第九十九話 大丈夫だろう、たぶん
会場に入れば、祝福や繁栄を花言葉とする花々が飾られていて、お祝いムード一色だった。まぁ、当たり前の事なのでその事に関してはスルーするとして、私は姉様と並んで用意された席へ座る。他の貴族達は会場をウロウロと歩き回って挨拶などをしているが、友好国の代表という立場にいる私と姉様は貴族達が挨拶に来るのを待っていた方が無難なのだ。
わざわざこっちから声をかけて変な勘違いとかされたら困るからね…。
数人の上流貴族達が我先にとこっちに歩いてくるのが見えて、溜息を吐きそうになる。いや、皇族に転生したからには頑張るけどね、苦手なものはやっぱり苦手なんだよ…。誰にも気づかれないように息を整える。けれど、私の少し上から降ってきた声は、今さっき見た貴族の誰でもなかった。
「カタルシア第一皇女姫殿下、カタルシア第二皇女姫殿下、数日ぶりの再会心より嬉しく思います。ご挨拶宜しいでしょうか」
まさに上流貴族の模範とも言えそうな美しい仕草で私と姉様に声をかけてきたのは、驚く事にリンクだった。その後ろにはサーレが控えていて、二人揃って一番に挨拶に来てくれたのだという事がわかる。
「リディア小伯爵、お顔をお上げになって?私達もご挨拶さし上げたいと思っていたの」
「それは光栄です」
姉様がにこやかに対応すれば、リンクもにこやかに言葉を返す。………リアンを殺すとか言ってた暴言男子は本当にどこ行った。コレが初対面の時のリンクと同一人物なんて認められんぞオイ。
「そちらのお嬢さんは?」
そう言えば姉様はサーレと話した事はないんだったか?私に会いに来ている子ってくらいの認識なのかな。
姉様に見つめられ、サーレは努めて落ち着いたように「お初にお目にかかります」と言葉を紡ぎ始める。
「デュールマン男爵家のサーレ・デュールマンです!」
「デュールマン家とは私が幼少の頃から懇意にしていまして、彼女とは幼馴染なんです」
「あらあらそうなの?可愛らしい方が幼なじみなのね」
少し緊張気味のサーレをフォローするようにリンクが言い、そのおかげで姉様も笑顔を浮かべる。うん、サーレは可愛いし、サーレを可愛いという姉様も可愛い。
「カタルシア帝国第一皇女カリアーナ・カタルシア・ランドルクよ。アステアと仲良くしているようだから、貴女の事少し知ってるわ」
よろしくね、と微笑む姉様綺麗!!そして姉様を見て見惚れてしまっているサーレも可愛い!!ここはパラダイスかな!?
「あの、第二皇女姫殿下…?」
「え?あぁ、はい。なんでしょう」
ちょっと心の中が荒れたせいでリンクに変な目で見られたが、すぐに真顔に戻る。すると私に声をかけてきたのは可愛いサーレだった。
「姫殿下!」
「サーレ、ドレス可愛いわね。似合ってるよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
あー可愛い。私の言葉で一喜一憂するサーレが可愛い…。
「……思っていたより仲が良いのね…」
「ぅえ!?あ、そ、そうですか…?」
あ、あれぇ?なぜ姉様の目が悲しげに?いや、そんな姉様も儚げな雰囲気が漂って素敵だけど。なんか変な空気になる前に話変えた方が良いかな…?
「リディア伯爵やリディア夫人にもご挨拶をしたいのだけど、どこにいらっしゃるのかしら」
どうにか笑顔を浮かべながら聞けば、リンクがすぐに「ご案内しましょうか?」と聞いてくる。姉様の方をちらりと確認すると、綺麗な笑みで頷いてくれたので、席を立つ許可は得られたみたいだ。なんか、これから来る貴族達の波を姉様に押し付けたようになってしまったけど、姉様なら「色々な人と話せて楽しかったわ」と本気で言ってしまいそうだから大丈夫だろう、たぶん。
「では、行ってきますね」
帝国の品位を落とさないよう、近くに控えていたヨルにわざわざエスコートしてもらって案内を申し出たリンクの後に続く。サーレは知り合いの令嬢達に挨拶に行かなければいけないため、ここでいったんお別れだ。
「また話しましょうね!」
笑顔が眩しくて数回瞬きをすれば、「目薬でもご用意しましょうか?」と外面を貼り付けたヨルに笑われてしまった。
「いいです。……こうやって口数少なく立っていれば様になるものですね」
本当は物凄くかっこいいと伝えたいが、笑われた仕返しに少し嫌みを言ってやる。すると私の心の中を読んだかのようにヨルは笑い、ドレスのせいで重くなった私を優雅にエスコートしてくれた。
……これだと私だけが突っかかってるみたいじゃないか。
私はヨルに仕返しをするのを早々に諦めて、静かにリンクの後ろを歩く。時々人の目が私に向いているような気がするけど、まぁ、私はパーティーに出席するようになってから日が浅いから仕方ない事だろう。隠しきれず出そうになった溜息をリディア伯爵達がいるという中庭へ続く道の階段のところで軽く吐き出し、リンクが自然な動作で開けてくれた中庭へのドアを潜った。
お読みくださりありがとうございました。




