第七十六話 私のせいじゃないもん
「つまり、兄上は俺が王太子になると思ってるって事か?」
確認のために復唱された言葉に頷いて見せれば、クリフィードは私同様、ガックリと肩を落とした。
「なんでそんな馬鹿な勘違いを…」
ホンットに馬鹿だと思うよ、私も。
ブラッドフォードの性格はよく知らないけど、姉様が惚れるくらいには良い男のはずだ。そんな人と目の前で喚くは気絶しそうになるはの女嫌いと比べちゃいかん。
「絶対クリフィードより第一王子の方が良いと思う」
「それは全面的に同意だが貶されてると思うのは気のせいか?あぁ?」
「私の影響なのか知らないけど心なしか口が悪くなってやがる…」
第二王子のヤンキー化…おいたわしや、フィニーティス。
「まぁとにかく。この件に関して私は関われないわ。フィニーティスの王位継承にまで首を突っ込むのは流石に遠慮したいし、継承の儀が終わればすぐに解かれる誤解だし」
「でも継承の儀はまだ未定だぞ?お前が言ってるみたいに「スムーズに二人をくっつける」っていう目的、果たせないんじゃないか?」
「うっ……それは、そうかも…」
けどな…正直な…手を引きたい。
姉様が関わっているんだから簡単に手を引く気はないし、中途半端な形で終わらせる気も毛頭ない。だけど、さすがに王位継承の件にまで首を突っ込むのはやりすぎだ。ここはゲームの世界ではあるけど、ゲームを土台に作られたというだけで、ちゃんと生きた人間が暮らしてる世界なんだから。
フィニーティスに住んでいる人々になんらかの影響が出かねない事はできるだけ避けたいのだ。
……アルバでは色々好き勝手やった自覚はあるけど、それも市民には影響が出ない範囲だったし…。
「……もうこの際はっきり言っちゃう?男女の仲に変に介入した反省を含めて全部暴露するのも手か…」
姉様にはハードルが高いかもしれないけど、乙女ゲームの世界の男であるブラッドフォードは恋愛面において強いはずだ、きっと。ブラッドフォードに暴露して……でもアレだ、「なぜ俺が王太子になるとわかる?」とか聞かれたら物凄く面倒だ。
シナリオとして決まっているとしても、今の段階では確証がない。クリフィードが「兄上が王太子になるべき!」と言ったのだと告げても、王太子の座は国王から与えられるものだからなんの意味もない。
やっぱりそう考えると放置が一番良いのか?いや、でもそれだと姉様とくっつけるのが遅くなるし、その間にヒロインのリリアが動いたら、そっちに気を配らないといけなくなる。
「っだー!!もう!!とりあえず姉様と第一王子は放置!クリフィードは王位継承でなんらかの変化があった場合の報告!以上!!」
それが最善!そう自分に言い聞かせてみれば、クリフィードが呆れながらまた肩を落としていた。意地悪しすぎて勘違いさせたのは私だけど、その以前からしていた勘違いは私のせいじゃないもん。
「じゃ、報告待ってるから」
クリフィードの肩に手を置けばクリフィードは一つ頷くと私の手を払い退けた。
「王太子の件の勘違いは、ちょっと良いもんじゃないからな」
素直に報告してくれる気でいるらしい。
───
クリフィードと別れ、王城のどこかにいるらしい姉様に会いに行こうとする。まぁ先にクレイグに見つかったんだけどね。
「アステア様、こちらにいらっしゃいましたか。下のお部屋にいらっしゃらないのでどこに行ったかと」
「あー、ゴメンゴメン」
一人で出歩かないでください、と言われて、他国の城で歩き回りすぎたなと反省。だいたいクリフィードが案内役みたいな形で一緒にいてくれていたから無意識に勝手に歩き回っていたらしい。
「ヨルは?」
「図書館の方でまだ本を読んでいますよ。お呼びしますか?」
「いや、大丈夫。あ、そうだ。第一王子と姉様の件ね、様子見になった」
「おやおや、やはり若さと時間に任せるのが一番なのですねぇ」
嫌なところをついてきやがる…。元々クレイグは様子見を推奨してましたからね、えぇ、お言葉を無視して頑張ってた私が馬鹿に見えるでしょうね!
「姉様関連になると周りが見えなくなるの、どうにかしないとな…」
これじゃ、妹に惚れない男は馬鹿だみたいな事を言ってたどっかのシスコンと同じだ。私が姉様をブラッドフォードとくっつけたいのは、サーレの事も含めて、ヒロインが介入してくる前に片を付けるため。
もうストーリーは始まっているんだから、いつ大きな展開を迎えてもおかしくはない。婚約者の情報がクレイグでも掴めないのは気になるところだけど、そこは今考えても仕方ないし。
「様子見の間、リディア家の事に集中しますか…」
姉様の件以外にも、ちゃんと片付けないといけない事は山積みだ。
お読みくださりありがとうございました。




