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27 「王太子妃殿下、お招きありがとうございます」

本日も短いです。



 王城内でわたしはデミオンと別れる。彼は予定通り王太子殿下の元へ、わたしはジルと一緒に女官に案内されて、王太子妃殿下のところへ向かう。

 王城は精霊王の愛でる白百合にあやかってか、真っ白い建物だ。尖塔が連なるタイプではなく、城と呼ぶものの宮殿のような感じだ。楕円の中庭を囲うように、建物が連なる。放射状に回廊で繋がっている建物は、後々に増築された場所だ。改築と修繕が行われているが、主だったところはできる限り建てた時のままの姿を維持しているらしい。

 何しろ王城には、建設当時から精霊による強い守りが施されているといわれている。だから既存の建物をそのままに別棟として継ぎ足して増やすことにより、古の守りの精霊術に影響が及ぼさないようしているらしい。


(どこに案内されるのだろう)


 わたしは周囲をキョロキョロしたい気持ちを、ひたすら我慢した。思ったよりも、奥向きに連れていかれている気がする。光溢れる回廊をしずしず歩きながら、緊張が増す。


(この建物のどの辺りに、精霊術があるのかな?)


 精霊術師になれる人は、生まれた時の誕生日と星巡りで決まる。だから、どんな身分でも子供が生まれれば聖堂へおもむき、調べてもらう。精霊術師になれれば、将来は安泰で食いっぱぐれないからもあるだろう。


(精霊術師って、この国のエネルギー産業に関わる職業みたいなものだから)


 特に庶民にとって、我が子が精霊術師になれるということは、とても素晴らしいことなのだ。職は確定しているし、結婚相手にも苦労しない。良いことずくめ。

 反対に貴族の場合、嫡男たる長子が選ばれてしまうと、国によって自動的に後継から外される。もう精霊術師になるほかない。だからどの家でも、それだけは避けたいとこっそり願っていたりする。しかし相手は精霊で人外だ。人間の都合を理解してくれるわけがない。

 そういう事情もあって、精霊術師は特異な立場の人たちだ。


(わたしも生まれた時に調べてもらったそうだけど、精霊術師にはなれないんだよね。デミオンもなれないって言ってるし)


 もしなれたとしたら、何ができるんだろう。精霊術師と一口にいっても、できることは各々違うらしい。便利な物を作ったり、精石に守護を付けたりするが、その彼らでも精霊の姿は見ること叶わない。

 淡い光としか認識できない、けれども確かに存在している不思議な存在。それでもわたしたちは、精霊の力を借りなければ、今の生活を続けられない。


(あやふやなのに、存在感だけはあるなぁ……)


 考え考え歩く間に、わたしたちは城内にある庭へと案内される。どうやら、室外で会うことになるらしい。進む先には、我が家のものの倍以上の大きさの東屋が見える。

 緑と花に囲まれ覆われた建物。さらに内側には細い水路が周囲を巡っているらしく、カーテン代わりに上から下へと水が垂直に溢れていく。お陰で、内部は涼しいのだろう。その上、十人以上がゆったりと寛げるような広さもあった。

 そこの中央、左右に女官を控えさせた女性がひとり。

 金の髪を美しく結い上げた彼女こそ、サスキア王太子妃殿下だろう。彼女はアリーシュ王女とは違う雰囲気をまとう。ふわふわとした甘いものではなく、綺麗に生けられた花のよう。

 眩しいほどに豪奢ではないが、凛とした立ち姿は一筋の光を思わせた。それは長らく続いた雨が上がった空にさす日の光のようでもあり、わたしはどことなく安堵する。


「カンネール伯爵家のご令嬢でございます」


 案内をしてくれた女官より紹介され、わたしはドレスの裾を軽く広げ、膝を曲げ身を沈めた。カーテシーとは、筋力を必要とする。ドレスにコルセットで装いのひとセットだ。その重さも含めて体を動かすのだから、本当に慣れないとやっていけない。


「リリアンと申します」

「ようこそ、カンネール伯爵令嬢。顔を上げて」


 その微笑みには勿論、悪意などどこにもない。いってはなんだが、王女殿下よりも知性を感じる。華美ではないが、十分に凝らされたドレスひとつとってもそう。

「このたびは、突然のことで驚いたでしょう。先の宴の件もあり、少し貴女とお話がしたかったのです」

 確かにデミオンがいっていた通り、サスキア王太子妃殿下は朗らかな方らしい。威圧的な女性でなくて、わたしは少しほっとできた。


「王太子妃殿下、お招きありがとうございます」


 そのまま、贈り物に関してもつらつら述べる。


「こちらは、デミオン様より王太子妃殿下へお渡しするよう、預かりましたご遺愛品です。どうぞ、ご査収ください」

「あら……何かしら?」


 あれ、すぐ分かるんじゃなかったのかな。大丈夫かと思いつつ、ジルが持っていた箱を女官が受け取ってくれた。


「デミオン様より、贈り物はどなたかがご寵愛した菓子であるとうかがっております」


 そこで、王太子妃殿下の顔が変わる。思い当たる節があるのか、大層綻んだ。とても嬉しそうだ。


「まあ! もしかして、あの……ケーキなのかしら?」


 よく分からないが、出だしは好調のよう。お偉いさんに会うって、生きた心地がしないね。



 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


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