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【第10話】冒険者、そして蒼の少女。(2)


 「話してたらあっという間でしたね!」


 僕達は王都デルクの門に到着し、門番の人に冒険者カードを提出する。


 冒険者カードはほとんどの国で身分証代わりになるのだが、それは冒険者という職業が世に浸透しているということを表していた。


「なんと、この王都デルクには強力な対魔結界が張ってあって、その辺の魔物は入れないようになっているんです!」

「そうなんだ。それは心強いね」


 だってさ、ラティ。悪いけど、明日になるまでここで待機しててくれ。

(おい、冗談じゃろ?)

 大丈夫、なるべく早く迎えに来るから。

(そもそもこの程度の結界なんぞ、なんともないわ!)

 なんだ、そういうことなら早く言ってよ。


 まあ何となく分かってたけど。


 ……なんか、無言の圧力を感じるな。



「どうぞ、確認が取れたのでお入りください」

「どうも」


 冒険者カードを受け取ると、僕達は王都ダルクに足を一歩踏み入れた。


「……?」


 一瞬、謎の立ち眩みに襲われる。


「ハルさん? 大丈夫ですか?」

「あ、うん。大丈夫」


 自分じゃ気付かなかったけど、結構疲れてるのかも知れないな。呪いとか掛けられたし。


 今更だけど、どうして軍狼上位種が呪い系統の魔法使えたんだろう。軍狼の使う魔法は風属性だけのはずなのに……最近の魔物も進化しているという事なのだろうか。とすれば、対策を講じる必要が────。


【──パッシブスキル『呪い耐性』を習得しました】


 えっ?

(おっ?)


 いやいや、なんで急に?

(そりゃ、お主が願ったからじゃろ)

 え、そんな簡単に?

(うーむ……お主は一度呪いを食らっておるからな。その分習得が速くなったというところか)


 特訓中に聞いたラティの話によると、このスキルは大まかに言えば『物事の習得・成長速度が超加速する』というものらしい。まあ、大体文字通り。


 細かいことはまだ分からないとのことだが──改めて、僕はとんでもないスキルを習得してしまったのだと感じた。


「ハルさん? 本当に大丈夫ですか?」

「ごめんごめん、大丈夫だよ。行こうか」


 このやり取りに懐かしさを感じつつ、今度こそ王都の中に入って行った。



□ ★ □



 門の向こうはとても明るく、こんな時間だというのに未だ賑やかだった。門の外の暗さ、静けさとは全くの真逆──これが、王都デルクか。


 正面は大きめのストリートになっていて、左右には多種多様な店が並んでいる。王都デルクの玄関口となっているこの場所からは、人々の活気が直に感じられた。


「どうですか? 凄いでしょう王都は! このメインストリートを真っ直ぐ行くと中央広場に繋がっているんですよ!」

「すごいね。ファレリアにもこういうストリートはあるにはあるけど、規模が段違いだよ」


 ここなら何でも揃いそうだな。後で少し寄ってみようか。


「僕は今日泊まる宿を探してくるよ」

「あ、それでしたらオススメのとこありますよ!」

「そう? じゃあ案内を頼もうかな」


 僕はフェイに宿屋まで案内して貰うことにした。

 宿を取った後はどうしようか──食事……いや、先に道具を見てみるのもありだな。


 やりたいことが多すぎて迷う。知らない地というのはこれまで人を惹きつけるのか……。


 「ふふ、楽しそうですね」


 気付けば、フェイがこちらを見てニヤニヤしている。

 どうやら僕は、かなり顔に出やすいタイプのようだった。これは今まで一人だった僕には気付けなかった大発見。


 メインストリートを抜け、とても大きな広場に出る。


 真ん中には噴水、そして日は既に落ちているというのに、先ほどの活気が続いているかのようにとても賑やかだった。


「ここはいつもこんな感じですね。旅商人の方が露店を開いてたり、冒険者がパーティ募集してたりもします。色んな人が活動しているんですよ」

 


 そのまま中央広場を抜け、五つに別れた道の一つに向かう。


 なるほど、中央広場から更に道が分岐しているのか……上からみたら熊手みたいになってそうだな。それに遠くに見えるあの大きな城と教会──どの道を通れば辿り着くんだろう。


 そんなしょうもないことを考えていると、フェイが話しかけてくる。


 「宿屋はメインストリートにもあるんですが、こっちの五番街にある宿は安くて設備もよくて、とても良い場所なんですよ!」


 僕が相槌を打とうとしたその時だった。



「──あっれぇ? 落ちこぼれフェイじゃん! こんな所ほっつき歩いてる暇あったら勉強でもしたらー?」



 その声に振り返ると、三人組の少女が立っていた。歳はフェイと同じくらいだろうか。


「って、あなたは? もしかして、フェイの仲間ですか?」


 僕はフェイに目を向けると、あからさまに嫌そうな顔をしていた。それはつまり、彼女達が友達ではないということ。


「今すぐ仲間、辞めた方が良いですよ? そいつ、呪われた魔女の血なんです。お兄さんも何されるか──」

「あ、あの。もう行きましょう」


 フェイに引っ張られるようにその場を離れた。


 なんというか、想定していたよりも酷いな。



「さっきの人たちは?」

「うっ、普通気になってもあまり聞かないのが大人の対応というものなんじゃないですか?」


 確かに、悪いことをしてしまったかもしれない。


「私、王都デルクの魔法学校の生徒なんです。あの人たちは同級生なんですけど──ああやって、一部の人からちょっとした嫌がらせを受けてるんです」


 こういうことはよくあるので、慣れちゃいました。と、無理矢理作ったような笑顔を見せるフェイ。


「私、魔法があまり上手ではなくて……だから、落ちこぼれって言われてるんです」

「そうなの? 僕はそうは思わないけど」

「え?」


 王都デルクの魔法学校の平均がどの程度かなんて、僕は知らないけど。


「さっき僕を助けてくれた君は、僕からすれば立派な魔法使いに見えたよ」

「あれは偶々うまくいっただけで……普段は役立たずなんです」

「でも、僕にとってはそうじゃない」


「少なくとも僕の前では、堂々としていて良いんじゃないかな」


「──それに僕は、君の蒼い炎が好きだよ。だって、赤より目に良さそうだしね」


 フェイはぽかんとした顔をした。


「ふふっ、なんですかそれ」


 やっぱり、彼女は笑顔の方がよく似合う。



◆ □ ◇



 「着きました、ここです!」


 フェイの案内で着いたのは『リベルタス』という看板の下げられた宿屋だった。


 中に入ると、宿泊客が散見された。


「一階は飲食店になっていて、二階から宿泊施設になってるんですよ」


 なるほど、食事処としての一面もあるのか。


「あっでも、騒音とかは全くないので安心してください!」


 防音はバッチリです! と、フェイはグッドポーズをした。


「おっ、フェイちゃんいらっしゃい!」

「ミネルヴァさん! 今日も来ちゃいました!」


 店主らしき人のもとに駆け寄るフェイ。

 フェイはこの店の常連客なのだろうか。


「おや、その人はまさか……!?」

「はい、この方は──」

「ちょっと皆! フェイが彼氏連れて来たよ!」

「えっ」

「えっ、いや違っ……」


「何だって!? 聞いてねーぞフェイ!!」

「パーティの準備をしなくちゃ!」

「へえ、物好きもいるんだねぇ」


 店の奥から店員らしき人がぞろぞろとやって来る。

 わあ、大変だ。

(満更でもなさそうじゃな……)


「皆さん、違いますから! この方は私の、私の──友達、です」


 と、恥ずかしそうに言うフェイ。


「どうも、フェイの友達のハルです」


「ミネルヴァ姉さんの早とちりかよ!」

「でも、友達連れて来たのも始めてじゃないかしら?」

「どっちみち物好きじゃんね」


 どうやら僕が物好きであることは確定らしい。まあ自覚がない訳ではないけど。


(お主を物好きでないというなら、この世に物好きはいないということになるぞ)

 それは言い過ぎだ。


「皆さん、この方は宿を取りに来たんですよ!」

「あら、そうだったのかい。それじゃあ部屋はどうする?」

「どうする……? まあ、一部屋でお願いします」


「「「えっ」」」

「えっ?」


 え、何かまずいこと言ったかな。


 フェイに助け舟を出してもらおうと視線を送るも、笑顔が返ってくるだけだった。


「ははは、大丈夫! 部屋は防音だからね」


(おい、ややこしいことになっとるぞ。はよう誤解を解かんか)

 誤解って言われてもどこがすれ違ってるのか────、


 ……あっ。



「────あの、泊まるのは僕一人です」


記念すべき10話目です。読んでくれている方、本当にありがとうございます。

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