【第11話】冒険者、武器を買う。
あの後しっかりと誤解を解き、チェックインを済ませた僕は、食事は後にしてメインストリートに向かった。
「装備、新調しようと思ってたんだよね」
「うーん、魔法使い専門の良いお店ならいくつか知ってるんですが……」
この国は魔法が盛んだから、魔法使い関連の店がとても多い。
しかし残念ながら、僕は何故だか潜在属性が分からないし(ラティにも分からなかった)、そもそも魔法すら使えない。
一応、潜在属性が分からなくても魔法は使えるはずなんだけど──とてつもなく才能がないということなのだろうか。
ただ、今はこうしてラティとリンクしているから、ラティの魔力回路を経由して様々な魔法を使うことが出来る。
(といっても、お主が魔法の訓練をサボったせいでちょっとした下級魔法程度しか使えんがな)
……まあ、そんなとこ。
「んー、とりあえずその辺を回ってみましょうか?」
「そうだね。途中で何か気になるものが見つかるかもしれないし」
ということで、僕たちはメインストリートを散策することにした。
「魔法学校の生徒って言ってたけど、魔法学校ってどんなところなの? ファレリアにはなかったからちょっと気になって」
「ここ王都デルクには二大学校と呼ばれるものがあるんです。一つが『グリス騎士学校』、もう一つが『レンディ魔法学校』ですね」
へえ、と相槌を打つ。
ちなみに、王都デルクにある二大学校が名高いというだけで、エレストル全体で見れば騎士・魔法学校は他にもあるらしい。
「……あれ、でもフェイって冒険者もしてるよね?」
「はい。冒険者として自分で学費を稼いでるんです。私の家、あんまり裕福じゃなくて──無理を言って入れてもらったんです」
「だからこれ以上家族に負担を掛けたくなくて……今日は学校が早めに終わったので、森に出向いていたんですよ」
「──私、いつかは調停者様みたいな立派な魔法使いになるのが夢なんです」
じゃあ、僕と似たようなものか。お互い、長い道のりになりそうだな。
「ハルさんは、どうして冒険者に?」
「んー、冒険者協会に拾われて、そのまま成り行きで──って感じかな」
「えっ、拾われた……?」
「十六歳の時だから、大体一年くらい前かな。僕はそれ以前の記憶がないんだ」
「ええっ!?」
「ファレリアの裏路地で目が覚めて、宛もなく漂ってたんだよ」
そして、ヘレンさんに拾われて冒険者になったのだ。
冒険者協会の職員として働く道もあったのだが、僕は冒険者を選んだ。主観ではやはり冒険者の方が面白そうだったから。
それに何より、事務仕事は冒険者以上に適正がないのだ。じっとしていられないというか、まあそういう感じ。
現在、僕はヘレンさんの家を借りているのだが、ヘレンさんは滅多に家に帰ることがない。それだけ冒険者協会の仕事は忙しいのだろう。
ちなみに、勿論賃貸は払っている。最初は受け取りを拒否されていたのだが、流石に払わない訳にもいかないので、あらゆる手段を用いて無理矢理押し付け続け──最終的には諦めて素直に受け取ってくれるようになった。
「変わった人だとは思ってましたが、想像以上に強烈な人生を歩んでますね……!」
変わった人だと思われてたのか……少しだけショックだな。
「おい、そこの兄ちゃん! 冒険者だろ? うちの武器見てかないか?」
声のした方を見ると、いかにも職人という雰囲気のおじさんだった。
「えっと、たしかに冒険者ですけど……」
◯ ◎ ◯
僕は今、裏路地のいかにもな店の前に来ていた。正直、怪しい。おじさんは店に着くや否やさっさと中に入ってしまった。
「なんだか、凄い雰囲気のお店ですね!」
どうしてフェイは楽しそうなんだろう。僕は不安で胸がいっぱいだというのに。
お店の扉を開けてみると、中は意外にも普通の武器屋のようだった。
「へえ、これ結構良いやつですね……あっ、こっちも!」
早速、あちこち品定めを始めるフェイ。
「おー、見る目あるな嬢ちゃん! ま、嬢ちゃんのような魔法使いの武器は置いちゃねーんだが……」
「いえいえ、私にはこの愛用の杖があるのでお気になさらず!」
そう言って杖を自慢気に見せびらかすフェイ。
「ほう、こりゃ随分な代物だな。どこで手に入れたんだ?」
そんな二人を傍目に僕は店の中を見て回る。
どれが良いものとか、そんな知識や技術は持ち合わせていないので、完全に手探りだ。
「……」
ふと、一つの剣が目に入る。他より少しだけ目立つように置かれていた。
「すみません、これは?」
「ああ、それか。それは『鏡の剣』っつって、ちょっと変わった剣でな」
スペイクロソード……初めて聞いたな。
(鏡の剣。かなり昔から存る剣じゃな。まだ製法が継がれておったとは、流石は人間といったところか)
「一般的には『魔剣士の剣』。魔剣士を目指す奴が最初に握ることになる剣だな」
魔剣士──僕には縁がないな。
(そうでもないぞ、お主よ。鏡の剣はその名の通り、鏡のような性質でな。お主の潜在属性と魔力の成長に合わせて刀身の状態を変えるんじゃよ)
なるほど、僕の潜在属性が分かるかもしれないのか──でも、僕のことだから何も反応しないとか全然ありそうなんだけど。
(……まあ、無いとは言えんな。ただ、どんなに才能がなくても潜在属性を持たない奴なんて見たことがない。魔力回路の謎も残っておるし──お主、やはり不思議ちゃんじゃな)
不思議ちゃんって……そんな言い回しが数百年前からあるのが驚きなんだけど。
「おおっ、いいですね魔剣士! 憧れちゃいます! ハルさん、そこそこ魔力があるみたいですし意外と才能あるかもしれませんよ!」
(そこよな……魔力はあるんじゃが──)
「じゃあ、これ買います」
「あいよ! でも良いのかい? 他にも良いモン揃ってるが……」
「はい。何だか、面白そうなので」
「ははっ! あんた、冒険者向いてるぜ」
「僕もそう思います」
また来ますね、そう言って店を去った僕。
そこには高揚に似た感情だけがあった。
★ ★ ★
「さて、それで僕はどうすれば良いの? 何も分かんないや」
(カッコつけて店を出たくせに次のシーンにはそのザマか……まったく、お主という奴は)
はあ、というラティのため息が聞こえてくる。
「えっと、確か柄の部分を持って魔力を流せば良かったと思います」
ひとまず中央広場まで戻ってきた僕たちは、広場の隅で先程購入した剣を囲んでいた。
「魔力を、流す……?」
さも、この世の人間全てが出来て当然のように言ってくれる。
(妾経由で魔法を使う時と同じ要領でやればよい。魔力を流すだけなら、なんとかなるじゃろ)
僕は手に神経を集中させる。
同じ要領……同じ要領……ぐぬぬぬぬぬぬぬ!
「わぁっ! 見た目が変わりました!」
その声で目を開くと、先程は変哲のない剣が真っ黒に、そしてそれなりに物騒な形に変形していた。
(……)
あれ、もしかして僕、ラティの魔力流しちゃった?
「すごいですハルさん! こんな禍々しい剣、見たことありませんよ! 今更ですけど、ハルさんの潜在属性は闇属性だったんですね! あれ、でも闇属性って──」
「あ、あはは……」
ごめんラティ。同じ要領でやったらラティの魔力が──、
(──いや、違う。これは妾の魔力ではないぞ)
……え? ラティの魔力じゃないの? 形もなんか魔人っぽいけど。
(妾の『影』の魔力は特殊といえど、この色にはならん。そして『闇』でも同様じゃ。それにこの形は──というか、魔人っぽい形とはなんじゃ)
「キリも良いですし、続きは宿屋に戻ってからにしましょう! 私、お腹空いちゃって……」
「わ、分かった……そうしようか」
とりあえず、僕たちは宿屋に戻ることにした。
(これは──……)
(この形は──お前なのか……?)
────災厄の魔女……。