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第七十八話 わかっているはずなのに

翌日、リディア家に訪れれば、迎え入れられたのは映画の世界みたいな綺麗な庭園だった。

姉様とブラッドフォードが二度目の出会いを果たした場所なので、ちょっと眉間に皺が寄りそうになるけど、とりあえず私を案内する執事に続く。執事は皇族特有の白髪と紫の瞳が珍しいのか時々視線を送ってくるけど、もちろんガン無視。

リディア家に立ち入った瞬間にクレイグが別室へ移動させられてから、私はちょっと不機嫌なのだ。ヨルとエスターはお留守番で、心細いっちゃ心細いし。


「こちらです」


執事が軽く頭を下げて、道の脇へ移る。花々で囲まれた小さな広場には、優雅に紅茶を啜る女性が一人。リディア伯爵とそう年齢は違わないらしいが、これは美魔女というやつなのか。遠目から見ると二十代後半ほどに見えなくもない。

けれど、その落ち着いた姿は確かに伯爵夫人のそれで、騎士の名家に嫁いだ女というだけはあるものだった。あー、やだ、緊張してきたよ。


「お初にお目にかかります、カタルシア第二皇女殿下」


いつの間にか座っていたはずの椅子から立ち上がっているリディア夫人が、微笑む事もせず告げる。


「初めまして、リディア伯爵夫人。手紙のお返事嬉しかったです」


逆にこちらが笑顔で対応すれば、夫人は顔色一つ変えずに私を自分の向かいの椅子へと誘導した。静かな沈黙が辛い。


「すぐに紅茶を持って来させますから少々お待ちいただいても良いでしょうか」

「もちろん。リディア家の紅茶は爽やかな風味で好きなんです」


そこからまた沈黙が続く。耳に届くといえば、風に吹かれて騒めく草木や花々の音だけだ。

なんだろう、会話が続かないのってこんなにドキドキしたっけ?心臓痛いわぁ。

私を案内してくれた執事が紅茶を持ってきて、とりあえずそれを自分の口へと運ぶ。少し冷めた温度が飲みやすくてホッと一息つけば、やっと口を開いたのはリディア夫人の方だった。


「…愚息を連れて戻していただき感謝しています」


真っ直ぐ見つめられながら言われて、思わず背筋が伸びる。しっかり者の女性特有のオーラがカッコ美しいと思ってしまったのは不可抗力だ。


「感謝されるような事はしておりません。私と出会ったリアンがリディア伯爵家の人間だった、ただそれだけです」

「では、第二皇女姫殿下の深いお心に感謝するとしましょう。恩人に一度も感謝を告げないなんて、騎士の精神に反しますから」


おおっと?リディア夫人もまさかの騎士なの?


「それで、お話というのはなんでしょうか。第二皇女姫殿下」


前置きなく発せられた言葉に、私の内心は「早速きやがったか!!」と戦闘体勢に入る。相手が騎士ならば、真正面から聞いた方がわかりやすいだろうか。


「単刀直入に聞かせていただきます。なぜリアンを当主になさらないのですか?」


まさに真っ向勝負。私達の声が届かない程度の場所で控えていた従者達のうち、若い執事が一気に顔を蒼く染め上げた。もちろん声は届いていない。

なら、なぜ蒼くなったかって?


「それは、どういう意味でしょうか…」


リディア夫人の顔が、無表情から怒りに様変わりしたからだ。


「リアンは長男なのでしょう?特別なしきたりがない限り、家紋は長男が受け継ぐものだと思うんです。ですが、リアンが戻った今現在も跡継ぎは次男のリンク小伯爵のまま…。少し気になってしまって」


こんな会話を聞かれたら私が何かを企んでいるとでも思われるんだろう。あながち間違いではないけど、発端は理解不能なリディア伯爵なんだから気にしない。


「お言葉ですが他国の姫君が口を差して良い問題ではないと存じます」

「えぇ、もちろん。ただ気になったから聞いている。それだけですよ」


だから、ね?答えてくれるでしょう?

できる限り満面の笑みで、それ以上の圧を掛ける。皇族として生きているといろんな重鎮連中を見る事になるけど、そんな重鎮連中が必ず習得している技。圧をかける、それもただ会話をしているだけで相手が冷や汗をかいてしまうくらいの、ただの威圧だ。たったそれだけなのに、圧をかけられた相手は見ていないところでも不利益になる事をしなくなるらしい。

それを見習って頑張ってみるけど、効果の程はどうだろう。


「……リアンが家を出ていた間、我が家の事を支えてくれていたのはリンクですから。当然努力をした者が家を継ぐべきだと夫と話し合ったのです」


どうやら威圧は多少なりとも成功したらしいけど、返ってきたのは真っ赤な嘘ばかり。リンクの努力を見たなら、リンクの才能だってわかっているはずなのに。

リディア夫人は貴族の娘として戦場とは無縁の世界で生きてきたのだろう。剣の心得や騎士道を心に誓っていても、戦場に出た事などあるはずがない。だからこそ、リディア伯爵がわからなくても、リディア夫人は必ずわかっているはずなのだ。リンクが持つ才能を。


「努力が返ってきていれば、才能を無視しても良いのですか?」


私が言う事なんかじゃないかもしれない。けど、親として、それでいいの?


お読みくださりありがとうございます。

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