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【第103話】魔王の計画。


 「それじゃあマルタ、また今度」

「ん、楽しんでおいで」


 僕は現在、冒険者ギルドにあるマルタの部屋を訪れていた。クロエさんとの約束の時間までまだ少し時間があるので(待ち合わせ場所もここ)、掃除も兼ねて暇つぶしに寄ってみた。


「別に、お礼しに行くだけなんだけど」

「あはは、それだけで済むといいね〜」


 さっと立ち上がり、扉の方へ向かおうとすると、僕の背中にそんな不穏なセリフが投げかけられる。


「……よし、知ってることを全部吐いてもらおうか」


 僕は至極真面目な表情でマルタに掴みかかった。


 含みがありすぎるだろ。マルタは未来が視えているだけに、本当にそれだけでは済まない可能性があるのが最悪だ。


「きゃ〜襲われちゃう〜」

「こら、暴れるんじゃない。大人しく全部吐くんだ」


 と、軽くじゃれ合う僕達。


 部屋が片付いている今だからこそ出来る遊び。普段なら大惨事になっていること請け合いである。


 それから少しして、僕はため息を吐いた。


「まあ、見た感じ悪い子じゃなさそうだったから、全く心配はしてないけどさ。そもそも、これは助けてもらったお礼なんだ。疑うのは倫理的に正しくないよな」


 僕は自分に言い聞かせるように言う。


「そうそう、だいじょーぶだよ。滅多なことでも起きない限りは、ね」

「……なんだ、もしかしてかまってちゃんなのか?」


 どうしてそう一々含みのある言い方をするんだよ。気になっちゃうだろ。


「そーだよ。だからもっとかまってほしいな」

「それなら次会ったときは、もう嫌ってくらいかまいにかまってあげるよ」

「いいねそれ、すごく楽しみ」


 大の字になって床に倒れたままのマルタ。

 何故か服が少しはだけていて(僕のせい)、目のやり場に困る。


「はあ、疲れた。ほんと、だーりんは激しいんだから」

「頼むから、事情を知らない人に聞かれたら誤解を招くような発言は控えてくれ……もしそうなったら、牢に入れられるのは僕の方なんだぞ」


 そう言って、僕はマルタの衣服を整える。


「なんだかお母さんみたい」

「せめてお父さんだ」

「んー、じゃあパパだね」

「……それはそれで犯罪臭がするからやっぱり却下だ」


 人目に付く場所でだーりんと呼ばれる度に、僕は心臓が口から飛び出そうになるんだ。パパと呼ばれた日には、その場で消滅してもおかしくない。


「そうだ、マルタ。僕の謹慎が終わったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()──マルタはどうしたい?」

「だいじょーぶ、急用ってわけでもないから」

「分かった、それじゃ」


 僕は立ち上がると、扉の方へ向かい、今度こそマルタの部屋を後にした。



■ △ △



 「そういえば、これで現S級冒険者全員と会ったことになるんだよな」


 冒険者ギルドにある広間にて、椅子に腰を掛けている僕は一人そう呟いた。

 実際は、僕の影の中にいる魔人の少女へ向けたものなのだが。


(S級冒険者か──実力は確かなようじゃが、如何せん癖のある奴等ばかりじゃな)

 そうかな。僕には、そこそこ常識のある人たちに見えるんだけど。

(お主の周囲にいるのが“アレら”じゃからな。感覚が麻痺しとるのではないか?)

 その説はかなり有力かも。どうしてなのか、僕はそういう人たちと縁があるらしい。


 と、僕は影に視線を落とす。


(ここまでくると、寧ろお主に原因があるとしか思えんがな)

 否定は出来ないね。そもそも僕は、普通の交友関係を築くことなんて魔王になった時点で諦めてたよ。


 今現在、僕の頭に浮かぶ知り合いの皆は、どれをとっても物語であれば主人公を()れるような人ばかりだ。

 相対的に僕の影が薄くなっているように感じるので、少し哀しい気分になる。


(いや、お主も大概じゃが……)


 でも僕は“影の冒険者”だし、それくらいが丁度いいのかもしれない。人知れず暗躍したりね。


(さりとて、お主という影を背負えるだけの()を持つ奴などそうそう見つからんじゃろ)

 僕は魔王なんだし、それこそ勇者とかいいんじゃない? 会ったことないけど。


 勇者──魔王である僕にとって、それは切っても切れない縁。争う争わないは兎も角、いずれ会うことになるのだろう。


 ああそうだ。魔王で思い出したんだけど──やっぱり魔王をやる上で、魔王軍は欠かせないよね?

(うむ。配下がいればそれだけ、行動の幅も広がるからな。いた方が()いことは確かじゃな)

 それで、ちょっと面白いことを考えたんだ。

(その語り出しには不安しかないんじゃが……)


 僕の『万能者』は周囲にも影響を与える。これに例外はなく、僕と戦っている相手だって平等に著しい成長を遂げる。


 だから僕は、たった十数人のメンバーで、()()()()()()を作ろうと思う。その一人一人が魔王に匹敵する、そんな少数精鋭の極致のような魔王軍を。

 それと、集めるメンバーは全員別々の種族にしようかなって思ってる。そっちの方が面白そうだし。


 僕はこれを『影の魔王軍計画』と名付けることにした。

 かなり安直な名前だけど、他に良さそうなのが思い付かなかったし仕方がない。


(……ふむ、なるほどな。妾の所感としては正直──)

 うん、正直?



(──最高じゃな)

 流石相棒、よく分かってる。相性も最高だね。



 そんな訳で、当分はこの計画を完遂させる為に頑張ろうと思う。さっき確認したら、マルタの()()()は今すぐじゃなくていいみたいだし。


 魔王に仕える気があって、尚且つその種族の最強を目指したいという向上心がある人材が欲しい。まあ仕えるといっても、主従関係にはあまり興味がないから、忠誠心とかは正直どうでもよかったりする。


 結論、僕が重視するのは後者の方。この際、やる気さえあれば僕がどこまでも伸ばしてあげられる。


(──では早速、その最強の魔王軍とやらの『魔人枠』は妾が頂くとしよう)


「……えっ!?」


 その予想外の言葉に僕は思わず声を漏らし、ハッと口元に手を当てた。


 な、なんだって?


(おいおい。まさかとは思うが、妾を除け者にするつもりなのか?)

 いや、ラティは従者って柄じゃないでしょ。他人に付き従ってるとこなんて想像出来ないよ。

(……まあそれは兎も角、その面白そうな話に乗らん手はないじゃろ)

 ラティがいいなら別に構わないけど……。


 急に戦力が跳ね上がってしまった。なんというか、ハードルが上がりすぎて、その下を軽々と潜れそうなレベル。



 それから数分、ラティと会話をしていると、


「すまない、待たせたか?」


 と、僕の待ち人が到着したようだった。


「ああ、クロエさん。僕も今来たところですよ」

「そうか、それは良かった」


 ……なんか、さっきと比べて少しテンションが低いような気がする。


「よし、それでは早速()くとしよう」

「は、はい」


 僕の手を引き、冒険者ギルドの外へ繋がる魔法陣へ向かうクロエさん。


 どこに行くつもりなのかは分からないけど、本人の行きたい場所があるのなら、大人しく付いて行くとしよう。僕の考えていた完璧お礼計画は水泡に帰すことになったが。


 そうして、僕たちは冒険者ギルドを後にした。


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