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【第105話】吸血鬼と少女の過去。(3)

 次でサブスト終わります!


 『調和の宴』──様々な検証の結果、それは“あらゆるモノを不和なく融合させることが可能になる”というものだった。


 魔法を例に挙げると、二段融合魔法の中でもかなり難易度の高い火と水を使った融合魔法を容易に詠唱することが出来るようになる。


 尚且つ、従来の融合魔法とは展開される魔法式が全く異なる(融合魔法はそれ用の妥協的な構築になっているが、調和の宴は自動的に最適な形が構成される)ため、そのほとんどが創作(オリジナル)魔法に該当する。


 つまり、無限に魔法を創り出すことが出来てしまうのだ。優に一万を超える種類の魔法、その組み合わせ次第で新たな魔法を創り出せてしまう。

 今まで難易度や実用性の観点から研究を断念されていたものも、このスキルに掛かれば一瞬で解決出来るだろう。



「で、出来ました……!!」

「ふむ、三段融合魔法も余裕そうだな」


 言いながら、ユエの手元に浮かぶ火、水、風の三段融合魔法を眺める。


 高火球、高水球、高風球という一般的な上級魔法から構成されるこの融合魔法は『三位魔力砲(トリニティ・ドライブ)』といって、既に存在している融合魔法だ。


 しかし先ほど述べた通り、ユエの作り出したそれは従来のものより純度が遥かに高く、詠唱者が同じ実力と仮定した場合、その威力は数倍にも跳ね上がるだろう。まるで別物だ。


 今回はとりあえず、ユエが唯一扱える上級魔法の火水地風の球撃シリーズを採用した。三位魔力砲は最上級魔法に分類され、その習得は熾烈を極める。

 一般的な魔法使い(人間)が、その生涯を掛けて漸く習得出来るレベルだ。


 その理由としては、元々難易度の高い火水の融合に風を加える必要があり、その上、普段の球撃とは異なる融合魔法専用の魔法式で詠唱しなければいけないからだ。


 余程の天才でもない限り、あれを実戦で詠唱する人間の魔法使いは存在しないだろう。もしいるならば、ぜひ一度会ってみたい。


「私も、いつかお姉さんみたいになれますかね!?」

「さあな、それはユエ次第としか言えぬ」

「絶対になってみせます!」


 と、目を輝かせていつも以上にやる気に満ち溢れた様子のユエ。


 人の身で魔法を極めるというのは容易なことではない。たとえ類稀なる才能を持っていたとしても、必ずどこかで壁に当たってしまう。


 人の身体はとても脆く、寿命だって我のように長くはないのだから。


 人間というのは、今の我以上に不便なのだ。


「わっはっは、我が名はユエ──偉大なる吸血鬼の……弟子なりっ!!」

「まったく、調子の()い娘だな……」


 我の真似をしているようだが……似ているのか? これは。


「ああそうだ──ユエに回復魔法を教えておこうと思っていたのだ」

「回復魔法ですか?」

「うむ。しかしまあ、実を言うと我は回復魔法が非常に苦手でな。簡単なものしか扱えぬのだが、難しいものでも教えることなら可能だ。ユエは、回復魔法を覚えておくべきだろう」


 我には回復魔法など無くとも、それを上回る再生能力がある。それ故に、今まで克服せずに放置していたのだが────。


「其方は、人間だからな」



★ ● ▼



 「遅いな……」


 ある日の夕方、我は木製の椅子に腰掛けながら、ユエの帰りを待っていた。


 一時頃、夕餉に使う食材を獲りに森へ繰り出し、かれこれ四時間。


 以前までは我が付いていたのだが、最近はユエ一人で行くようになった。その成長を喜ばしく思う反面、若干の寂しさと不安もある。


「迷子になっていないと()いのだが……」


 と言っても、かれこれ三年半はこの森に住んでいるユエにとって、この森は庭のようなもの──流石に迷子ということはないか。


「──クロエ、緊急事態よ」


 突然扉が開いたかと思うと、そこには一人の魔法使いが立っていた。


「誰かと思えばサブリナではないか。悪いが、ユエならまだ帰ってないぞ」


 この魔法使いの名はサブリナ。いつぞやの、我が助けた魔法使い四人組(内、一名死亡)の一人だ。あの出来事から少し経った頃に森で再会した。


 どうやらあれから我のことを捜し回っていたらしく、面倒なので対応をユエに任せていたらいつの間にか仲良くなっていて、時々遊びに来るようになったのだ。


「一歩遅かったわね……今、そのユエちゃんが大変な事になってるのよ」

「大変とは? もしや、本当に迷子なのか?」

「ま、迷子? そんなのじゃなくて……昨夜、ハイナジトラにいる魔導連盟所属の全魔法使いに連絡が入ったの──“調和の子を捕らえろ”ってね。貴方がいるから大丈夫だと思ってたんだけど、何か胸騒ぎがして────」


「サブリナ、冒険者になる準備をしておけ。魔導連盟は今日を以て終了だ。その名を歴史から抹消してやる」


 この我に喧嘩を売ったことを後悔させてやる。無論、地獄でな。


「気持ちは分かるけど少し落ち着きなさい……最近ゴールド級に昇格したばかりなのに、潰されちゃ堪らないわ」

「我は冷静だぞ。冷静に、とてつもなく憤っているだけだ」

「ああ、そう……」


 しかし、何故ユエの『調和の宴(ハーモニクス)』についての情報が魔導連盟に漏れているのだ? このことを知っているのは我とサブリナのみのはず……。


「連れて行かれたのは魔導連盟本部か?」

「ええ、恐らくね。けれど、今ならまだ奴等に追い付けるわ。この森から本部まで、かなりの距離があるもの」

「……そうか」

 

 何か引っ掛かるが、とりあえずユエの救助が最優先だ。魔導連盟の目的が貴重な人材の確保ならば、殺しはしないだろうが────。


 そうして、我は家を飛び出した。



▼ △ ▼



 「意外と直ぐに見つかったな」


 道に沿って走っている馬車を見下しながら、そう呟く。


 家を飛び出してからたった一時間弱、丁度森を抜けた場所でユエを見つけた。

 正確には見つけたのは馬車なのだが、この距離まで近付けば魔力の流れで中にいるのがユエだと分かる。


 ちなみにサブリナは浮遊魔法を使えないので、地上から我を追う形で後から来ることになっている。後数分もすれば追い付くだろう。


「まずは、あの馬車を止めるところからだな」


 ゆっくりと降下して行く。

 あのまま上空から犯人ごと馬車を木っ端微塵にしてやりたいが、ユエまで吹き飛んでしまっては本末転倒だ。


蔓縛りヴァイン・バインディング────』


 軽い拘束魔法で馬車を止めようとしたその時、



銀の魔弾(シルバーショット)



 我の左胸を、銀色に輝く魔法が貫いた────。


「……ッ!?」


 直ぐ様振り返ると、そこにいたのはサブリナだった。


 一瞬、何かの間違いだと思った。偶々そこにいただけで、この魔法を撃ったのは別の誰かだと。

 やられた。サブリナの魔力を完全に警戒対象から外してしまっていたのだ。


『今ならまだ奴等に追い付けるわ。』


 ああ、あの違和感の正体はそれか。最初から複数犯であることが分かっていたかのような口振り……まあ尤も、単独でユエを攫うなど、ゴールド級の魔法使いですらかなり苦戦するだろうがな。


「ぐっ……」


 血を吐き、軽く体勢を崩す。


 しかもこれは、かつて魔導連盟が生み出した対吸血鬼特化の魔法だ。

 野良の吸血鬼なら兎も角、当時の我には毛ほども効果がなかった駄作魔法……それがまさか、今になって牙を剥くとはな。

 

 ということは此奴、最初から我を殺すつもりで────。


「あら。まだ生きてるなんて、随分しぶといのね」


 と、どこか虚ろな目をしたサブリナ。


「……嵌めたな」


 本当に面倒なことをしてくれた。この一年半で、漸く第一の心臓を八割近くまで回復してきたところだというのに。


「これ以上貴方に力を取り戻されると色々面倒なのよね」


 そう言って、杖を構える。


「……恩を仇で返すとは、まさにこのことだな」


 傷の回復が尋常じゃなく遅い。傷口からは絶えず血が流れ続けていた。


「安心して、ユエちゃんには“遠い所に行った”って説明しておくから」

「喋るな……不愉快極まりない」


 此奴一人なら何とかなる。

 さっさと片付けて、早く馬車を止めなければ────。


「……ッ」


 突然身体がふらつき、地面に膝をついてしまう。


「へえ、本当に効くのね」

「……貴様、一体何を────」


 まずい、視界が──……。


「『銀の魔弾(シルバーショット)』。これでお終いね」

「……」


 サブリナな位置をぼやけた視界で確認すると、左手を構える。


魔法反射(マジックカウンター)



 しかし果たして、魔法が発動することはなかった。


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