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2 おかしい? わたしの前世、持ち腐れでは?

連載に不慣れなため、ちょこちょこ改稿するかもしれません。

 

 そんな訳で、即行で家に帰ったわたしは落ち着くために、紅茶をひとくちいただく。メイドさんが入れてくれる飲み物というのは、やはり美味しい。自分の手じゃない手間がかかっているから、余計に美味しく感じるんだと思う。

 これ、ご飯もそうだよね。自分で作る料理ばかり食べてると、誰かが作ったご飯が恋しくなるんだよ。


 前世は彼氏いないし、料理上手な友達もいないから、そんな経験なかったけどさ。ゲームや漫画、小説に出てくるような料理上手なイケメンどこかにいないかな。


 わたし料理は上手くないから、折角前世の記憶があっても料理革命なんてできないし、そもそもわたしの手料理より伯爵家お抱えの料理長トニーさんの方が圧倒的に上手いんです。当たり前、あちらはプロだ。


 じゃあ、以前のど定番な化粧品だって、わたし自然派ナチュラルに強くないから、作成方法から必要なものまで全く分かりません。香水、アロマもしかり。実家も進学先も普通で、第一次産業に従事してないから農地改革とか作物革命もできやしない。漁師系もマグロの一本釣りも同じこと。


 本は読むけど、ネットのラノベ系ばかりで知識がある訳もなし。刺繍とかハンクラの腕前もなく、簿記や税金も詳しくないし、無論マタギにだってなれないよ。ドアマットに耐えるほど根性もないし、いやそもそもわたしは姉妹格差どころか、ひとり娘だからね! 欲しがりな従姉妹もいない。いるのは従兄弟なんだよ。

 文才ないから、歴史に名を残す女流作家にもなれない。この国にも軍隊はあるけど、女性はなれない。突飛な一芸もなく、魔法なんてものはこの世になく、ナイナイ尽くしですよ。

 

 おかしい?

 わたしの前世、持ち腐れでは?

 まさしく、思い出し損ですよ!

 

 そんなないものばかりの寄せ集めのわたしなのに、しっかり、きっちり、婚約破棄だけはあるって酷くないですか?


 さて、どうしよう。


 ボリボリとクッキーを食べながら、人生設計考えちゃうよ。ひとり娘のわたしだから、お婿さんがいないと跡継ぎに困る。本当に困る。

 急遽、婿殿大募集となったんだけど、この四年というのが大事な時期で、同い年の子はみんな婚約者を決めてて結婚してて、場合によっては子供もいるぐらいだ。即ち、婚約市場の良き同世代の令息は品薄なのだ。しかも毎年新たな令嬢が参戦する。若さを前面にガンガンくるんですよ! 勿論、令息も同じ。だけどな、うちの社交界では基本嫁は年上娶らないんだよ。跡継ぎのための婚姻でもあるので、若い方がいいだろうと何となく避けられる。


 あー、もう、なんでマリア男爵令嬢はアラン狙ったんだよ。普通は婚約者持ちなんて、絶対避けるのに何で思いっきり行ったんだ。くっ……ダメだ。思い出すと、わたしの心が暗黒面へ落ちかける。

 人並みに観劇デートしたり、お買い物デートもしたよね。王立図書館デートもしたし、公園散策デートもとひと通りしてたのに。珍しく、わたしたちは恋愛婚約だったのに、どうしてだ。


 まあ、婚約破棄は貴族令嬢の嗜みみたいなところ、前世のネット小説にあったし仕方がない。

 そう、仕方がない。


 わたしは呪文のように唱える。普通の令嬢としてちゃんと生きてきたのに、淑女として間違ったことをしていないのに、どうしてなんて考えても意味がない。分かってる、理不尽さなんて前世で慣れてるからね。

 とにかく、素敵と感じた相手はまず売却済みと思った方がいい。そこは前世と同じで、出来の良い殿方にはもれなく将来のパートナーが隣にいるわけだ。

 

 

 

 

 落ち着いたところで、わたしは両親に本日の出来事を報告した。夕食後、家族でお茶を嗜む時に、暴露した。

 

「……そ、そ、そ、それ……ほんとうなのかな?」

「本当ですわ、お父様。ですから、申し訳ありませんが諸々の手続きや交渉をお任せしてもよろしいでしょうか?」

「それは構わないよ。お父様に任せなさい」

 

 とはいえ、震えてる小指にまだ動揺が見て取れる。まあ、この時期になって言い出すなんて、普通は思わないものだ。

 

「リリアン、その……ホール卿の新しいお相手は、どなたか知っていて?」

「男爵家の方です。マリア・スコット男爵令嬢です。わたしの目の前で、ホール卿がプロポーズしていましたから」

 

 途端、ピキピキ何かヒビが入った音がする。

 あ、お母様のカップからだ。顔は微笑んでるのに、凄く怖い。母は北の地からお嫁に来たから、男女の仲には厳しいのよね。国内でも南方は少し緩いんだけど、北方はきっちりしてるのよ。

 だから家風も違って、でも北方地域の女性はお家を守ると言われてて、北娘に南男って良縁の例えにあるぐらいなのだ。


「スコットというのは、間違いないのかい。リリアン?」

「ええ、あまりなことをされたので、忘れそうにありません」

 

 父が難しい顔をする。


「スコット男爵は、五年ほど前から商売がうまくいって羽振が良くなった新興貴族だ」


 そうなの? じゃあ、巷で聞く爵位を買ったお金持ちなんだ。


「フォスル商会を知っているでしょう、リリアン? あの店はスコット男爵のところなのよ」


 近頃流行っている、服飾小物の店だ。宝石とは違う、精石と呼ばれる何らかのお守り要素が込められた石の小物を扱っている。この国だけで手に入る物。宝石のように綺麗で、男女ともに何かひとつは必ず身に付ける。

 わたしも両親の贈り物で腕輪を持っている。


 そういえば、アランは贈る贈る詐欺で終わったな。本当ならば、婚約者同士で贈り合うなんてことも定番としてある。だからいつでも良いように、あれこれ目星をつけていた。が、結局はそれも無駄に終わった。

 精石は宝石と同じでサイズの大きな物になると、高額になるし、希少価値も上がっていく。王家の宝物庫には拳弱くらいの精石があると聞いたことがある。

 伝説によれば、これは王国の守りの要だと言われている。


「成程、ホール卿は我が家などより、お金の方を良しとしたのだろう。そんな男、こちらこそ願い下げだ」

「お父様のおっしゃる通りよ。本当に、随分な態度をとるものね。うちのリリアンにはもっと素敵な殿方こそ、相応しいわ」


 そうか。

 アランは同格の伯爵家よりも、お金持ちの男爵が良かったのか。わたしの容姿だけじゃなくて、手に入る財産も違うから乗り換えたのか。

 

(最低ー!!)


 違う意味で、悔しくなってくる。あのアホ男、若くて金持ってる方が良いってわけ。それで四年の付き合いある婚約者を、簡単にポイしてくるんだ。


「でも、商会の方は大丈夫なのかしら?」


 意味深に、母が目を細める。それに父もならう。


「精石を扱うにしては、少々迂闊なような気がするな」

「でしょう? 考え方の違いでしょうが、古くから言われてきたことには、意味がありますからね」

「お母様、それはどういうことですか?」

「リリアンも知っているでしょう? 精霊術師は大枚をはたいてでも婿にしろという言葉」

「はい。確か、精霊術師は浮気をしないんですよね」


 そう、この国に魔法はないが、不思議系として精霊術なるものはある。わたしは全く使えないんだけどね、残念!


 母が言ったのは、年頃の娘がいる家ならば皆が聞いたことある有名なもの。本当かはわたしにはピンとこないけど、この国では浮気を絶対しない職業ナンバーワンの方々だ。

 なので、若い娘は大抵一度は憧れる存在でもある。誠実さは、誰もが求める資質なのだろう。


「精霊が好むのが、一途な想いだからと言われているのよ。それはもう、昔からずっと。だから、精霊術が関わる家はそういうことも気をつけるものなの」


 メイドがカップを交換し、入れ替えたお茶を母が味わう。わたしのお母様は北方の方だから厳しいが、それらには理由があることを説明してくれる。頭ごなしにダメダメ言うタイプではないのだ。


「スコット男爵夫人は大陸の方らしいから、こちらの風習やしきたりに疎いのでしょう」

「男爵自身も、大陸からの新しい価値観とやらをよく口にしてるよ。新しいものを否定するつもりはないが、古くから言わしめられていることを、全て否定するのもどうかと思うがね」


 それから、お父様はわたしに向けて優しく笑ってくれた。


「リリアン、君は素晴らしい僕らの娘だ。誰が何と言おうとも、君は君の素晴らしさを誇りなさい。それを疑ってはいけないよ。いつでも僕らが味方だと忘れないで欲しい」

「はい!」


 転生して良かったと思うことは幾つかあるが、やはり両親に愛されていることだろう。

 わたしの知ってる遠い昔の家族は、そんな感じには思えなかったから。

 

 

 

 

 さて、二十歳となってしまってからの、婚活ですよ! だけど、この世界だと厳しいの!!

 特別に美しくもない、資産がっぽがっぽのお金持ちでもない。血筋が素晴らしいこともなく、宮廷の凄い役職や派閥に属してもいない。母の友人関係も人並みの付き合いだから、ぽっと良い縁談が上手いこと舞い込んでもこない。

 結局、夜会行ってイケメンは自分で捕縛せよと、相成りました。お父様、意外に無茶言いますな。娘の顔見て、本気でいけると思ってます?

 親の欲目で、人生軽やかに渡ってはいけませんよ。でもこのまま独り身になると、困るのは父と母。それこそ、親戚から婿を取ってとかになるけど、親戚だって普通にお相手いますからね。きっと養子もらってとかになるのかな。


 わたし前世でだと、結婚した記憶ないんだよね。忘れてるとか、前世の記憶に穴があるとかじゃないの。そもそも恋人がいなかったし、彼氏なんて年がら年中いませんでした。

 折角異世界転生したのなら、結婚式挙げて綺麗なドレスとか着てみたいなとは、思うんだ。

 やっぱり、憧れなんだよね。甘ちゃんな夢なんだけどさ。

 

 


 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


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