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【第93話】冒険者たちの休日。(3)


 「────僕が……典礼に?」


「ああ、ハルなら実力的にも申し分ない……いや、十分過ぎるくらいだろ?」


 その提案に、僕は驚きを隠せなかった。


 “代わりに”ということは、クロウは本戦に出場する権利を得る為に、予選を勝ち抜いたということなのだから。


 四ブロックに分けてのバトルロワイヤル方式とはいえ、あの予選を勝ち残ったということは、クロウは僕の想像よりもずっと強いのかもしれない。


「えっと、なんでクロウが出ないんだ?」


 僕は当然の疑問というか、お決まりの質問を投げかけた。


「じ、実はよ……」


 クロウはきまりが悪いといった様子で話し始めた。



「……次の対戦相手に勝てる気がしないから辞退したかったけど、出来なかったから代わりを探してた、だって?」

「そ、そういうことだ……」


 クロウが言うには、予選はバトルロワイヤル形式だったから、極限まで影を薄くしていたらたまたま本戦進出の条件である残り四人まで残ってしまったということらしい。


 クロウに対するこれまでの認識を改めた一瞬の時間を返してほしい。


「なんだそれ。あまりにも、なんというか──」

「待て、それ以上は言うな」


 とのことなので、「間抜け過ぎるだろ」と言うのは辞めておくことにした。


 そもそも、こういうことが起きてしまう予選に意味は、そして意義はあるのか。

 実際の予選が具体的にどのようなものだったかは僕は知らないが、流石にこのやり方には異議を唱えざるを得ない。


「頼むハル! いや、影の冒険者様!」


 と、クロウは両手を合わせる。


「いいじゃないですかハルさん! 私、ハルさんが戦うとこ見たいです!」

「まあ、僕としてもそれは別にやぶさかじゃないんだけど、それってルール的にはアリなの?」


 この典礼って、結構硬派なイメージというか、伝統的なやつだと思うんだけど。


「“代わり”としてではなく、“出場権の譲渡”による正式な選手としての出場ならば特に問題はない」

「あ、天黎さん!」


 と、フェイが後ろを向いて軽く会釈する。


 いつの間にか、僕の背後には天黎さんが立っていた。当然のように気配を消しているのはいかがなものかと思う。心臓に悪いからやめてほしい。


 天黎さんはフェイに会釈を帰すと、話を続けた。


「それに、彼の言いたいことも分からなくはない。第四試合、彼の対戦相手はあの〝獣王〟だからな。とはいえ、あまり褒められたものではないが」

「す、すんません……」


 天黎さんが良いって言うなら、とりあえず大丈夫か。やり過ぎない程度に暴れちゃおう。やる時はやる、これが僕のライフスタイルだからね。


「それじゃ、一旦僕は特別席にいるレン達に声を掛けてくるよ」

「ホントにありがとなっ! 今度何か奢るぜ!」


「ハルさんが出る第四試合って、次の次ですよね? ウォーミングアップとかも必要だと思うので、私が皆さんに伝えてきますよ!」

「本当? 助かるよ、ありがとう」


「君の健闘を祈ろう。もしかすると、()()()()の続きが出来るかもしれないな」


 そう言うと、天黎さんは背を向けて去って行く。


「もしそうなったら、今度こそ全力で戦わせてもらいますよ」


 僕がそう声を掛けると、天黎さんは右手を軽く挙げた。



● ■ ◆



 「ええっ!? ハルお兄さん、選手として出場するんですか?!」

「そうなの! さっき、知り合いの人に頼まれたみたいで……」

「それは楽しみだねー」


「お主は知っとったじゃろうが」

「あはは、まあね」


 どうやら、我が主様がこの典礼に出場するらしい。何かしらのイベントに巻き込まれる体質は相変わらず健在のようだった。


 戦うことについてどう思うかと訊かれれば、未だに完治し切っていない眼の心配より、我が主様がやり過ぎないかという心配の方が大きい。


 落ち着いているようで、やる時はやり過ぎる(たち)じゃからな。その場の勢いで「はっはっは、魔王であるこの僕に勝てるかな?」とか言い出す可能性すらある。


「ちょっと、ハルが出るなら私も出たかったんだけど。今から乱入したら何とかならないかしら?」

「即出禁で即終了じゃな」


 最悪、妾達にも飛び火しかねん。


「──いやあ遅れた遅れた! 典礼はもう始まってしまっているみたいだね」


 と、後ろの特別席の出入口が勢いよく開き、かなり豪勢な格好をした若い男が入って来る。


「や、ダンテ。久しぶり」

「君も元気そうで何よりだよ、未来演算(ラプラス)。君に会えただけでも、わざわざここまで足を運んだ甲斐があったというものさ」

「マルタって呼んでって言ってるでしょ。 ダンテもスキルの名前で呼ばれたいの?」

「ごめんごめん。分かったよ、マルタちゃん」


 ダンテ・クロード・アベラルド──この男が、クロノフェリアという国の国主か。

 妾が例の場所に封印される以前の時代には、クロノフェリアの名を持つ国家は存在していなかったはずじゃが……。


「あれ、ハルという名前の冒険者がここにいると聞いていたんだけど……」

「ん、だーりんなら選手控室にいるよ。第四試合で戦うからね」

「だ、だーりん?」


 おお、そこに触れるとは、なかなか常識のあるやつらしい。


「まあでも、丁度よかったよ。僕、緊張して何を話せばいいか分からなかったからさ」


 あはは、とその男は笑う。


「彼のこと、教えてくれないかな?」


 登場時から、常に顔に笑みを浮かべているこの男。服装も相まって、胡散臭さが半端ではない。


 それにこの男──感情や思考が読めないだけでなく、実力の底も見えんな。この不快感は、あの時臣という男以来か。


 いや、あの男は()()()()()()で実力が隠れていたが、此奴は明確に自分の意思で完璧に隠しておる。つまるところ、相当な曲者ということじゃな。


「教えてって言われても──別に、面白いエピソードなんて何もないわよ?」


 そんなことはないと思うが……。


「強いて言うなら、めちゃくちゃ強いってとこかしら?」

「あはは、そりゃそうだろうね」


 その男は、笑顔を崩さずに続ける。



「────だって彼、魔王でしょ?」


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