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第九十八話 祝福が充満する王城へ

「本当に健気だな、エスターの嬢ちゃんは」


王太子の即位式当日。すでにドレスに着替え終わった私に声をかけたのは、クレイグの手によって正装を着せられ、髪型も整えられたヨルだった。


「?…どういう意味ですか?」

「コレだよ。姫さん、もう少し飴やった方が良いんじゃねぇか?」


そう言ってヨルが渡してきたのは、数枚の書類。パッと見ただけで丁寧に文章がまとめられているのが分かり、その字がエスターのものだというのも一目でわかった。そして、その内容が私の欲しかったものだという事も。


「爺さんの指示で俺まで付き合わされたんだ。嬢ちゃん俺の事嫌ってるくせに健気だよなぁ」


姉様とお茶会をしている時とか、その他にもエスターとヨルの姿が見えない時はあったけど、まさかこれのため…?


「ここまで細かく調べるとは…」

「褒めてやったらどうだ?まぁ、褒められる気がないから俺に渡すよう言ったんだろうが…」


褒めると尻尾を揺らして喜ぶのに、褒められようとはしない。あー…健気だわな、確かに。


「ありがとうございます…エスターの事はバレない範囲で褒めておきますね」


可愛すぎてにやける口元を渡された書類で隠し、優雅に笑って見せる。ヨルは私同様綺麗な笑みを作って「おう」と声を返した。

………それにしてもこの書類、本当に有難いな。私が知りたかったことが全部書いてある。姉様とブラッドフォードは着々と、少しずつ発展しつつある。今日ブラッドフォードが王太子になれば、娘ラブの父様やシスコンの兄様だって姉様とブラッドフォードの婚約や結婚を反対する理由がなくなるだろう。サーレの件はどうしようか迷っているけど、とりあえずリンクが何か行動を起こしてくるまでは何もしないと決めた。

だから、残すはリディア伯爵と、リディア家の跡取り問題だけだったのだ。


──リディア伯爵がなぜ長子を騎士にさせようとしたのか──


本当に、私の知りたかった事が載っている。一度目を通せば身勝手な理由に怒りが湧いてくるけれど、即位式が始まる前に知れてよかった。そろそろカタルシアへ帰らないとシスコン兄様とかが殴り込みに来ない事もないから、今日でできるだけの事は終わらせよう。リディア夫人とリディア伯爵には会えるだろうし、リンクはサーレをエスコートして参加するはずだ。姉様とブラッドフォードに何も悟られずに全てを終わらせられれば満点。


「満点目指して頑張るぞー!!」

「!?いきなりなんだよ…」


突然大声を出した私を見て、ヨルが呆れたような顔をする。なんか日に日に呆れ顔の比率多くなってない?そんな顔も綺麗で好きだけど。


「なんでもないです!エスターの頑張りに見合うだけ、私も頑張ろうと思っただけなので!」

「そうか。ま、頑張れよ」


やはり呆れ顔のヨルに応援され、私は「もちろん!」と我ながら元気の良い返事を返した。


───









拍手喝采、歓声の嵐、至る所で喜びの声が飛び、貴族も平民も変わりなく笑顔を浮かべている。そんな街中を馬車で横切り、私はフィニーティスの王城の門を潜った。おそらく私の馬車の前を走っているだろう姉様の馬車が止まり、私の馬車も並んで後ろに止まる。


扉が開かれれば、そこは全くの別世界だ。


煌びやかな装飾が施され、元の輝きをさらに際立たせている城に、自らの気品を最大限に生かしている貴族達。いつもは軽い足取りで降りられる馬車の階段をゆっくりと降りれば、自然と周りの視線は私に集中した。


「目立つの苦手…」

「ククッ、そう言うなって」


完全に面白がっているヨルの手を取って地面に足をつければ、また人の目が動いたのがわかった。私の次は姉様を凝視しているらしい。

分かりますよみなさん。レイラにエスコートされて、帝国の紋章が金色で刺繍された薄藤色のドレスを着こなす姉様は美しすぎますよね!

あれですよ、風の妖精シルフのように儚くも美しく誇り高いドレス姿も素敵だったけど、誰も話しかける事のできないような孤高の雰囲気を纏う姿も素敵…。


「私の姉様は、今日も綺麗であります…」

「姫さん目がイッてるぞ」


ちなみに私も同じドレスを着てます、はい。アステアのキャラデザだって可愛いけど、服に着られている感が漂ってしまっているのには目を瞑ってもらいたい。というか、出掛け先用の正装ドレス重い…特に帝国の紋章の刺繍が…。

まぁ、正装ドレスを着て参加できる事に感謝しないといけないんだけど。だって私が夜会の時に着るドレスは速達で送ってきたくせに、私と姉様が昼間着ていなきゃいけない帝国代表だという事を表すドレスを送り忘れちゃったのである、あの父様は。交流を目的とした夜会やパーティーじゃないんだから、ちゃんと帝国の紋章入りじゃないといけないのにね。


「ごめんなさい、ヨル。ドレスが重くて少し足が遅くなるかもしれない…」

「そんな事より俺は姫さんの表情が一ミリも動いてない事に驚いてるよ」


そんな軽口を小声で叩きながら、ヨルが私をうまくエスコートしてくれる。こんなのどこで習ったんだか。


「行きますか、姫さん」


私の手を引くヨルに小さく頷いて、私は祝福が充満する王城へ足を踏み入れた。

お読みくださりありがとうございました。

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