第七十五話 私天才だよ!!
勘違い……されたのだろうか。
いや、まぁ、少し意地悪をしすぎたのかもと思うと、ほんのちょっとだけ罪悪感が残らないでもないというか…。何より、これで姉様にどんな影響が出るかと考えると自然と顔が蒼ざめてきた。
「まさか姉様を諦めるはずはないと思うけど…」
ウガー!!!と叫びたい…が、ここはフィニーティスの王城。自分の屋敷でも、カタルシアの皇城でもないのだ。カタルシアの皇女として一応の礼儀は弁えねば…。
「……クリフィードぉ」
「今回俺は悪くない!!」
「わかってるよ、そんな事は。なんで第一王子はあんな勘違いしたわけ…?」
私が無意味にシメるとでも思っているのか…まぁ苛ついたらシメるかもしれないけど。今はどちらかというと落ち込んでるから、クリフィードの耳を抓る力すらない。いつになく私が大人しいと理解したらしいクリフィードは一つ息を吐くと、「俺もよくわかんないんだよ」と答えた。
「わかんない?」
「あぁ。兄上が王太子になるのは決まってる事だし、他国の姫を娶るなんて簡単な事だ。なのになんで勘違いする必要があるんだか…」
本気で理解できないという顔をして、首を傾げるクリフィードをジィッと見つめる。クリフィードは最終的に兄のブラッドフォードが死んで、そのせいで王になる。兄を慕っているし、そういうシーンもクロスによく登場していた。
なら、逆にブラッドフォードはどうなのか、と考えてみても、弟を「自慢だ」と言っていたような気がしなくもない…。
この兄弟はとても仲が良く、お互いの事をちゃんと認め合っているのだ。特にクリフィードはヒロインがブラッドフォードの事を褒めると、嫉妬するどころか「そうだろ!」と自慢してきて、好感度がグッと上がる。
……………じゃぁ、もし、ブラッドフォードも同じだとするなら?
あまりクロスでは描かれなかったけど、ブラッドフォードも弟を大切にしていたはずだ。そうでなければ、戦う意思はなくとも自身の勢力を持ってしまっているクリフィードが今も生きていられているはずがない。
今回の話にしてみても、なぜか私とクリフィードを見て何か誤解を与えてしまったらしいし、もしかして思い込みが激しいところがあるのか…?だったら、今の段階よりずっと前に一つでも歯車が狂っていたら、軌道修正できていない可能性がある。じゃぁ、なんだ。ブラッドフォードが勘違いする可能性のある事。普通なら考えても無駄だけど、私の場合クロスのストーリーが一応頭に入っている。どこかのセリフで何か言ってた可能性は?登場シーンが少ないから、限定できるはずだ。
サーレとの別れのシーンでもない。時期王太子が生まれた時でもない。もっと遡って、サーレと結婚する時?…違う。なんだっけ、なんだっけ。ブラッドフォードが何か勘違いしていた可能性を見つけ出せるセリフ…どこでなんて言ってたっけ!?
「あー!!思い出せない!!!」
そもそも何年も前に遊んだゲームの内容を鮮明に覚えてる方がどうかしてんだよ!!!でも思い出さないと姉様とブラッドフォードをスムーズにくっつけられないかもしれない!!!鬼畜か!!!
「うぅぅ…」
「なんだよ!唸るなよ!」
別に威嚇しているわけでもないのに距離を取る目の前の王子様に、せっかくだから攻撃でもしてやろうか。
好みのキャラクターじゃないけど、本当に綺麗な顔に困惑の色を浮かべられると、少し虐めたくなる。ストレス発散に…と、気が迷い始めた時だった。
「困惑……?」
ブラッドフォードが、困るシーン……?
「……あぁあああ!!あったぁあああああ!!!」
「!?」
あるじゃん!!顔は黒く陰って全然わかんなかったけど、セリフ的に絶対戸惑ってるようなシーン!!
「え?思い出せた私天才じゃない??誰か天才と褒め称えて!!」
「はっ!?」
クリフィードの肩をがっしりと掴み、ブンブンと前と後ろに振り回す。うっはー!!私天才だよ!!あんな細かいところよく思い出した!!
思い出せたのは、ブラッドフォードが王太子になった時の回想場面。
クリフィードが祝いの言葉をかけに行った時、なぜかブラッドフォードは口ごもって、たどたどしく返事をしていた。それはまるで、自分が王太子になるはずなんてなかった、とでも言いたそうな口ぶりで。
「って、ん?てことは、ブラッドフォードは王太子になるのがクリフィードだと思ってんの…?」
私の目の前で気を失いかけている女嫌いの男が…?
「あり得ないだろ…」
「とりあえず、お前は俺を離せ、クソおん、な…」
入れる力もないらしいクリフィードを椅子へ放り投げる。
確かに第二王子派は結構派手に動く事もあるし、ブラッドフォードは民から絶対的な支持を得ているわけでもない。でも、もしそんな勘違いをしているのだとしたら、それは大間違いだ。
「……なんか、どんどん頭がこんがらがってきた…かも」
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