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16 「くっ、なんてこと。婿殿の可能性が無限大過ぎる!!」

 

 

 あれから、三日経過した。

 今日のマナー指導も無事終わってくれた。

 アラン事件の翌日、案の定母に説教されたわたしは、勿論口答えなどない。分かっている。不審者だと思うぐらいならば、さっさと屋敷の者に伝えるべきだと。申し訳ありませんと、返す言葉が他にない。


 しかもマナーチェックも兼ねているので、油断はできない。前世の卒業式とかを思い出す。ピシッとしていなくちゃいけなくて、それが疲れるんだよ。

 体幹の問題もあるんだろうな。今の方がまだ楽なのは、幼いうちからの教育の賜物だと思う。


 今日とてぐったりで、自室に戻ったわたしはひとりがけのソファにへたり込む。内心は自堕落に身を任せたいが、貴族の娘が浜辺のアザラシの如くでーん! ともできない話。せいぜい背に深くもたれこむぐらいが、許される範囲だろう。

 傍らのジルを見上げ、わたしは彼女に改めて日々の感謝する。


「ジル、本当にありがとう。貴女がわたしの侍女で嬉しいわ。頼りにしているから」

「……お嬢様は幼い頃から、なかなかのお転婆と伺っております。ですからあの事態は予測できたことでした。今後はもっと積極的にいきたいと思っております」

「……今後もよろしくね、ジル」

「畏まりました、リリアンお嬢様」

 

 わたしの侍女が優秀で素晴らしい。彼女には末長く側にいて欲しい、お願いですよ!

 

 

 

 

 事件当日バーク先生に診てもらったデミオンは、疲労回復に努めるように注意を受けるのみ。暴力沙汰での怪我も、運良く大したことがなかったと判断された。


 デミオンが咄嗟に受け身をして庇ったからだと発言したからだ。実際、拳が届いていないので目立つ怪我もないのだろう。

 とはいえ、暴力を受けた側だ。用心とパフォーマンスを兼ねて数日部屋でゆっくり過ごしてもらう。手持ち無沙汰で困っていたので、幾つか本を選んでは彼の元に届けた。我がカンネール伯爵家は読書家であった先代のお陰で、蔵書が一般的な家より多いと自負している。


 その分絵画や壺といった美術品が少ないが、本は良い趣味だと思う。わたしも好きだ。

 

「デミオン様、お加減はいかがでしょうか?」

「リリアン嬢、毎日ありがとうございます」

 

 ここ数日の養生が功を奏したよう。クマがとても薄い。髪の艶も取り戻しつつある。肌はかなり良くなっていて、元来の美貌がベールを脱ぎ始めている。


 バーク先生の診察で重要な疾患はないらしいと分かり、わたしも安心する。あちらレベルではないが、それでも触診で分かることもある。

 重篤な箇所は見当たらないが、一般男性よりは明らかに細いので、身長に見合う肉をつけろとの仰せだ。倒れていないのがある種の奇跡なので、睡眠時間と食事はたっぷり取るよういってくれた。


 それにはわたしも頷くしかない。慢性的な寝不足と疲労があるようなので、休養が一番の薬だそうだ。

 

(本当に、酷いことになっていなくて良かった。デミオン様本人も丈夫だと申告していた通り、見かけよりも悪くなかったみたい)

 

 休養せよとの結果が出たので、デミオンには積極的に休んでもらうことにした。労働予防に看病が有効なので、わたしは彼の部屋を訪れてはそれを口にする。

 

「デミオン様、本日も看病に来ました。さあ、手を握りましょうね」

 

 これ、本当に看病かと問われると答え難いのだが、当人が喜んでいるので細かいことを気にしてはいけない。

 

「……こんなにしてもらって、俺は本当に嬉しいです」

「デミオン様の喜びがわたしの喜びなので、わたしも嬉しいです」

 

 いっている内容がバカップルっぽくて、どうなんだろうか。でも、これしきのこと大したことではない。彼が健康生活をしてくれるならば、わたしの羞恥は心のクズ籠へポイしておこう。知らん知らんと、目を背けるよ!


 今日も今日とて、テーブルを挟みわたしと彼は手を繋ぐ。何かが癖になったのか、わたしにがっつり手を捕まえられることがお気に召したよう。

 顔色の良くなった頬をほんのり染めて、初々しくわたしを見つめる彼は、一体どこのヒロイン様かと思うほど。やはりデミオンが少し分からない。

 ただ、あの家族と暮らしていてスキンシップがあるとは到底思えないので、その方面の経験がないのだろう。情操教育みたいなものだ。

 

「このまま、寄り道せず健康になりましょうね」

「……ですが、そうなると俺に看病してくれなくなりますね」

「デミオン様、看病以外にも仲良くなる方法があるので、大丈夫ですよ」

「文通ですか?」


 そう来るか。


「奥ゆかしくて素敵ですが、わたしたちは同じ屋敷内にいますので、他のことにしましょう」

「庭の散策や一緒にお茶の時間を過ごすとか、そういったことですか?」

「ええ、それ以外にも観劇や公園でのデートなどもしたいです」

「……大胆なお話に、その……照れますね」

 

 大胆なのかな、大胆だったのかな?

(深く考えちゃダメだ。喜んでいることを良しとする!)

 

「そのためにもここでしっかりと完璧に、これぞと言わんばかりに立派な健康体を手に入れましょう!!」

 

 わたしは力説する。この機会に畳み掛け、デミオン健康増進計画を発動するのだ。睡眠時間は勿論、この王都にある美味しい料理やお菓子をもりもり味わい、ついでに小動物とも触れ合いたい。心も体もがっつり癒すのだ!


 お肌も整ってきたので、当初から夢見たビューティーサロンごっこもしたい。今のなんの変哲もない髪型も素敵だが、いっそ長く伸ばしてみるのはどうだろう。

 大丈夫、デミオンの髪の毛は艶が復活してしまえば、眩しいくらいのプラチナブロンドになるはずだ。わたしの目に狂いはない。蝶々結びのリボンが似合ってしまう貴公子になれる!

 

(くっ、なんてこと。婿殿の可能性が無限大過ぎる!!)

 

「リリアン嬢、鼻息が荒いのですが……呼吸が辛くなる持病をお待ちでしたか?」

「違います、わたしは健康第一で生きてます! 心の高ぶりが急上昇して、少し顔に出てしまっただけです。お気になさらず」

 

 さて、本日はデミオンの服を選ぶのだ! 婿殿を合法的に着飾るぞー!!

 

 

 

 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


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想像で鼻息荒くなる………。 わかるよ……わかる……
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