1「マリアと僕は運命、きっと真実の愛だね」
連載始めました。不慣れなため、ちょこちょこ改稿すると思います。
カーネルが英語で大佐という意味と知りましたので、主人公の苗字をカンネールと変えることにしました。既にご存知の方は、もう気になって仕方がなかったのでは思います。教えていただき、ありがとうございます!
最近はトラックにひかれなくても、まぶた開けるだけで異世界なんよ! やったね、クソなリアリティーから、ハッピーファンタジーありがとうございます!
わたしは優雅に暮らすんじゃいっ!!
なんて、思っていた過去もありました。
「アラン様、本日は一体どんなご用件でしょうか?」
カフェの貴族用の完全個室に通された、一組の男女とひとりの女性。普通に考えたら恋人と友人ってところだろう。しかも、片方の男女は手を繋ぐどころか、腕を絡めるほどの至近距離。婚約者同士か、既婚者か、そんな関係でなければあり得ない。
「やだね。君って、どうしてそんなにお堅いんだよ」
そりゃあ異世界転生したけど、やはり郷に入れば郷に従えって言葉を知ってるところからやって来たからだと思うよ。
思い出してもう十年も経ったから、わたしも落ち着いたもんだし。
「ねーアランさまぁ、マリアこのベニエ可愛いから食べたいな」
「そうだね。可愛いマリアには可愛い物をあげちゃうから、好きなだけ注文しようか?」
「やだー、アランさまぁだーい好き!」
ね、この状況おかしくない? なんでわたし、婚約者と向き合いながらいちゃつく知らん女を見せられるわけ。
そう、アラン様ことアラン・ホール伯爵令息はわたしの婚約者。もう四年前から続き、そろそろ式のこと考えませんか? な空気が、両家に漂う関係だ。
その相手から本日急に話があるとかで呼びつけられて、この状況とかあり得ないんですが。最近、なかなか会わないなと感じていたんだけど、そういうことか。ついでに言うとベニエって揚げ菓子、いつも思うけどドーナツにしか見えない。この店ぶっちゃけ某ドーナツ屋さんだし、このメニュー見覚えあるのいくつかあるんだけど。
百年前にできた店って聞くけど、ねえ……始まりの店主、実は転生者なんじゃないですか? と、わたしは常々思ってる。
と言う疑問を折り畳み、わたしは澄まし顔でカスタード入りのベニエ(ドーナツ)を見つめる。これに生クリーム入ってたら、もう完璧なのに。
「マリアは誰かとは違って可愛いから、何でも好きにしていいんだよ」
「嬉しいー」
そのでろんとした表情、わたしは一度として見たことないよ。そして、アランは随分と冷めた顔でこちらを向く。
「……で、話すのも面倒なんだけど、君とは婚約破棄することにしたよ」
はい?
今、なんて言いました?
「アラン様、こんやくはき……ですか?」
問えば、この三流モブのイケメン風味はニヤリとする。まるで、モテモテの自分困っちゃうみたいな感じ。勝手に困れば? とか、突っ込まないわたしを誰か褒めてください。
昨日までタレ目が優しそうで素敵、とか思ってたわたしの時間とトキメキを返して欲しい。
「そう、婚約を破棄する話。もちろん、僕と君の婚約だ。分かるだろう?」
分かる訳ねーだろ?
頭大丈夫ですか?
「君が僕に惚れてて、頑張ってるのは分かるんだよ。でもさー、それが……」
と、アランがわたしの髪からドレスまで眺めてくる。実際はテーブル挟んで座ってるので見えないんだけど、そんな感じが嫌味っぽいのよ。
別にわたし、変な格好してないわよ。ごく普通の貴族令嬢のドレス。夜ではないから、健全なもの。
そうね、一人称がマリアさんとやらは、少し胸元露出が過ぎるんじゃない? 普通か下品かと言われると、下品だと思う。ピンクも目に眩しいどキツイ色だし、フリル多すぎ。もっと言えば、小さい子が描くお姫様ドレスを悪くした感じと言うべきかしら。
「ちょっと地味じゃないかな。僕は別に君の容姿が劣ってるとは言わないけど、大人しすぎてつまらないんだよね」
「アランさまぁ、かわいそう! マリアがいーっぱい慰めてあげちゃうね」
そう言って、知らない女がアランの頭を撫でる。バカップルって奴なのかしら。
「わあ、嬉しいな。マリアは可愛いのに、優しいなんて白百合のようだ」
「もう、アランさまぁってば! そんなことばかり言って、もうもうマリア困っちゃう、もうー!」
うるうるの知らん女に抱きつかれて、やに下がった婚約者っていうのはさ、百年の恋も醒める光景だわ。平凡よりは顔が整ってるアランだけど、このデレっとした表情みたらとてもそうは思えない。
白百合は、最愛へも贈られる言葉だ。それがわたしではなく、彼女だという。
(はは……そうですか。そうですか)
中身も最悪だし、どこ見てもホント最悪。あと、もうもううるさいよ、マリアさんとやら。牛にでもなるつもりかな。
わたしはもう、ドーナツに手をつける気力すら失った。作ってくれた方には、ごめんなさいだ。
はあ……こんやくはき、コニャック吐いたとかじゃないんだよね。つまんないこと考えてる場合じゃない。彼、婚約を破棄するんですってよ。
わたしデビュタントしてすぐ婚約したから、今二十歳なんだよ。アホ面のアランはひとつ上だから二十一か。んで、マリアちゃんとやらは何歳なんだろうと思ってたら、正解がふってきたわ。
「マリア、昨年デビュタントしたばっかりなのに、アランさまに出会えるなんて……きっと運命だと思うの」
「僕もそう思うよ。マリアと僕は運命、きっと真実の愛だね」
限りなく金髪に近いふわっとしたヘアスタイルは、今の流行りだ。それが似合う彼女は、確かにわたしよりも可愛いだろう。まるで綿菓子みたい。比べ、わたしは明るい栗色で、それほど目を引く色味でもない。髪もすとんと真っ直ぐで、上手く巻くことが出来ない。瞳とて同じ。緑色はそんなに珍しいものじゃない。
もうもう女のマリアは夕焼けの綺麗な茜色。しかも彼女は若くて可愛くて、客観的に見てアランが乗り換えるのもあり得るのだろう容姿。
未練はないが、悔しかった。
でもそれを顔に出すなんて、みっともなくてわたしはできない。あー、ホント、四年分時間を無駄にしたわ!
「じゃ、じゃあ、マリアはアランのお嫁さんになれるの? ……素敵!」
「ああ、マリアなら、絶対誰よりも可愛いお嫁さんになれるよ。じゃあ、僕と婚約してくれるね。そうして、結婚して欲しい、マリア・スコット男爵令嬢」
「はい、喜んで」
立ち去るわたしなど、彼らは忘れたのだろう。婚約破棄するような相手だ。そもそもわたしの名前すら一度も呼ばなかった。
つまり、そういうことだったのだ。
そんな不運なわたしのお名前は、リリアン・カンネール。は? マフィア映画のアレ? 毒殺アイテムのそれはカンノーリだし、二文字も違う。うちは代々カンネール伯爵家なんですよ。
もしくは、またの名を立花ゆかり。ははーん、前世だろうって。そうそう、前世も前世。しがないパート店員さん。なんで小売の店員ってパートやアルバイトばかりなんだろうね。誰でもできると言いながら、接客なんて誰でもできないっつーの!
人によって、向き不向きあるんです。
ちょっと前世思い出したら、ムキになっちゃったわ。馬車にさっさと乗り込んで、お家へ帰ろう。お父様に婚約破棄のこと言わないと駄目だし、浮気も一応言っておくか。順番おかしいから。
そうして、全部父に丸投げしよう。あー、何処かに浮気しない一途な殿方落ちてないかしら。絶対わたしが拾ってお婿にするのに!
最後まで読んでいただき、皆さまありがとうございます。
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