63 「今回のお話で、わたしのワクワクが目減りしました。返してください!!」
今回のお話は短いです。
「一角獣がオスもメスもいて、他種族から配偶者として子供を攫うとか、閣下もういいです!! わたしの一角獣のイメージが散々なものになりました!!」
この国にはいない、大陸にいる人外の話を閣下に求めたら、知りたくもない話まで聞いてしまった。
(ここの世界の一角獣は想像と違って変態だし、大砂漠には砂竜とかいう怖い竜がいるらしいし、妖精さんは老若男女問わずのハーレム大好き破廉恥だった……)
「わたしは、もっと夢と希望がてんこ盛りのお話が聞きたかったです!!」
「とりあえず俺が分かったことは、国外は危険が多いということですね。リリアン嬢は、絶対に大陸へ行ってはいけませんよ」
ほら、デミオンの人外者へのイメージが、さらに悪化してる。もう笑顔でもないよ。
だが、閣下は閣下で、精霊が一番平和的で潔癖で素晴らしいとか言い出している。
(精霊は上から目線な性格がいまいちなのでは? それとも、閣下だけがそうなの?)
「……分かりました。もう閣下には他の種族のことは聞きません。今回のお話で、わたしのワクワクが目減りしました。返してください!」
「吾輩に無茶言うな!!」
とはいえ、その人外者たちの長はそれぞれの国で神のように崇められているらしい。この国の精霊王と同じなのだろう。神様の代わりに、彼らが世界の上位者として君臨しているらしいと、わたしはこの世界の決まりごとを知った。
思っていたよりも、世界はファンタジー要素が多めのようだ。
(デミオン様は勿論、閣下に会わなかったら絶対気が付かないで普通に生きて、人生終わっていたよね)
「それで、話を進めますが……別の存在の協力者は、今例にあげていた人間ではない存在のどれにあたるか、分かりますか?」
「どれであろうとも、吾輩にはまだ分からん。それに階位が高ければ高いほど、その姿を巧妙に隠すはずだ」
「では、相当手強い相手なのですか?」
それ実はヤバいことなのではと、わたしはとても不安になってしまう。
「反対に、階位が低過ぎて分からないと言うこともある。吾輩に任せておけ、心配無用だぞ、娘!!」
「階位が低すぎるということは、どういうことですか?」
閣下の励ましに被せるよう、デミオンがさらなる追加質問だ。
「通常はドラゴンだろうと一角獣だろうと、全ての存在は人間より階位が高い。だが、先ほどの説明通り奴らは人と交わることがある。血が混ざり、階位を保てぬほどに薄まった末裔などは『混ざりもの』と呼ぶが、その場合は人にはない力を持ちながら、階位的にはほぼ人間並みなので大変分かりにくい」
「人には無い力ですか?」
「だが白百合よ、そんなもの吾輩にかかれば全て塵芥にしてやるわ!」
不敵の笑み? をしているらしい閣下は、渋いイケボと相まってとても頼もしい。
「しかし……そうなると、この屋敷の守りでは心許なくなってきたな。人の子の呪い程度ならば問題ないが、大陸の奴らでは荷が重い」
「流石に、デミオン様と一緒に寝るのは無理ですよ」
「なっ、何を言って……」
まるでプシューと湯気が上がるように、彼の顔が真っ赤になってしまう。本人も気がついたのだろう。手で覆い見えなくしてしまう。
「お、俺は、そんな破廉恥なこと望んでませんよ! そ、そ、そういうのは、ですね……」
「婚姻式を終えて、お披露目式も終え、ちゃんとしてからですよね。分かっていますよ、デミオン様」
とはいえ、非常事態なのでどうしよう。同衾は無理だが……閣下ぐらいならば大丈夫なのでは。ぬいぐるみを枕元に置くようなものだ。
「娘、何だ?」
「閣下、わたしと寝ますか?」
その時、突風が吹き荒れた。
しかも超局地的なものだ。
薄っぺらくはないのに、ヒラヒラとウミウシ閣下が天井近くまで舞い上がる。
「それは駄目ですよ、リリアン嬢」
犯人が笑顔で仰るので、わたしはこくこく頷くだけだ。ここ最近、デミオンの深海の瞳がバラエティに富んできた。宿る感情が増えたのは喜ばしいが、少し怖い。
(きっと、本気で怒らせちゃいけないタイプだ!)
まあでも、全部諦めていた頃よりはとても健全で、良いではないかと思うわたしもいる。
「そうだ、閣下? もし、大陸からやって来た方の仕業だった場合、その理由は何でしょう?」
わたし個人への恨みではないことは確かだ。何しろ、大陸へ行ったことがないのだから。
ヘロンとしたペラ閣下が、焼き菓子を丸呑みしてふっくらさんに戻る。そうして、厳かな雰囲気でいう。
「──異界渡りの魂か、我が君の恩寵狙いよ」
忌々しいものを見つけたような、そんな荒んだ声だった。
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