帰り道
これは私が地方の工場に単身勤めに行っていた時の話です。
仕事が終わり、翌日が休みで久しぶりに飲み行こうと思い、
近所のスナックに出かけた日のことです。
家は駅まで歩いて40分という立地でしたが、
家の裏にはコンビニがあり、歩いて10分のところにスーパーがあり、
意外と便利に生活ができる場所です。
そのスーパーから少し歩いたところに雑居ビルがあり、
ラーメン屋、沖縄料理店、そしてスナックが入っていました。
飲むところといえばそこの雑居ビルぐらいしか無かったため、
スナックが自然と行きつけの店になっていました。
仕事が終わり、シャワーを浴びて軽くご飯を食べて、としていたら
時刻は夜の7時半になっていました。
そろそろ行くか、と準備をして出かける。
裏道を通ると近道なので、裏道を通ります。
途中、山沿いに墓地があり、小さな川があり、小さな公園があるのですが、
その公園のブランコで小さな子供が一人遊んでいました。
もう、暗いのに一人で遊んでるなんて親はどうしたんだろう
そう思いつつも暑いのもあり早く店に行こうと早足に通り過ぎました。
スナックに着き、どうも、とあいさつをして席に座る。
いつもの女の子がおしぼりを差し出し、
今日は暑いですね、いつものでいいですか?
とキープボトルを準備してくれる。
その時、不意にぞくっとした。
店はカウンターに私を含め3人ほどいるだけで、奥のテーブルには誰もいない。
なのに、奥のテーブルに目がいった。
何かいる
はっきりと見えるわけではないが黒いもやのようなものがぼんやりと見えた。
どうかしました?
と女の子が声をかけてくれる。
怖がらせてはいけないな、と思い、
いや、クーラーが効いてるから温度差でぞくっとしちゃった。なんでもないよ。
寒いですか?温度上げましょうか?
いや、大丈夫、慣れてきたから。ありがとうね。
そう言ってお酒を飲み始める。
気にしないようにするため、女の子とお酒を飲み、カラオケをし、楽しく過ごした。
帰るころにはもう気配はなくなっていた。
さて、1時ごろでしょうか。
あぁ、もうこんな時間やね、そろそろ帰るよ。
本当ですね。お会計しますね。
会計を済ませ店を出る。
遅くまでごめんね。また来るよ。
そう言って帰路につく。
気持ちよくほろ酔いで裏道を帰る。
田舎の深夜の裏道なんて、誰も通らない。一人の時間を楽しむ。
空を見上げればたくさんの星も見える。気分がいい。
公園を通る。ブランコが揺れている。
酔いが飛ぶ。風で揺れる程度じゃなく、ちゃんと漕いでるかのような勢いで揺れている。
行きに見た子供を思い出す。
そういえば、照明も中心に1本あるだけでそんなに明るいわけではなかった。
それでも妙にはっきりと見えた気がする。
ブランコは揺れる。
気持ち悪いな、と思い、早足で通り過ぎることにした。
キィ、キィと規則正しい鎖が軋む音を聞きながら公園を通り過ぎる。
ぴちゃ、ぴちゃ、という音が聞こえた。
今度はなんだ。
横を流れる小川をふと横眼で見る。
何かいる。
何かが遊んでいる。子供か?
もう怖い、早く帰ろう。少し早足になる。
ぴちゃ、ぴちゃ、ばしゃ、ばしゃ
否が応でも耳に入る水音を後ろに早足になる。
前を見ながら必死に歩く。
墓地が目に入る。
墓地が目に入るはずだった。
しかし、何も見えなかった。
黒いもやのようなものが大量に沸き立ち、
人の姿のような形にうごめいている。
足は動くが目が離せない。
なんだ、これは。
不意にその一つと目が合った気がした。
まずい。と思い、勝手に駆け足になる。
しかし、駆け足にならなかった。
急に体が重くなったのだ。
背中に重い荷物を背負ったような、それこそ子供をおぶったような重み。
ヤバイ、これはやばい。どうする。
早く帰ろう。大丈夫。家に帰れば大丈夫。
重い体頑張って引きずるように帰路につく。
後ろも振り向かず、重さも気にしないようにしながら必死に足を動かす。
家に着いた。鍵を開ける。部屋に入る。
スッと体が軽くなった。両肩を払い、すぐに扉を閉める。鍵を閉める。
助かった。と思った。
靴を脱ぎ、荷物を置き、上着を脱ぐ。
念入りに手を洗う。
すると、ドンドンドン!とドアが鳴った
飛び上がった。声は出なかった。
カタンカタンカタンカタン。
マンションによくあるドアについている郵便受けのふたがカタン、カタンと音を立てている。
私の家の玄関というか入口には左右に盛り塩と日本酒の入った小さな徳利を置いてあるのですが、
不意に徳利が片方パリン!と割れた。
その瞬間、音がやんだ。
今度こそ、本当に助かった。
シャワーを浴びるついでに水を浴び、気持ちを落ち着かせる。
どっと疲れた。寝よう。
布団に入ったとたんにすぐに眠った。
朝、玄関の割れた徳利を片付け、こぼれた酒をふき、つぶれた盛り塩を捨てる。
ごみを捨てに外に出て、戻ってくる時にドアを見る。
そこには自分の部屋のドアだけ濡れ、いくつもの手形がついていた。
気持ち悪いのでドアをぞうきんで拭き、なんとかきれいになった。
ふと思いだす。そういえば、お盆だったな。と。
いかがでしたでしょうか。
お盆の時期などは皆さんもお気を付けください。
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