64 「大丈夫です! リリアンお嬢様は、わた、わたしがお守りしますとも……」
すったもんだの末、わたしの守りは閣下謹製の精石を身に付けるのが一番なのではという、ごく当たり前の話で終わった。
わたしもすっかり失念していたが、精霊術師がいなくとも、精霊さんがいればそういうのを作れるわけですよ! 多分。
(閣下、そういうことは早く言ってくれ!!)
ちなみに、既に持っている精石への重ねがけは無理らしい。元から込められている力と閣下の力が反発しあって、普通に壊れてしまうらしい。
だから、守護等がないただの宝石が望ましいそうだ。エナメルなどの装飾品では定着できないとか、わたしには分からない決まりがあるようだ。
普段身につけられるような石付きの装飾品を用意しておくよう閣下にいわれたので、ジルと相談してどれがいいか考えた。
絶対必ず身に付けるお守りにするので、目立つ装飾は無理。イヤリングは母から贈られたものがある。指輪も父からのがある。そうなるとどれにしようと考えて、ブレスレットが最終候補に上がった。
普通のものは長さ的に無理なのだが、変わり種デザインで二重に巻くタイプがあり、これならばサイズ調整ができるので、アンクレットにもなるのではとわたしは考えたのだ。実際、合わせてみれば予想通りに何とかなった。
足首ならば目立たないし、敵からも盲点になる。普段はドレスの裾で分からないので、トータルコーディネートする時も邪魔にならないと、ジルと意見が一致した。
ジルといえば、昨日の大聖堂での馬車を見てすっかり怯えてしまっている。無理もない。あの謎の手が見えているわたしでも吃驚なのだ。
見えないままのジルは、さぞ怖い思いをしただろう。それでも昨日はちゃんとお仕事をしてくれて、今日もいつも通り働いてくれている。
顔色が悪いのは、昨夜の恐怖を引きずっているからだ。
「……ジル、今日は大丈夫?」
尋ねればジルは首を振る。少しでも負担となるまいと笑顔を浮かべてくれるが、やはり強張りが見てとれた。
「あの、き、昨日の件なんだけど……」
「大丈夫です! リリアンお嬢様は、わた、わたしがお守りしますとも……」
言葉と共に、感情も溢れてきてしまったらしい。ジルはわたしの手を握ると、涙目で見つめてくる。
「わたしには分かりませんが、お嬢様へ何か怖いことが起きているのは感じています」
ぎゅっと、握る手に力が入る。
「きっと大したこともできませんが、それでもお嬢様をわたしはお守りしたいと思っています。リリアンお嬢様とは長い付き合いです……我慢しないでください」
「……ありがとう、ジル。本当にね、ありがとう」
ジルの方が訳がわからないままで、ずっと怖いと思う。わたしにはデミオンも閣下もいるし、相談だってできる。
けれどもジルはきっと誰にも告げずに、わたしのために頑張ってきてくれた。我慢してくれた。それどころか、今もわたしを慮ってくれる。
そして、これからもわたしのために勇気を出し守ってくれるという。それはとても凄いことだ。簡単に真似できることではない。
(……ジル)
わたしもわたしの気持ちを込めて、ジルを見る。ジルの気持ちに応えるように、その心を感謝と信頼を込めて彼女を見つめる。
「わたしはね、ジルがわたしの侍女でいてくれて、とても嬉しく思っています。もう嫌ですって言われても仕方ないと思うから、反対にそう言ってもらえて……光栄です」
「お、お嬢様!!」
「わたしもジルのことを守るし、頑張るからね! ……伝えられないことばかりだけど、それだけは信じて!」
「な、何ですか! お嬢様はお嬢様なんですよ、リリアンお嬢様がわたしを守ってどうするんですか。そんなことを言ってはいけません……」
握る手から伝わるのは体温で、きっとそれは誰かが誰かを思う温度なのだ。
自分とは違う温もりは、見ることができない、けれども確かにここにある気持ちの感触だと思う。
見えないからこそ、わたしたちは他の方法で誰かの優しさや尊さを知ることができるのだろう。
言葉で表せない熱量も、質量も、重量さえも、伝わってくる。いや、伝えようとしているのだ。
ジルがぎゅぎゅっと、わたしの手を握る。
わたしは嬉しくて、嬉しくて、負けないくらいの笑顔でお返事する。彼女に応える。
「ありがとう、ジル」
──わたしは幸せなお嬢様だよ。
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