第九十七話 だから我慢しろ!
途中から視点なしです。
朝の夢をクレイグに相談してから、私の頭の中は大混乱中であります。そもそもリンクがレイラの事を気にしているって事だけでも大変なのに、なんでこう次から次へと問題が舞い込んでくるのか…。
「アステア?どうかしたの?」
顔を覗き込んできたのは、私と絶賛お茶会中の姉様で…。あー、ダメだ、せっかく姉様と一緒にいるのに他の事考えてた。もう頭働かなくなってきてるわ…。
「大丈夫だよ。紅茶も美味しいし」
「その紅茶凄い香りだけれど…」
ゴクッと一口飲んだ紅茶は変な味がする。眠気覚ましを大量に入れてるからね、匂いも味もそりゃ変になるよね。でもこうしておかないと私の頭はショートするから。心配をかけまいとニコッと笑って見せて、それから話を逸らす。
「ブラッドフォード第一王子殿下とはどうなったの?」
「へ!?」
いつもおしとやかな姉様からは想像もできない声で反応され、苦笑いが溢れる。うん、なんかやっぱり複雑です。
「フィニーティスの王太子が決まれば少しの間騒がしくなるだろうから、私達は帰った方が良いでしょ?」
「え、あぁ、まぁそうね…」
「だから今のうちに気になる人にはアタックしておいた方が良いと思うよ」
次の瞬間ボフンッと真っ赤になった顔はまぁ可愛らしい。クッソ、私も嫉妬の炎が燃え上がりそうなんですけど!?私の大事な姉様をこんなに可愛くしやがって!!あの鈍感王子が!!
真っ赤な顔で「そ、そうね」と返事をする姉様は完全に恋する乙女。あー可愛い。
「って、あら?なんでアステアが私とブラッドフォード王子殿下のことを…?」
「え、いまさら?普通に知ってたけど…」
「えぇ!?」
天然パワーで体が浄化される。驚く姉様可愛い。
やっぱり姉様の存在は私にとって大きいんだ。……ブラッドフォードに取られるのはしゃくだけど、やっぱ結婚させるのが一番だな。
王妃様も攻略済みだし、ブラッドフォードももう落ちてるし、国王陛下は……まぁ、反対なんてしないでしょう。そもそもさせないし。ん?そう考えると姉様敵なし状態だわ。さすが姉様。
リンクとサーレの件をさっさと片付けたいのは事実だし、放っておく事もできない。でも、やっぱり優先順位的には姉様が一位だからね。
これからも姉様優先で頑張ろう…。
───
「今頃アステア様は第一皇女様とお茶会…なんで私は情報収集なんか…」
そう愚痴を零したのはフードを深く被ったエスターで、その隣ではヨルが呆れ顔のまま「まだか?」とエスターに聞いた。
「待つ事もできないんですね、お可哀想に」
「安い挑発は子どもっぽいだけだぜ?」
「できれば今すぐ死んでください」
アステアもそうだが、女というのはいくつもの顔を持っているのだな、とエスターを見ていてヨルは思う。今の死んだ魚並みの目を見たら、アステアはなんと言うのか。可愛いと言ってのけてしまいそうなところが怖い。
「あ、動きました」
耳をピクッと動かし、そう言ったエスターにつられ、ヨルもエスター同様深く被っているフードの奥から顔を覗かせる。エスターの視線を辿れば、そこにいたのは、アステアの嫌いな人ランキングに颯爽と現れ、数日もしないうちに上位に君臨してしまった男だった。
「少しお酒の匂いがします」
「昼間から飲んでんのか?」
「エルフの視力なら伯爵の顔が赤くない事くらい分かりますよね」
ギロっと睨まれ、ヨルはふざけたように「おー、こわっ」と言いながら両手を軽くあげる。そのせいでさらに悪くなってしまったエスターの機嫌は当分の間は直りそうにない。
「で、本当につけるのか?姫さんの指示じゃないんだろ?」
「クレイグさんはアステア様の事を考えて行動してますから、クレイグさんの指示にはできるだけ従った方がアステア様のためになるんです」
「健気だねぇ」
「バカにしてます?」
とんでもない、尊敬するぜ?と、思ってもいない事を言うその口を縫ってしまいたくなったエスターだが、本当にそんな事をしてしまうとアステアに怒られる未来しか見えない。エスターは仕方なくヨルの不快な態度に目を瞑って、視界に映るヨル以上に不快な存在に意識を戻した。
「接触は避ける事。できればリディア夫人と伯爵の仲と、リディア伯爵が何を思っているかを探る。それが今回の目的です。邪魔だけはしないでくださいね」
「ハイハイ、わかってるって」
アステアの前では顔を出さない口うるさい面が全面に出ているエスターにうんざりしながら、ヨルは姿勢を整える。隠密は得意な方だが、相手が相手なだけに気づかれる可能性は無いわけではない。エスターは実力だけはあるらしいヨルの気配を感じ、また機嫌が悪くなった。
「これも全部アステア様のため…」
だから我慢しろ!と自分に気合を入れたエスターは、機嫌よく店から出てきたリディア伯爵の後をヨルと共に追って行った。
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