下駄箱に入っていたラブレターをイケメン幼馴染へのラブレターだと思って移動させたのに次の日も俺の下駄箱に入ってた
成績優秀、スポーツ万能、性格良好、超絶イケメン。
この全ては俺の幼馴染の事を表すために作られた言葉だと俺は思っている。
定期テスト1位を入学時点から維持して去年の体育祭では出場した種目全て1位。そのハイスペックさを持っていながら気取ることも他人を下に見ることも無い。
そんな俺の幼馴染、高木裕也は女子は当然として男子からも人気が高い。
今日も告白されているらしく、俺は裕也を校門の辺りで待っていた。スマホをいじりながら無駄な時間を潰す。
「お~い! 幸助~」
30分くらい待った後、裕也が手を振りながら小走りで近づいてくる。
「遅い。告白断るのに何分掛けてるんだ」
「悪い悪い。なかなか諦めてくれなくてさ」
「へえへえ。おモテになるこって。愛され者は大変ですな~」
「・・お前性格悪いぞ」
「知らんよ。この馬鹿みたいに暑い日に30分も待たせやがって」
「いや、だからそれは」
「分かってる分かってる。行くぞ。アイス食いたい」
「あ、おう」
俺と裕也は校門を出てコンビニに向かう。
今は夏。一日のうちで一番暑い時間帯は昼では無く、夕方だと何かの本で読んだことがある。
俺を待たせた裕也にはアイスを2、3個おごらせるつもりでいた。
男二人で一緒に帰っているが特に話すこともないので何のアイスを買うかを考えていると。
「なあ、幸助」
「なんだ。アイスはハーゲンダッツとパピコな」
「あ、ああ。それはいいんだけどさ・・」
「なんだよ、はっきり言え」
「有理さん、好きな人いると思うか?」
「知らん」
有理さんとは3年の高坂有理さんの事だろう。学校の中でかわいいと有名な先輩だ。明るく、スポーティな彼女は誰にでも気さくで、距離感がバグっているらしくそのせいで勘違いして爆死する生徒が後をたたない。らしい。
俺自身は特に関わりも無く、姿を見かけたのも体育祭や文化祭のときだけ。
一方裕也は今期、同じ委員会になって結構会う機会があるらしい。それで互いが美男美女のため、周りの人達が運命だ、王子と王女、なんて言っているうちに意識して、そして好きになったらしい。
「お前の方が詳しいだろ。俺、あの人と関わりなんて一切無いぞ」
「いや、ほら、お前、意外と情報もってるだろ?」
「ああ、そうゆうこと」
情報を持っている。それは確かに間違っていない。それも恋愛関係の情報が主だ。
それはなぜか。答えは簡単。裕也のことが好きな人はまず俺に相談に来る。
俺と裕也が幼馴染で仲がいいというのは周知の事実だからだ。そうして相談に乗っているうちに恋愛相談なら俺にすればいい、という噂が広まっていつの間にか恋愛マスターみたいになっていた。
「残念ながら高坂先輩の情報はない。諦めて自分で頑張れ」
「いや、情報が無くても相談に乗ってくれよ」
「え~、何が悲しくてモテ男の相談に乗らにゃいかんのだ」
「そこを何とか! 頼むよ、頼れるのはお前だけなんだよ!」
拝むように手を合わせて頭を下げてくる裕也を俺は見下すように顎を少し上に上げる。
「ふん。たまには恋に苦しむ人達の気持ちを味わうんだな」
「・・・・外道め」
「ほっほう? お前の恥ずかしい過去を暴露してやろうか?」
「・・例えば?」
「今日はやけに強気だな。例えば、お前は小学五年まで姉ちゃんと一緒に風呂に入っていたこと。中学生の時、漏らしたことがあること。ロンドンに旅行に行った時、駅の柱に荷物ごと突っ込んだこと・・」
「分かった!! 俺が悪かったから! やめてくれ!」
「雑魚め。レベルを上げて出直してくるんだな! ふはははは!」
昔からのやりとりだ。裕也は昔からおっちょこちょいで夢見がちな男子だ。そのため、人には言えない出来事もたくさんやらかしてきた。俺と口げんかになるたび、秘密をばらすと言えば彼は降伏宣言をすぐに出す。そのたびにこうやってRPGの魔王みたいな感じでからかっている。
「楽しそうなことしてるねー!!」
「あ?」
突然、後ろから大きな声を掛けられたので少し不機嫌な顔を浮かべながら振り向く。
「裕也くん、何してるの??」
そこに居たのはつい先ほど話に出てきていた高坂有理先輩だった。
目線は俺を見ておらず、裕也の目をじっと見ている。俺なんていないかの様に振る舞っている。
「あ、えっと、そのですね・・」
「なになに?」
「えっと、アイスを買いに行こうかと・・思いまして」
「いいね~、アイス!!」
あの裕也がドギマギしている。その様子は俺の知っている裕也では無く、緊張していてガッチガチだ。おもわず吹き出しそうになるのを我慢しながら観察する。
高坂先輩は裕也と楽しそうに話している。俺のことなんて眼中にないといった感じで。
・・これはもう好きなのでは? 俺のことを無視しているのもそれほど夢中になっていると考えれば合点がいく。ほほう、これはお邪魔だな。
「裕也、俺、アイスやっぱいいや。先帰るから。じゃな」
「え!? あ、お、おう。じゃな」
裕也に手を振り、初めてこっちをみた高坂先輩にぺこりと頭を下げて俺は家に帰った。
裕也の家は俺の家の隣に建っており、部屋も隣り合っているため、彼が帰ってきたらすぐに分かる。部屋で小説を読んで過ごしていると裕也の部屋の電気がついた。時刻を見ると19時過ぎ。俺が帰ってから1時間くらい経っていた。
いい感じに話せたらしく、機嫌良く歌う声が部屋から聞こえてきた。
メッセージアプリの音がなり、スマホの画面に表示される。内容は裕也からで今日、有理さんと話した内容を説明され、どうかと聞かれた。
とりあえず、適当に返信して、いつの間にか来ていたもう一件のメッセージを返して小説に戻った。
***
翌日の放課後。自分の教室からスマホをいじりながら下駄箱に向かう。
相変わらず、裕也は告白されているようで先ほど、待っててくれというメッセージが来ていた。
吹奏楽の音と合唱の声が心地よく響くなか、下駄箱に着き、自分の場所を開ける。
「なんだこれ」
そこで俺が見たのは白い便箋。俺の靴の上に置かれていた。
手にとって裏返してみると差出人の名前は無し。そしてそれは本格的で封は紅い蝋を使っていた。
こんな事をするやつは知り合いにはおらず、特に心当たりも無い。
ともかく中を見ないことにはなんとも言えないので鞄からはさみを取り出して、便箋の上部を切って中から手紙を取り出す。
手紙は一枚だけで見た感じしっかりとした紙にを使っているようだった。
折りたたまれたそれを広げて中を見る。
『あなたの事が好きです。
毎日、あなたのことを目で追ってしまうほどに。
私と恋人になってくれませんか?』
手紙の中心部分にその三行だけが記されていた。
ラブレターだ。しかし差出人の名前はどこにも書いていない。これではどうしようもないじゃないかと思いながら手紙を再び便箋に仕舞う。
そして、やっちまったと思いながら隣の下駄箱にそっと入れる。俺の隣の下駄箱は裕也のもの。つまり、この手紙の差出人は裕也と間違えたのだと俺は考えた。
俺はラブレターを貰うようなほど顔も性格も良くないことは分かっている。それにそもそも自分から女子に話しかけることが少なく、惚れられるような機会もない。
それに、裕也の下駄箱には毎日のようにラブレターが入っていることも知っている。数十通という数のラブレターが毎日のように入っているのだ。少し恐い。
さて、俺はラブレターを下駄箱に戻した後、校舎を出た。
次の日。放課後に下駄箱に向かうと、またラブレターが入っていた。
内容は昨日とほとんど同じ。俺はまたか、と思いながらも裕也の下駄箱に入れた。
しかし、差出人の彼女はよっぽどの馬鹿らしく、次の日も、その次の日も俺の下駄箱にラブレターを誤って投函する。ここまでくるとさすがに嫌になってくる。
その日、俺は便箋を裕也の下駄箱には戻さず、俺の下駄箱に入れたままにしておいた。便箋の見えるところに『ここは角田幸助の靴箱です。高木裕也の下駄箱は隣です。以後、間違えないように』と書いて。こうすれば次、入れに来るときに嫌でも目に入る。
しかし、次の日の放課後、下駄箱を開くとまたもラブレターが入っていた。
今までとは違い、便箋の表に『返信』と書かれている。
中を取りだして見ると。
『こんにちは。角田さん。
私は間違えていたのではありません!
私はあなたのことが好きだからあなたの下駄箱に入れてるんです!』
そう書かれた手紙が入っていた。
相変わらず差出人の名前は無い。
さてはて、これは困った。裕也と俺を間違って下駄箱に投函していた手紙の主は俺のことが好きだという。それは本来ならうれしいことなのだが俺にはそうも言ってられない事情がある。
困った。
そうだ。これは見なかったことにして明日からも裕也の下駄箱に入れておこう。
逃避という選択肢をとった俺はその手紙を鞄にしまったあと、家に帰った。
次の日、再び、手紙が入っていたので中身は見ずに裕也の下駄箱に入れる。次の日も、そのまた次の日も。
それが数週間続いた日の放課後。俺が下駄箱を開くとそこにはラブレターは入っていなかった。やっと諦めたかと安心した俺はほっとため息をつき、靴を取り出そうとして。
「す、角田くん!」
「はい?」
突然横から声を掛けられる。今この場には数人の男子しかおらず、角田と呼ばれて瞬時に俺の事だと思って反応した。
靴を取り出しながら横を見ると裕也の思い人である、高坂有理先輩が立っていた。
さては恋愛相談か?
裕也と話している様子を見ていた俺は高坂先輩の要件を予測する。
「どうしました? 高坂先輩」
「う、うん。えっとね、その、えっと・・」
元気溌剌で親しみ易く、距離感の近い女子。今の彼女はそう言うこれまでの評価とは全く違った。
どもっているしゃべり方で距離も数歩空いている。
俺は先の言葉を聞くためにじっと彼女の目を見つめる。いつも見かける彼女のようにまっすぐな目はそこには無く、目をうろうろとさまよわせていた。
そうして数分が経過したころ。
「えっと、な、なんでラブレター、受け取ってく、くれない、の?」
「・・・・は?」
「だ、だから、ラブレター、いつも書いてるのに、ゆ、裕也君の下駄箱に、い、入れてるのは、なんで・・・・?」
「いや~それはその・・」
「な、なに?」
「め、めんどくさい・・というかなんと言うか」
「め、めんどくさい・・・・」
俺が正直にそう言うと少し涙ぐんだ彼女は下を向く。
・・まずい。非常にまずい。
そもそも彼女が俺の事を好きだと言うこと自体驚きだ。裕也のことが好きだと思っていた。
幼馴染の好きな人が俺の事を好き。どうしよう・・。
「いや、あのですね・・」
「幸助~」
「あ」
俺が彼女に断りを入れようと思っていると、廊下の奥から声が響く。
裕也の声では無い。女子の声だ。
下駄箱に姿を現したのは黒い髪ショートボブにし、制服を少し着崩している少女。
「あれ? 高坂先輩じゃないですか。どうしたんですか?」
「・・実紗希ちゃん?」
「はい、そうですよ?」
「も、もしかして、す、角田くんと仲いいの・・?」
「はい! 私の彼氏ですから!」
「か、彼氏・・」
あ~あ。やっちまった。
彼氏という言葉を聞いた彼女は再び下を向いて固まる。
俺がなんとも言えない表情で彼女を観ていると横から声がかかる。
「幸助? ・・・・あ、もしかして・・」
「・・・・」
「告白・・の途中だった?」
高坂先輩と俺の表情からある程度の事を読み取った実紗希はそう言って困った顔をした。
しかし、ここは俺が勇気を出して言わなければいけないところ。
「高坂先輩。今言った通り、俺は実紗希と付き合っています。先輩の想いに答えることは出来ません」
「・・・・」
先輩は何も言わない。
時間が止まったように長い静寂を迎える。
「わ、わかった。ご、ごめんね? 迷惑掛けちゃって・・」
先輩がそう言って少し涙ぐんだ目でこちらを見る。
「いえ・・。すみません。・・俺はこれで・・」
俺は実紗希の手を取って逃げるようにその場を後にした。
帰る途中で裕也にメッセージを送る。先に実紗希と帰ることと高坂先輩の事を頼むと言うことを書いて。
***
次の日の昼休み。いつも通り、実紗希と人が寄りつかない校舎裏の木の下で弁当を食べていると。
「お~い! 角田く~ん!」
聞いたことのある声が前より元気な感じで聞こえてきた。
声の方へ目をやると弁当箱を横に携えた高坂先輩が歩いてやってきた。
「私も一緒に食べていい?」
「・・え」
「というか一緒に食べるね!」
そう言って俺の隣に腰を下ろした。
その様子を実紗希はじとっとした目で見る。昨日は気まずそうな顔をしていたのに今の実紗希の顔は敵を見る感じだった。
「・・何してるんですか?」
「お弁当一緒に食べようとおもって!」
「いや、昨日言いましたよね。私と幸助は付き合ってるって」
「うん!! 知ってるよ!」
「じゃあ、なんで」
「ほら、私、実紗希ちゃんよりかわいいじゃない? だから幸助くんを振り向かせることも出来るんじゃないかってね?」
「・・は? 幸助? 何で名前呼びなんですか。それに幸助は顔で選ぶような人じゃないですよ」
「私、性格もいいから!」
「は?」
実紗希は親の敵を見るような目で先輩をにらみつける。一方、先輩はニコニコと笑っているがその目は全く笑っていない。
俺を挟んで行われる舌戦にいたたまれなくなった俺はスマホを取り出して裕也にメッセージを送る。『助けて』という俺のメッセージに既読が付き、すぐに返ってくる。
『ざまあ見ろ。たまにはモテる男の苦しみをしれ』
あの日の意趣返しかあの野郎。
『有理さんを焚き付けておいたぜ。お前の好物、習慣、好きなタイプ。全部話して置いた。がんばれよ!!』
『お前の好きな人だろうが。ただ慰めてりゃお前に惚れてたのになぜそんなことを』
『馬鹿かお前は。そっちの方が面白そうだろ。普段澄ました顔のお前の焦り顔が見られるんだぜ?』
『てめぇ』
裕也からはそれ以上は言葉は送られてこず、ただむかつく兎のスタンプが送られてきた。
俺は未だに言い争っている実紗希と高坂先輩の間で小さくなりながらこれからの日々のことに想いをはせて、胃がキリキリとなるのを感じた。
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