表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/89

62 「し、白百合が、吾輩を『閣下』と呼んでいる!!!」

ちょっと本日は更新遅刻しました。、

 

 

「閣下、あれは何ですか!!」


 帰宅したわたしはお茶の準備をジルにお願いし、空いているお茶会用の応接室でデミオンと歓談する旨を告げる。

 実際は、わたしとデミオンと閣下とのお話し合いだ。


「大きな透明な手が見えたんですが、あれがわたしへの呪いの正体なんですか?」


 書類上は夫婦ですという無茶でふたりきりにしてもらい、早速わたしは閣下に詰め寄る。


「……そのことなのだが」


 デミオンの肩から降りた閣下は、テーブルの上でプルプルする。どうも口が重そうだ。


「言いにくいことなんですか?」


 デミオンが閣下に尋ねる。


「……多分だが、人ではないものが関わっている可能性が出てきた。あの超巨手ジャイアントハンドは、普通の人間に扱えるものではない」

「つまり、普通でないならば、できるということであってますか?」


 さらにデミオンが問えば閣下が嫌そうな顔になる。


「そうだ。例えば……精霊を使役する。或いは別の存在の協力者がいる場合だな」


 そこでわたしは、かねてからの疑問をぶつける。


「精霊術は、そういったものではないのですか?」

「吾輩らを使役など出来るわけがなかろう!! 精霊術とは、吾輩らが其方らに力を恵んでやっていて成り立つものだ。……そうだな、恩寵の白百合は精霊術を扱うことはない。その意味が分かるか?」

「閣下の言い方で考えると、デミオン様は精霊の愛し子なので……そうか、好きな子に恵んでやるなんて上から目線はないですね。むしろ、してあげたい! 命令してよ! な、お気持ちになるのでしょうか?」

「そ、そうだな。大体そんなところだ。吾輩らにとって、白百合は特別な存在なので精霊術など成り立たない」


 それは知らなかった。

 わたしのイメージだと、精霊と約束事をして力を使わせてもらうものだと思っていた。けれども実際は、精霊が上位者で下位である人間に施しとして、力を渡している。


「どの精霊とて、人よりは上位となる。だからこそ、使役などあり得ないのだ」

「だが、閣下の予想だと……精霊が使役され、リリアン嬢へ害をなした。そう考えられるんですね」


 その瞬間、閣下が弾けたようにぴょんぴょん跳ね、四方八方に飛んでいく。何が起こったのだろう。


「し、白百合が、吾輩を『閣下』と呼んでいる!!!」


 叫びながら、目をキラキラさせている。


「……そういえば、デミオン様は今まで閣下のこと閣下とは呼んでいませんでしたね」

「今回、リリアン嬢を助けてくれたので、呼んでもいいかなと判断しました。ですが、リリアン嬢の迷惑となる存在になるのでしたら、干物にして鳥の餌にしてしまいましょう」


 笑顔でデミオンが、そう言い切る。

 これは本気のやつだ。閣下の今後によっては、庭に来る小鳥の餌になるかもしれない。


「……吾輩、我が君の第一席の臣下なのだぞ」

「では、キリキリ今後も働いてください」


 デミオンはピシャリとそう告げる。

 これが飴と鞭なのかと思うが、途端しょぼくれてテーブルに戻ってきた閣下を見ると少し可哀想でもある。


「閣下、今日はありがとうございます。このクッキー、ナッツとレーズンがたっぷり入って美味しいですよ」


 ジルに小皿もひとつ用意してもらったので、今回は閣下の分をお皿の上に小盛りで用意した。


(閣下、意外と焼き菓子好きよね。甘党で渋イケボとか、ウミウシじゃなかったらモテそう)


 なんて美味しいギャップ持ちだ。

 わたしの差し出したおやつに、閣下がまたうるりとする。


「娘、其方……思っていたより良い奴だな」

「……リリアン嬢、やはりこのウミウシは干物にしましょうか?」


 その酷い言葉に、また閣下はピャッとなりしょぼくれるのだ。

 

 

 

 

「で、話を戻すぞ」


 閣下の声に、わたしはこくこく頷く。今、お口にクッキーが入っているので声が出せないのだ。


「さっきまでの説明によれば、使役される筈がない精霊が、使役されているかもしれない可能性ですね。けれども、別の存在の協力者もいるとも言っていました。別の存在とは何です?」

「……精霊ではない者だ」

「それは、俺たち人間とは異なる存在のことですか?」

「そうだ。この国に我が君の恩恵が満ちているからこそ、吾輩たち精霊も人間へと施す。だが、海を超えればそこは吾輩らの管轄ではない」


 デミオンの質問に、閣下が次々答えていく。


(あれ、でもそうすると……海の向こうって……)


 わたしはごくんとクッキーを飲み込むと、急いで話に参加する。思いついたことをぶつけてみた。


「閣下!! じゃあ、この国以外のところには不思議な存在がいると言うことですか。ど、ドラゴンとか、ドラゴンとか?」


 前世で読んだ小説に出てくる生き物が、この世界にもいるということだ。わたしは興奮してしまう。


「トカゲのでかい奴か?」

「いや、ドラゴンですよ? 竜ですよ?」

「だから、トカゲのでかい奴じゃろ!! 多分、海の向こうの山奥行けば、いるんじゃないのか? 吾輩、トカゲは好かないので、よう知らん」


 ドラゴンはトカゲのでかい奴なのか。いや、閣下がそう思っているだけで、実は想像通りの格好いい生き物かもしれない。


(人型になれたりするのかな? 番とかいるのかな?

 宝物とか持ってるのかな? 空を飛べたり、火を吐いたりするのかな?)


 わたしはソワソワしてしまう。この世界に、そんな素敵な秘密があったなんて知らなかった。


「その、ドラゴンとやらを……リリアン嬢は愛玩動物に欲しいんですか?」


 いきなりの質問に、わたしはまた口をつけようとしたカップを落としそうになる。


「で、デミオン様、ドラゴンは巨大な生き物だと思うので、愛玩動物ペットは無理だと思います」

「白百合よ、トカゲのでかい奴は面倒な生き物なのでやめておけ! あれは思い込みが激しくて、会話するにもイライラするからな。あと、人間の女子供に惚れっぽいから気を付けておくべき生き物だぞ」

「閣下、素晴らしい助言ありがとうございます。それはとてもいけない生き物ですね。リリアン嬢は俺と書類上は婚姻した仲ですから、ドラゴンを愛玩するのは諦めてください」


 いや、そもそもわたしは、別に欲しいなんていっていない。胸にあるのは子供並みの清らかさだ。怪獣を見て、わーきゃーする童心と同じなのだが、デミオンの目があんまり笑っていない。

 爽やかな笑顔なのに、その猫うちでは飼えません! と、叱るママのよう。


「そ、そうですね。ドラゴンは会わない方がいいかもしれません」


 なお、閣下はデミオンに褒められて感激して涙を流している。とても幸せそうだ。


「ええ、危険な生き物だと事前に分かってよかったです」


 ちなみに、閣下の追加情報によると、ドラゴンは極々稀に、人間の婦女子を攫ってしまう厄介な個体もいるそう。そのかいあって、デミオンのドラゴンへの心象はますます悪くなるのだった。

 


 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。



 この作品を気に入ってくださった方は、感想やいいね!、ブクマや広告下評価【★★★★★】等でお知らせいただけますと嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
画像をクリックで、ビーズログ文庫様の作品ページへ
皆様のお陰で書籍化しました。ありがとうございます!! 
ビーズログ文庫様より発売中です!
メロンブックス/フロマージュブックス様、
書き下ろしSSリーフレット特典付き
アニメイト様、特典ペーパー終了しました
電子版、書き下ろしSS特典付き
※メロンブック/フロマージュ様の通販在庫は残りわずかとなっております。
― 新着の感想 ―
>「そ、そうですね。ドラゴンは会わない方がいいかもしれません」 ドラゴン、絶滅の危機を脱する。の回。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ