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36 「わたし、料理を残さず食べられる自信なら、そこそこ負けません」

 

 

「デミオン様はリスやウサギはお好きでしょうか?」


 歩きながら、一応確認する。寄り道提案時に特に何もなかったが、念のためだ。


「そうですね、好きか嫌いかの二択でしたら、好きにはいるかも知れません。リスもウサギも詳しくはありませんが、北方の地にはコオリウサギがいると聞いています」


 それ、知ってる生き物だ! 食用できる美味しいウサギさんのはず。


「わたしもお母様に聞いたことがあります。大きくて肉厚なので食べてよし、剥いでよし、しゃぶってもよしで、大変素敵なウサギだそうです」


 わたしの背後でジルの顔色が悪くなる。しかたない、ジルは生粋の王都っ子なので、サバイバルとは馴染みがないのだ。

 狩猟とくれば、貴族の殿方の嗜みにあったりする。女性はせいぜい狩猟大会の見物くらいだろう。地方は分からぬが、王都ではそうだ。

(でもわたしはお母様から子供の頃に聞かされていたし、食べ物は大切にって言われてきたから気にならないんだよね)

 前世で食い気のある国に住んでいた影響かもしれない。

 なので、わたしが豚を飼ったとしても、名前はトンテキと名付けてしまう派だ。最終目的が分かりやすくて、誤解がない分良心的な名前だと思う。


「冬に食べるウサギ団子のスープは格別だそうで、わたしも食べてみたいです」

「コオリウサギは、その名の通り氷にとても強いと聞きますから、毛皮は防寒に適しているのだそうです。色や質によって値段が変わり、虹色のものは王家へ献上されるほどです」


 コオリウサギ凄い!


「デミオン様、コオリウサギの骨は子供のおやつに最適で、しゃぶってると体が丈夫になるそうです。煮込むと良いダシが出るとお母様が言っていました」


 王都ではコオリウサギの肉や骨は、手に入らないらしい。見かけるのは毛皮だけとか。きっと地産地消しているのだと思う。

 わたしも母の故郷へ行って、美味しいらしいウサギ団子のスープを食べてみたい。


「伯爵夫人が言っていましたね。伯爵との婚約を認めてもらうために、金色のコオリウサギを二羽狩ったと」

「それは初耳です!!」


 え、そんな馴れ初め聞いてないよ!

 そもそも、貴婦人は狩りしないのでは? わたしの知っている貴婦人と違うのだろうか。


「刺繍をする時、お聞きしました。伯爵夫人のご実家は、狩猟の獲物で嫁入り先を決める慣わしがあったそうです。ですが、伯爵はそのあたりがからきしで、代わりに伯爵夫人が相応しい獲物を仕留めたと」


 母が意外とアクティブで、わたしは驚きしかない。

 二人で定期的に刺繍しているとは思ったが、そんな話をしていたらしい。


「狩ったコオリウサギの毛皮は伯爵夫人の父君へ、その他は伯爵夫人の母君への貢物になったそうです」


 そうして、わたしの母は無事父と婚約しそのまま婚姻したらしい。


「コオリウサギ様々ですね」

「俺もリリアン嬢のために、何か素晴らしい獲物を用意しないと駄目かもしれませんね」

「あの……わたしは、野生の獣を捌くことができないので、それはなくても大丈夫だと思います」


 そもそも、カンネール伯爵家にはその手の風習とか家訓とかないはずなので。わたし自身、聞いたことがない。


「でもいつか、貴女のために俺も何か仕留めてみたいです。捌くのも料理も俺がしますから、リリアン嬢は食べる係になってくださいね」

「ええ、その時はドンとお任せください!! わたし、料理を残さず食べられる自信なら、そこそこ負けません」


 大食いチャンピオンにはなれないが、わたしは基本お残ししない人生を歩んできた。それもこれも、母の食育の賜物である。お陰で、わたしは好き嫌いがほぼないので、本当にその時が楽しみだ。

(デミオン様が作ってくれるなら、きっと究極のウサギ団子スープになるのでは!)

 じゅるっと、わたしの心の涎が滴った。

 

 

 

 

 そんなこんなで、世間話をしながらわたしたち一行は無事アルボラス公園に着いた。確かにこの公園は木が多い。繁華街に少し緑を置きたかったのだろう。

 しかし公園の敷地に入ると、がらりと世界が変わる。


「あれ?」


 こんなに木が多かっただろうか?

 上空から見ると、きっとこんもりした緑の面積が分かるだろう。想像以上に木が繁っている。実は森だったのだろうか。見知らぬ小鳥が飛び、見知らぬ鳴き声があたりに響く。


「ここ、思ったよりも広い場所なんですね」

「多分、古い精霊術で空間が調整されているのでしょう。空間調整は手間と人員がとてもかかる繊細な術らしいです。だから今では使われませんね」

「見かけと内部が違うので、凄く不思議です」


 事実、一緒にいるジルもキョロキョロしている。初めての体験に吃驚なのだろう。


「王城のどこかにも、こういった所があるそうですよ。王立図書館や植物園、博物館の一部にもあると聞きます。王都には古い精霊術が多いのかもしれません」


 入り口からほてほて歩き、所々日が差す林道を行くと道が枝分かれしている。どうやらここで方向を変えると、繁華街の違う場所に行けるらしい。

 あと脇道に、お目当ての触れ合いコーナーがあるらしい。リスとウサギの絵が描かれている。ここのリスはわたしのイメージ通りのリスらしい。ただ、尾が二股で倍のもふもふを有している。


(なんて、もふりやすい生き物!!)


 いやいや、ミヤコウサギも侮りがたし。絵の通りならば、こちらもふわっとした体毛でお耳が短めのようだ。そしてずんぐりな感じが可愛らしい。小さな赤文字で、食用じゃないとも書いてある。確かにとても大事なことだ。

 看板の絵が秀逸で、心のもふもふ欲をやたらと煽ってくる。恐るべし。デミオン用のアニマルセラピーなのだが、わたしの利き手が疼いてしまう。この毛並みをもふりたいと、武者震いしてしまう。


 いざ行かん、リスとウサギのもふもふパラダイス! きっともふんとしたかわい子ちゃんが、わたしを待ってくれている。

 そう……この時のわたしは、それを信じて疑わなかったのだ。

 


 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


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