第九十話 ツンデレ目ヤンデレ科暴言男属
王様のところへ乗り込んで数日。宰相の金魚の糞みたいだなと思った真面目眼鏡君の眼鏡を割った事で、多少痛んでいた拳がやっと治った日の事だった。
「王太子殿下が決まるみたいなんです!」
目の前で、ビックニュースですよ!と言いたげな顔をするサーレに癒されながら、「そうなのね」と答える。どうやら王様が発表してくれたらしい。
あの日から、クリフィードの報告の中に王様の事も含まれ始めて、王妃様が王様にこっ酷く叱られたのだと聞いた。叱られたと言っても、従者達の前で注意された程度の事だけど、あの温和な王様の注意とあって多少ピリついてしまったらしい。
「ちょっと意外だったんですけど、王太子殿下は第一王子に決まりそうなんだそうです!」
「意外なの?」
「まぁ、いつも戦にばかり出てますから」
出たよ、乙女ゲームの弊害が。
そもそも恋愛面に関して物凄くドロドロなのに、この世界は戦争云々に対して寛容じゃなさすぎる。いや、戦争に寛容とかどの世界でもありえない事だとは思うけど、国があって人がいるなら諍いが起こるのは当然でしょうが。
それを止めるために国を留守にしている王子を称える事は当然の事で、王太子になる事への意外性にはならない。私の場合、宰相の金魚の糞的存在の真面目眼鏡君を殴った時は、クレイグにあらかじめ頼んでおいた保護魔術のおかげで痛くなる程度だったけど、本当の素手で殴ったらどれほど痛いか。
それを生身の体でずっと続けているんだから、ブラッドフォードはもっと讃えられても良いはずだ。そのせいで噂で流れているような戦狂いとかになるのは違うと思うけど。
「そういえばサーレ。貴女、リディア小伯爵とはどうなったの?」
話題を変えるために話をふれば、あからさまにサーレの顔が暗くなった。
うん、まぁ上手くいっていないのは知ってたけどね。
「リディア小伯爵が最近上の空だと噂で聞いたけど、本当みたいね」
「う、うぅ…!なんかリンク君「あの人は…」とか呟いてるんです!しかも表情は哀愁漂う感じで、叶わぬ恋をしてる恋愛小説のヒロインみたいなんです!!」
それは完全にサーレ以外の誰かに心奪われたんだろう。というか、サーレ自身もわかっているはずなのに最後の抵抗とばかりに言葉を並べ立てているから、ちょっと可哀想になってきちゃった。
「叶わぬ恋なんでしょ?」
「わかんないじゃないですか!リンク君かっこいいから!!」
涙目で叫びながら惚気ないでほしい。あのツンデレ目ヤンデレ科暴言男属のどこがかっこいいと?どんな事情があれ兄貴を殺すとか言った男だぞ。
「恋は盲目、だねぇ…」
「リンク君は盲目にはなってない…はずです!!」
いや、貴女の事言ってるんだけど。………だけど、リンクの恋はちょっと厄介だな。ブラッドフォードが王太子になった場合、姉様と結婚するのは目に見えてる。そうすると必然的にサーレがブラッドフォードと結婚する未来は消えるし、クリフィードも今の様子を見る限りではヒロインであるリリアの事を「他国の姫」としか認識していない。フィニーティスの王族関連はそれなりに上手く収まりそうなのだ。だけど、リディア家の場合、というかリンクの場合、私はリンクを引き抜きたいんだよなぁ…。
「リディア夫人はまだ決心がついてないみたいだし…」
リアンの話によれば、リディア夫人が伯爵と何度か話をしているそうだけど、一向に進展はないらしい。
あんな夫からはさっさと家の実権奪い取ってしまえば良いのに。
リンクは変わらず跡継ぎとしての仕事をこなしているし、リアンは跡継ぎになるべく勉強中だ。う〜ん…どうしよう。王様にリディア家の事を少しは伝えたけど、音沙汰がないという事はまだそこまで手が回ってないって事だろうからなぁ。
「って、あれ?そういえばあの話どうなったの?」
「え?何がですか?」
あー、この感じはもしかして忘れてるパターン?
「リディア小伯爵と話をしたいから言っておいてね、って言ったわよね?」
「へ?…………あっ」
忘れてましたって顔にデカデカと書きすぎだよサーレ…。
リンクと面と向かって話した事はないから、この際ちゃんと話してみるのも良いかもね。そのためにはサーレの取次が一番手っ取り早い。
「今からでも頼める?」
「は、はい!今度は忘れません!」
ビシッと敬礼をしてくれたサーレに癒されて笑みを浮かべ、そんな私を見たサーレが「えへへ」と笑った。うん、癒し空間だわ。
「アステア様、デュールマン男爵令嬢様。お菓子をお持ちしました」
そんな中にエスターがお菓子を持って登場してくれるものだから、私は口元の筋力ゆるゆるにして「ありがとう」と口にした。
いっときの休息なんだから、思う存分癒されたって良いよね!!
お読みくださりありがとうございました。
昨日、投稿するの忘れてました…すみません。




