59 「俺様系は苦手ですね、読んでるとお断りしたくなる瞬間が来ます」
すみません、予約投稿の日付を間違えていました。
昨日投稿する分が本日になっていました。
「リリアン嬢は時々、すごく大胆になりますよね」
「デミオン様もグイグイ来る時ありますよね」
講堂との廊下を渡り切って、わたしたちは大聖堂の建物に入る。こちらは講堂の内部と違い床が石材だ。ライトブラウンの御影石の光沢が美しい。同時に、水モップをかけると大変滑りそうにも見える。
廊下の天井にはキラキラした小ぶりのサンキャッチャーが、等間隔で吊り下げられていた。
ちなみに暦の月を司る精霊には、それぞれ色がある。精霊王は黒、閣下はアオウミウシ姿の通り、青色だ。他にも緑とか黄色とか、全て合わせれば十三色。
それと同じく、大聖堂の通路に吊り下げられているサンキャッチャーも、十三色が月の順番に並んでいる。
その光景が誇らしいのだろう。
閣下はしきりにデミオンの肩で跳ね、天井を眺めている。意外と落ちないものだ。
「……その、リリアン嬢は、出過ぎた男性は好みではないですか?」
「俺様系は苦手ですね、読んでるとお断りしたくなる瞬間が来ます」
「……俺様系?」
デミオンに首を傾げられた。
そうだよ、この例えが通じるわけがない。
「俺が俺がときて、強気で女性を口説いてくる殿方ですね。意味もなく自信に満ち溢れ、プライドが無駄に高そうなタイプですよ。勢い余って「俺はお前を愛せない!」とか、婚姻初日に宣言する相手もお断りです。後から愛しているとか言われましても、初対面の人間にとんでもないことを言い出す人間ですからね。人として信用に欠けます。こちらこそ無理です、さようなら、としたくなります」
(これ、あっちで読んでた小説の感想になってる)
いや、でも、リアルに考えたとしても「お前、俺の花嫁になれ!」なんていう男だって好みではない。その上から目線が嫌だ。
(追加サービスで顎クイされても無理。そんなこと言われた瞬間に、頭突きしたくなる)
「やはり、命令形はダメですね。胸がキュンとしません」
「……お、俺は」
「デミオン様はそういう喋り方ではないですよ。でも、興味があるのですか? わたしは今の方が素敵だと思うんですが……」
顔が良いので、許せる部分もあるかもしれない。反対に顔が良過ぎて、絶対無理になる箇所もありそうだ。もし叶うならば、そのままの君でいて欲しい。
着々と経験値というか、テクを増やしつつあるので、もう属性はお腹いっぱいだと思うのだ。それとも、男性はああいう在り方に憧れたりするのだろうか?
(俺の後を歩いてこい的な?)
「……いえ、リリアン嬢の好みでないならば、そんな風になりたくないです。それに、不遜な態度は使いようですから……」
「そうですね」
わたしは頷く。貴族的な生き方を求められるので、卑屈過ぎるのはよろしくない。そのまま足を引っ掛けられて、砂をかけられ蹴り飛ばされるコースになってしまう。
(だからと言って、傲慢過ぎたら人付き合いに支障をきたすし……匙加減が難しい)
「とはいえ、俺もまだまだですね。貴女のことになると隙ができてしまう。リリアン嬢は俺のために、堂々と前に出てくれるのに」
「デミオン様はわたしの大事な婿殿ですから、そこはわたしも引くわけにはまいりません!」
婿殿ひとり守れないようでは、乙女の名折れ!
思わず拳を握り、鎖を鳴らしてしまう。それにわたしはハッとし、お上品さを取り戻した。
「……すみません。わたしのこの台詞も、かなり根拠のない無意味な自信ですね。やる気だけ満ち溢れても、実績が伴っていませんから誇大妄想でしかありません」
叶うならば、女子力(物理)が欲しいものだ。そうすれば、本物の盾にもなれるだろう。
(だけど、残念ながらわたしは女騎士じゃないし、その才能もないんだよね)
心がしゅんとしてしまう。理想と現実は、上手く重ならないものだ。物語のような公爵令嬢や辺境伯の跡取り娘みたいな、権力とか腕力があれば言動に説得力もあったに違いない。
「そんなことはありませんよ。リリアン嬢はきちんと、俺を守ってくれています。さっきも、元父相手に言ってくれたではありませんか?」
「ですが、もっとバシッと決めたかったです。あの様子ですと、また偶然出会うことになればちくちく嫌なことを言ってきますよ」
華麗に相手をぐぬぬ……とさせるのは、なかなかどうして難しい。現実的に見て、やはり権力というとっておきが欲しいものだ。それで往復ビンタできたならば、あちらさんも静かに黙ってくれると思う。
(もしくは、札束でオラオラビンタとか?)
リアルではけして、お目にかかったことがないやつだ。
「まあ、何度言ってこようとも、わたしは負けない気持ちで反論しますから」
大体、言い分がおかしいのだ。
(そりゃあ、侯爵から見たら大したことない伯爵家の娘でしょうよ。きっとすぐ騙されそうな貧弱な小娘にも見えたんでしょうね)
「ですが、誑かすはないです!! わたしはそっち側ではなく、わたしが誑かす方になるつもりなんですよ!!」
つい意気込んでいえば、デミオンが嬉しそうに目を細める。
「ええ。リリアン嬢は俺を泣かせてくれる予定の方ですから、とても楽しみにしています」
「娘、お前、白百合を虐めるのか!」
キョロキョロしていた閣下が、急に叫び出す。わたしとデミオンとの会話に、首を突っ込んできた。
くわっとわたしに迫るが、デミオンに首根っこ? らしき部分を摘まれ真上に放り投げられる。
ぎゃーなんて悲鳴が上がったが、デミオンはまるっと無視だ。わたしも閣下なら、跳ねて戻って来ると信じているので心配はない。
それよりも、目の前の方に困ってしまう。
「リリアン嬢、俺をもっと誑かしてくださいね」
ウキウキした顔でデミオンはそう耳元で囁くのだから、やはりタチが悪い。
さらに悪いのは、サプライズ的に婚姻届を用意したことだろう。連れて行かれた先で、わたしはその書類へと署名するよう誘われるのだから。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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