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【第91話】琥珀の魔法使い、そして冒険者パーティ。


 今から五ヶ月と少し前、ファレリアという街に一つのパーティがあった。そのパーティは、一人の魔法使いが突出して優秀な点を除けば至って普通のパーティだった。


 その優秀な魔法使いはパーティに入ってからまだ日は浅かったが、パーティの雰囲気の良さもあってその魔法使いはすぐにパーティに馴染むことが出来た。


 大体一ヶ月が経ったある日、ファレリア近郊の森で大事件が発生した。立ち入り禁止区域に指定されていた森で、魔王が発見されたという。


 発見された魔王はS級冒険者とたまたま居合わせたC級冒険者によって討伐されたのだが、その余波はしばらく続き、ファレリアの冒険者達は街の外へ出ることを躊躇していた。



「なあ、アグルス城跡地で隠し部屋が見つかったらしくてさ、俺らで行かねーか? 今、結構なチャンスだと思うんだよ」

「いや、まだ危ないでしょ? 昨日あんなことがあったばかりなのに……」


 あんなこと、というのは勿論ディグランの森で起きた魔王事件。今まで確認されなかった新たな魔王が出現し、そこそこな数の冒険者が命を落とした。


 当初の予定ではワタシ達も“最上位魔族”の討伐任務に参加する予定だったんだけど、ワタシが反対したのと、たまたま別の依頼が被ってしまって渋々断念することになった。


 危険な目に遭わなくて結果的には良かったはずなのに、ユアン達はどこか残念そうにしていた。


 しばらく一緒にいて思ったんだけど──このパーティは雰囲気も良いし連携も出来てる、だけど危険を顧みないというか、冒険心、好奇心が強すぎるのよね。

 任務や依頼で半日以上ファレリアを空けることなんてざらにあるし。


「大丈夫だって、ディグランの森を通るわけじゃないんだしさ!」

「ああ、アグルス城跡地に行くだけなら俺も大丈夫だと思う」


 ほら、こんな感じ。


「せめてもう数日は様子を見たほうが──」

「大丈夫大丈夫、もし何かあっても俺らなら何とかなるし、それにミラだっているじゃんか!」


 どこからその自信が湧いてくるの? それに結局ワタシ任せじゃない……頼ってくれてるのは分かるけど。


「分かった、それじゃこうしましょう。今からワタシと戦って、ワタシを納得させられたら行きましょうか」


 意地悪なことを言ってるのは分かってる。

 でも、こうでもしなきゃ彼らは止まらない。


 貴方たちはあの調停者ほど強くもなければ、調停者と共に魔王と戦ったという例のC級冒険者ほど特別でもない。

 特別な何かを持たない人は、慎重に、スローペースで生きるべきだとワタシは思う。冒険者は特にね。


 ちなみに、ワタシは自分を特別だと思ってるわよ。


「で、出たよそれ……昨日もそんなこと言ってたよな。俺たちがミラに勝てないの、分かってるだろ?」

「なら話は早いわね。アグルス城跡地に行くなら、最低でも三日後よ、分かった?」

「へいへい。その代わり、三日後も行かないはナシだからな?」

「それはもちろんよ」


 これで良いの。少し申し訳ない気持ちはあるけど、全部彼らを思ってのこと。この子達も分かってくれるはず。



 だけど、これはワタシの願望でしかなかった。ワタシは彼らを──いや、冒険者というものを甘く見ていた。


 その日の夜、食事を終えたワタシはいつもの宿屋にいた。


 暇だったのでシェリカの部屋に寄ってみたら、どうやら留守。

 ユアンかリルドの部屋にいるのかと思い向かってみると、何やら話し合いをしているようだった。


「なあ──明日、俺たちだけでアグルス城跡地に行かね? ミラにこれ以上負担を掛けないためにも、俺らも出来るってこと証明しようぜ!」

「確かにいつまでも頼りっぱなしって訳には行かないが、ミラとの約束もあるしな……」


「そ、そうだよ。ミラちゃん、すごく怒っちゃうんじゃ……」

「バレなきゃ大丈夫だって!」


──ガチャ……


「──流石シェリカ、よく分かってるわね。絶賛ご立腹中よ」


「げっ、ミラ! 聞いてたのかっ!?」

「ええ、途中からだけどね。それで、何だって?」

「いやこれは──」

「約束したわよね、三日後だって」


「全部ミラを思ってのことなんだよ!」

「ワタシからすれば既に迷惑なんだけど? 貴方たちに何かあったら、嫌な思いをするのはワタシなんだから」


「……大体、ミラはいつも過保護なんだよ! 心配し過ぎっていうか──」

「当たり前でしょ? 同じパーティメンバー、それに大して強くもない貴方たちを守るのがワタシみたいな“強い冒険者”の役目なんだから」

「な、なんだよそれ……」


「ふ、二人共、落ち着いて……」


 そう言って、シェリカは二人の間に割って入る。


「リルド、こればっかりは俺らが悪い。謝ろう」

「だ、だけどよ……」


「はあ……もう、勝手にして。それじゃ、生きてたらまた会いましょう。一応言っておくけど、なるべく無茶はしないでちょうだい」

「ミラちゃん──」

「待ってくれ!」


 ワタシが守るにしても、限度はある。

 万が一でも、嫌な思いをすることになるくらいなら。


 ── 一人の方がいい。



「シェリカ、ユアン。それにリルドも──今まで楽しかったわ。今度会うときは同じA級冒険者として、ね」


 さよなら。


 そう言って、ワタシはその部屋を後にした。



◇ ● △



 「なんというか、ミラらしいというか……」

「何よそれ」


 想像し得る範疇というか、特に意外性のない話だったな。

 それでも、この再会は奇跡と呼んでも差し支えはないだろうけど。


「僕たちはまだB級なのに、早くも再会することになってしまったね」


 ユアンが恥ずかしそうに言う。


「というか貴方たち、結局あの後アグルス城跡地に行ったのね。ハルとパーティを組んだのはその時みたいだし……まさか、そこに接点があるとは思わなかったわ」


 それは僕のセリフでもあるんだけど──そんなことがあった次の日によくもまあアグルス城跡地に行こうと思ったな……やはり、彼らの冒険者精神には感心せざるを得ない。


「ま、まあな」

「ホント、何事もなくて良かったわね。ハルがいたなら心配は要らなかったでしょうけど」

「いやいや、俺ら魔人に遭ったんだぜ? 初めて見たぞ、俺!」

「魔人……?」


 こちらに訝しむような視線を向けるミラ。

 おっと、気付かれたか。


(流石にバレるじゃろ)


「……もしかしてその魔人って、ラティのこと?」

「ラティ? 誰だそれ?」


 どうする? ネタバラシする? 出たくないならいいんだけど。

(いや、別に構わぬぞ)


 そう言って、ラティはその小さな身体を影から露わにした。


「よう、久しいな」

「なっ?! この魔人はあの時の……!?」


「実は──……」


 僕はリルド達にラティのこと、更にミラとの出会いから、現在に至るまでの経緯をざっくりと説明し、レンとフェイのことも紹介することにした。

 当然、僕が今A級冒険者であることも(面白そうなので魔王だということは隠すことにした)。



「「「……」」」

「どう、びっくりした?」


 三人とも言葉を失っており、まさに絶句という言葉がお似合いだった。


 十秒ほど経ち、最初に口を開いたのはユアン。


「あの調停者と共闘したってのはただの噂じゃなかったみたいだね……」

「え、あれってハルのことだったの?」

「ん? うん。そうだよ」


 ミラは目を白黒させる。


「──それを先に言いなさいよっ!!」


 

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