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【第98話】予期せぬ出来事。(2)


 「キャーーー!!」

「な、何が起こってんだ!?」


 観客席のあちらこちらから悲鳴が聞こえてくる。


 闘技場の上空で衝突した二つの攻撃は、空中で激しく炸裂する。

 轟音が鳴り響くが、周囲への被害はほとんどなかった。いや、ゼロと言ってもいい。


「おい、やり過ぎじゃぞ」

「……」


 衝撃波を『大暴食の腕(グラトニー・ワン)』で相殺し、そのまま闘技場の中央に飛び降りる。


 途中までは我が主様の演出か何かと思い、わざわざ止めるようなことはしなかったが、これは流石に度が過ぎておる。

 妾達が止めなければ、間違いなくこの闘技場は全壊しておったぞ。


『二人共、一旦落ち着け!』

「……何かがおかしいな」


 熱中し過ぎて我を忘れているなど、我が主様に限ってはありえない。そもそも、此奴は万能者による急成長を遂げているとはいえ、主様の相手ではない。


 しかし間違いなく、我が主様はあの瞬間、全力を出していた。あの魔法は、かつてディエスという男が放った創作(オリジナル)魔法なのだから。


 何故……いや、()()()()()? 月詠を失った今の主様に模倣(コピー)は不可能──魔力は足りているとはいえ、あの複雑怪奇な術式を把握しているとは思えぬ。


「何をして──っ!!」


 再び声を掛けようとしたその瞬間、こちらに向かって()()()()が高速で飛んで来る。


 それも、影刃の付与された、確実に攻撃の意思が込められた一撃。


「……気でも狂ったのか?」


 妾を攻撃したのか? 我が主様が? そんなこと、今の今まで、(ただ)の一度もなかったというのに。なんというか、少しだけ胸が痛いな。


「目を覚まさせてやる」


 ちょっとしたお返しに、食らえば即死級の影刃を放とうとするも、我が主様は高く跳躍し、観客席まで跳んで行ってしまった。


 その方向には特別席しか──……待て、特別席じゃと?


「チッ、そういうことか。お主ら、そっちは任せるぞ」

『あ、ああ……』


 妾と同じように闘技場へ降りてきていた二人にそう声を掛け、特別席まで飛んでゆく。


「ごめんなさい! ハルお兄さん……っ!!」


──ドガァンッ!!


 次の瞬間、主様は後方へと強く吹き飛ばされて行った。具体的には、反対側の観客席下部の壁まで。


「おい、お前……最初からこうなると知っておったな?」


 特別席にいた獣人娘に問い掛ける。


「……さ、流石にこれはマルタも予知外だよ」

「なんじゃと?」

「ネタバレになっちゃうから、今日は部分部分を大まかにしか視てないんだ。でも、この未来(こんなの)は少しも映らなかったのに……」


 ふむ、未来演算(ラプラス)の精度が落ちた訳でもないのか……一体、何が起こっているのやら。

 

 ……さりげなく、予知外という未来視が可能な者しか使わないような用語が出てきたことには触れないでおこう。予想外みたいに言うな。


「ねえ、なんかこっちに手向けてない?」

「「「え?」」」


 ミラの声に振り向くと、我が主様の手元が光っているのが分かる。


「もう、どういうことなの? ハルは何してるわけ?」

「わ、分かりません……でもこのままじゃ、ハルお兄さんが──」


 本来使えるはずのない魔法の行使──まさに月詠発動時の主様そのもの。

 もし、何らかの理由で『月詠』が発動している場合……我が主様の命が危ういな。


「……力尽くしかないか」

「ええっ、まだ何か方法があるかもしれないじゃないですか!」


 と、フェイ。


「何を能天気なことを言っておる。彼奴が本気で暴れ出したら、流石に骨が折れるぞ」


 それに今、被害がこの程度で済んでいるのは、我が主様が抑えているからやもしれぬし──いずれにせよ、早いとこカタを付けた方が()い。


「ボクもラティちゃんに賛成だよ。早く止めてあげなきゃ!」

「──待って、なんとか出来るかも。すぐに戻ってくるから、時間を稼いでほしい」


 と、獣人娘。


 その時────、


三位魔力砲(トリニティ・ドライブ)


 ついに魔法が放たれる。


「一旦ここを離れるぞ。獣人娘、お主は出来るだけ早くその対処法とやらを実行しろ」

「ん、すぐにでも」


 そう言うと、獣人娘はパッと姿を消した。


二つに一つ(ウノ・ス・ドゥエ)


 カチャ、とダンテは腰に下げていた何かを取り出し、放たれた魔法に向け──、


()()!」


 その謎の物体から魔法、というより魔弾が放たれ、飛来してきた魔法と衝突し、相殺した。


「いいね、今日はよく当たりそうだ」


 ……なんじゃ、その武器は。今まで見たことがないぞ。


「ほら、始めようか。今度は僕も彼の相手をするよ」

「いいのか? こんなところで手札を晒して」

「やだなあ。僕たちはこれから友達になるんだから、わざわざ隠す必要なんてないじゃないか」

「……」


 まず、その胡散臭い笑顔をやめんか。


「わたしも戦います。お三方はお客さんの避難誘導をお願いします」

「りょーかい! それじゃ、あの絶賛反抗期のハルくんは三人に任せるよ!」

「じゃ、強化系(バフ)だけ掛けとくわね。ワタシは足手まといになるかもだし」


「妾には必要ない、レンに全て集中させろ」

「当然のように僕へのバフもなくなるんだね」

「要るのか?」

「要らないね」



影嵐(テンペスト)



「おいおい、いきなり全方向無差別攻撃か……」


 しかも、少しずつ攻撃範囲を広げているな。どこまで広げるつもりかは分からんが、放っておくとこの闘技場が崩壊するのは分かる。

 先ほどから崩壊の危機に晒されすぎじゃろ、この闘技場。


「あれ、当たったらどうなるんだい?」

「三回くらいで死ぬな」

「よかった、二回までなら大丈夫なんだね」


 そう言って闘技場に飛び降り、徐々に範囲が広がっていく嵐の中をゆっくりと歩いていくダンテ。


 間違いなく射程範囲に入っているというのに、攻撃が命中している様子はなかった。まさか、あれを避けているのか? それらしい動きは見受けられないが……。


『まさに惨状だな……』


 と、レオという男を抱え、特別席まで戻ってきた機巧装甲の男。

 どうやら、片方は既に片付いたらしい。


『天黎もよくやるよ。まさか、ダンテとプライドバトルでもしてるんじゃないのか?』


 黒い糸の嵐の中に、もう一つの人影。まあ言うまでもなく、それは天黎だった。


 ダンテとは違い、避けているというより全て弾いているようだった。どちらにせよ意味は分からないが。


「普通に止めれば良いものを……」

『ああいうとこあるんだよな、今の国主たちは』

「そ、それは何とも……愉快な方々ですね」

「国主という制度を一度見直すべきではないのか?」


 あんな連中に国を任せるのは如何なものかと思うぞ。


『はは、違いない。でもまあ、実力はちゃんとあるんだよ。あの二人は、前回の人魔会談の代表でもあるから』


 人魔会談──人類と魔族の代表者が、同じ場所に集まって話し合うというもの。これも四百年前の時点では存在していなかったはず。


 これは妾の推測に過ぎないが、災厄の魔女の一件を機に開かれるようになったものじゃろうな。


『さて、それじゃ俺たちもあの暴れん坊を止めに行くか』

「あの獣人娘が帰ってくるまでの時間稼ぎということを忘れるなよ」


 躊躇なく殺意を向けてくる今の主様相手では、ロクに手加減も出来ぬ。

 正直、他の奴等がどうなろうと構わぬのだが、主様がそれを気に病むのだけは避けたい。思考が鬱陶しくなる。


 ────早く帰って来てくれ、獣人娘よ。


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