険者、人よけも余裕だね」

「不本意です……」


 レン達の周囲は、不自然に人が少なかった。というか、いない。周囲の冒険者は、明確な意思でレンを避けているのだ。


 ということで、四ヶ月が経った現在──レンはS級冒険者になっていた。


 あの二人が行方不明になった後、その穴を埋めるようにして二人のS級冒険者が増えたのだが、その内の一人がレンという訳だ。そして同時に、魔王軍の新メンバーでもある。


 僕にもS級昇格の話(推薦)が来ていたのだが、今は魔王(こっち)に集中したいという理由で蹴らせてもらった。ユナさん達は笑って納得してくれたけど、悪いことをしてしまった。



「主殿、レン殿は嫌われているのでしょうか……? 咲刃、悲しいです……」

「違うよ咲刃。レンは怖がられてるんだ。畏敬の念というか、そんな感じ」

「うう……S級冒険者辞めたいです……」


 項垂れるレン。


 ──っと、忘れてた。僕が咲刃と呼んでいる彼女は()々敷(ししき) 咲刃(さくは)

 アンデッドの一種『亡霊(ゴースト)』で、その特徴的な名前から分かるように極東の島国“繚苑(リョウエン)”出身だ。


 桃色のサイドテールで、身長はゼーレより少し低いくらい。かなり変わった格好をしていて、本人はニンジャ、シノビ、クノイチ……とかなんとか言ってたけど──話を聞いた感じ、暗殺者(アサシン)辺りが一番それに近い職業(ジョブ)だと思う。


 ある日、屋敷の前で右往左往している彼女を見かけ、何かと思い声を掛けてみると、突然手下にしてほしいと懇願されて──というのが咲刃との出会い。


 めちゃくちゃ良い子ではあるんだけど、なんかちょっとズレてるんだよな。



「こんなにカッコ可愛い冒険者なんて、そうそうお目に掛かれるものじゃないのに……この街の冒険者達は、いつの間に臆病者になってしまったんだろう」


(やはりそれ程までに、龍人族のS級冒険者という肩書の圧力が強いんじゃろうな)


「か、カッコ可愛いですかね?」

「ですですっ! 例えるのなら、まさに地風覇龍そのもの──咲刃、尊敬ですっ!」

「え、えへへ……それなら、もう少し頑張ろうかな……」


 と、分かりやすく照れるレン。


 素直過ぎるというかなんというか……そこがレンの良いところではあるんだけど、いつか悪い人に騙されて拐われるんじゃないかと色々心配になる。


 そして、カッコ可愛いの例として地風覇龍を挙げるのは果たして適切なのだろうか。しかも相手は半分本人みたいなものだし。



「それにしても────」


 僕は辺りを見回す。やはり相当な数の冒険者がいるが、お目当ての人物は見当たらなかった。


 もしかしたらミラに会えるかな、とか思ったけど、流石にそう都合よくいかないよな。

 フェイにはよく会うし(会いに行ってる)、一緒に任務をやったりもするけど──ミラとはもうかれこれ三ヶ月も会えていない。


 これは余談だが、フェイがディオーソさんをレンディ魔法学校の特別講師として招待したという。

 どうやらセインさんが取り計らってくれたらしく、かなりスムーズに話が進んだらしい。


 まさかそのセインさんが、この四ヶ月の間に()()()の一人になっているとは思わなかったけど……まあこの話はいずれまた。



「よっ、もう来てたんだな!」

「やあ、リルド。それに二人も」


 声の方を向くと、僕の初めてのパーティメンバーである例の三人組がいた。


 さて、ようやく本題に入ることが出来る。


 今回、僕達が冒険者協会に訪れた理由。そして、この数の冒険者が集まっている理由──それは、かつて僕とラティが出会った“アグルス城跡地”。あの場所で見つけた例の日記──その内容の解析結果にある。


 その日記には、ある遺跡について書かれていた。


 その遺跡とは、テオルスがまだ大国だった頃に造られたという大昔のもの。

 当時はその遺跡を中心に国が栄えていたようで、遺跡では特殊な召喚魔法とやらを発動する為の巨大な魔法陣が書かれているらしい。というか、その為だけに存在していると言っても過言ではない、とかなんとか。


 この日記の著者はその遺跡を管理していた集団の一人らしく、書かれたのはおおよそ五百年前。


 ラティ曰く、


「ああ、確かにあったな。そんな遺跡。妾は全く興味がなかったが、この国が多くの英雄を輩出し始めたのはその遺跡が建てられてからだったか……ただ、妾が地下牢送りにされる頃には既に壊滅しておったぞ」


 とのこと。


 そしてつい先日、ファレリアからそこそこ離れた場所で、例の遺跡が発見された。

 なんで今まで見つからなかったんだよという感じだが、どうやら日記に位置情報が記されていなければ絶対に見つからなかったというレベルの『隠密魔法』が施されていたという。


 隠密というより、隠蔽といった方がそれらしくはある。


 ここまで来れば説明は不要だと思うが、まあ要は『古代遺跡探索・攻略作戦任務』が発注されたという訳だ。

 普通の遺跡であれば、鑑定士などを加えたパーティを四つほど向かわせれば済む話なのだが、今回そうならなかったのは、古代遺跡のその複雑さにあった。


 なんと、遺跡の内部は日記に書かれていた以上に深く造られており、さながらダンジョンのような造形になっているらしい。魔物も確認され、いよいよという感じ。


 日記を見つけた者の一人として、この古代遺跡の真相を解き明かすべきだろうと考え、今回はレンと咲刃を連れて冒険者協会を訪れた。僕個人としても、遺跡の詳細は気になるし。


 ゼーレは朝に弱く、クロエさんも同じ(そもそも、今日はユエさんと遊びに行く予定らしい)。もう一人の新メンバーは、無差別広範囲攻撃というとんでもない危険スキルを持っているので、やむを得ず待機という運びとなった。


 冗談抜きで、遺跡のような閉所では冒険者達が全滅する恐れがある。



「にしても、また仲間が増えたみたいだな!」


 リルドはそう言うと、咲刃に軽い会釈をする。

 咲刃は深いお辞儀を返した。


 そうか、ここは完全に初対面なのか──咲刃はこの冒険者協会に足繁く通っているから、顔合わせ済みだとばかり思っていた。


「まあね。心配しなくてもめちゃくちゃ強いから、安心して背中を任せてよ」

「はは、元から心配なんかしちゃいねーよ。強いて言えば、またハルが暴れ出さないかだけが心配だな」

「やめてそれ、結構刺さるから」


 この先もずっと擦られそうなんだよな、このネタ。最悪すぎる。


「冒険者の皆さん! 申し訳ありませんが、訓練場の方へ移動してください!」


 と、受付嬢さんの声が聞こえてくる。

 やっぱり狭すぎたか。個人的に、最初から街の外集合でもよかった気はするけど。


 動き出した大勢の冒険者に続くように、僕たちは訓練場に移動することにした。


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