表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/313

第七十七話 なんでかなぁ

リディア家関連の事を簡単に整理してみよう。

まず、リディア家は今、元々の跡継ぎであるリアンが跡を継げない状態だ。理由は馬鹿伯爵もとい、リディア伯爵が自分の考えの元「リアンは騎士として生きるべき」と決めているから。あと、何も言わずに家出してしまった息子には任せられないと、リディア夫人が反対しているかららしい。

現跡継ぎであるリンクはリアンの事を憎んでいて、跡継ぎの座から降りたいと思っているらしいけど、両親の意向もあって身動きが取れない状態。

………なんか、まとめてみると親、主に父親が圧倒的に悪いんだよなぁ。わかってた事だけど。


「話が通じない相手にどう対応したら良いのか!答えちゃって!」


脈絡なくエスターを指差す。

ホテルに帰ってきてから口数の少なかった私がやっと喋った事で、尻尾をパタつかせるエスターは癒しだ。


「話が通じない相手ですか?えー…と…」


なぜか言葉に詰まるエスターを見て、「どうしたの?」と聞けば、する事もなく天井を見つめていたヨルが会話に入ってきた。


「脅す、とでも思い付いたんじゃねぇか?」

「えぇ?エスターがそんな事思いつくわけないじゃないですか」


ね?とエスターに聞けば、口をわざとらしく結んでいた。

あっ、思いついてたのね。


「エスターって結構物騒だよね…」

「ち、違うんです!ただ咄嗟に思いついたのが脅すというだけで!いつも頭を壁に打ち付けて吐かせているというわけでは!!」


エスターは焦ると墓穴掘りまくりだなぁ。まぁ、エスターの出身を考えればおかしくはないけど、子供の頃に植え付けられた記憶っていうのは全然拭えていないらしい。…加えてクレイグの影響っていう事は……ないと信じたいけどきっとあるんだろうな。クレイグもまぁまぁ物騒だったりするから。

そう考えるとエスターってハードな人生送ってるよな。右も左も分からない状態で拾われた後に待ち構えていたのがクレイグなんだもん。正直、私がエスターの立場だったらクレイグから全力で逃げてた。


「エスターの答えはわかった。ヨルはどうしますか?」

「あ?」

「話の通じない相手への対応です」

「そういう奴とは関わらねぇな」

「やっぱりそれが一番ですよね〜」


理解できない人とは関わらない。理解しようとする時間が無駄とは言わないけど、その相手をこれからも大事にしようと思っていなければ理解するだけ無駄な話だ。

リディア伯爵の事を理解する気なんてサラサラないからヨルの意見には概ね同意。リアンを跡継ぎにゴリ押しするためにはリディア伯爵をどうにかしないといけないわけだから、リディア伯爵と同等の後ろ盾が必要になる。当然だけど他国の人間である私が後ろ盾なんかになれるはずがないわけで。一番の有力候補は話を聞く限り、今現在リンクを跡継ぎにしている張本人だけなのだ。


「会わない事には始まらないから手紙送ったけど、良い返事が返ってくるかどうか…」


リアンを送り届けた私からの願いを無碍にする事はないだろうけど、丁寧な形で事実上のお断りをされたらそこまでだ。


「心配する必要はなかったようですよ」

「!」


毎度びっくりする登場をしてくれるクレイグが、今回も私の背後から現れる。なぜ扉を開ける音さえしないんだ、この年齢不詳のイケオジは。


「返事来たの?」

「はい。こちらです」


手渡された返事の手紙を開けば、出てきたのは上品な色使いの便箋だった。

そして書かれていたのは、私の訪問を心待ちにしているという言葉達。一応一安心かな?文面を見る限りでは嫌がられている様子はないし、直接会ってからが勝負どころか。


「あー…今から緊張する…」

「アステア様が緊張されるなんて珍しいですね!」


驚いた様子で耳をピンッと立たせたエスターを一瞥する。だって、たぶんだけど私が苦手とするタイプの人だから。正しく生きてきた人は、すごく強くて脆い。その正しさを自分の意思で貫いている人と、周りの環境ゆえに貫いている人の違いでだいぶ変わってくるけど、おそらく手紙の主は後者だ。

そういう人は勝手な想像だけど、一度傷つけられると誰の言葉も聞かなくなる気がする。だから今リンクを縛っているのだろうし、リアンを拒絶しているのだろう。


「………緊張するよ、だって相手は伯爵夫人だよ?」


答えた瞬間、エスターの表情が歪んで、ちょっと後悔した。やっぱ勘の良い獣人相手に嘘はまずかったかな。緊張しているのは、相手が苦手なタイプだと思うから。ただそれだけだ。だけど、なんでかなぁ。弱音とかは全部と言って良いほど見せられるのに、こういう苦くてよくわからない感情は隠したくなる。区別が難しくて自分でもわからなくなるくらいの、曖昧なものだけど。

ごめんね、そんな気持ちを込めてエスターの頭を撫でれば、エスターは耳をペタンと下げて撫でやすいようにしてくれた。

それがなんだかすごく可愛くて嬉しくて、気づけば笑っていた。

お読みくださりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ