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第七十一話 喜ばしい事ではあるけど、うん

現実は小説より奇なり…そんな言葉が頭を過ぎる。いや、この世界はゲームの中だから、こういう、運命とか奇跡みたいに思われる事が起きるのは納得してしまいそうだけど。とりあえず状況を整理するために頭を抱える。

えーと、ついさっき見かけた光景を正確に受け取るなら、姉様とブラッドフォードが楽しそうに王城の廊下を歩いてたよね。少し脚色するなら姉様は頬をほんのり赤くして、ブラッドフォードは完璧にエスコートして。


……………は??


全く理解できない。なんで?リディア伯爵家で何かあったのは確定だけど、え、何それ。今までの努力はなんだったの。


「なんでそこまで落ち込んでるんだよ…」


呆れているのか怪しんでいるのか、クリフィードがそんな言葉をかけてきて、私は勢いよく顔をあげた。


「落ち込んでない!!ただ、姉様と第一王子がどこでどう出会ったのか物凄い気になるだけ!!」

「もうくっつきそうだから良いだろ」

「それはそうだけど!!なんか、こう、妹心!?いきなり取られるのは釈然としない!!!」

「お前面倒くさいな…」


るっせぇ!!今まで恋のこの字も知らなかった姉様がいきなり性格も知らない男に取られるかもしれないんだよ!?っていうか!!なんで女に不慣れなやつがあんな完璧にエスコートできるわけ!?乙女ゲームの世界だからですかコノヤロー!!


「うわー!!もーわけわかんないぃ!!」


グスッと鼻音を立て、泣いた振りをする。本気で泣くなんてあり得ないけど、こうやって泣いてる風に見せると、なんだか本当に泣いてる気分になるから気が紛れるのだ。まぁ、私の演技が上手すぎてクリフィードが慌て出してしまったんだけど。


「お、おい!?」

「第二王子殿下、これは嘘泣きですから相手にしなくてもすぐ治りますよ」


後ろで大人しく控えていたクレイグが耳元で囁き、クリフィードが「はぁ!?」と声を上げる。


「お、おまっ!焦っただろ!?」

「騙される方が悪いだろ!ていうか、あんた女嫌いのくせに焦るとかあんの?」


ゲームの中のクリフィードは、女が目の前で泣き崩れても「泣けば良いと思っているのか」と嫌悪感を露わにしていて、それはヒロインのリリア相手にも同じだった。なのに、その口ぶりからするとまるで私を心配したような…。


「いや、もうお前は俺の中で女じゃないだけだ」

「その首へし折るぞ。あ、それとも介錯にする?」


アハッと笑いながら自分の首元で親指を立てた拳を横切らせる。するとクリフィードはすぐさま顔を青くして「じ、事実だろ!!」と反論してきやがった。


「あぁ!?どこが事実よどこが!!こんな可愛い見た目の女の子そうそういないからね!?わかってる!?」

「俺が言ってんのは中身だ中身!!お前のどこが女らしいんだよ!!」

「女嫌いがどの口で言っとんじゃボケ!!」


アステアが可愛いという事に関して否定しないクリフィードは、一応目が腐ってはいないようだ。…まぁ、そうなると私自身を女じゃないと認定したと同義だから、女嫌いのくせに物凄く生意気だと思うんだけど。

いつも通りクリフィードの皮膚を抓り、おまけで軽く「可愛い女の子紹介するぞ?超粘着質で面食いな貴族のお嬢様」と脅してやる。途端に大人しくなったクリフィードをポイッと投げ捨て、椅子に座り直した。


「はぁ…とりあえず事実確認が先決だよね。クレイグ、レイラから話聞けた?」

「はい。元々リディア邸へ向かったのはレイラ様をリアン様と会わせるためだったようなのですが、リディア邸の庭園で第一王子と遭遇したとの事です。おそらくリディア伯爵が剣の師匠であったため、王妃様から逃げた際に咄嗟に逃げ込んだのがリディア邸だったのでしょう」


概ね私の予想と同じ…。だったら確定でいっか、レイラとリアンの事も気になるけど、やっぱり姉様第一。姉様とブラッドフォードが今どんな状態か一刻も早く把握しないとだよね。


バンッ


少し無作法に部屋の扉が開かれて、思わず「ナイスタイミング!」と口に出していた。なんていうか、本当に私は周りの人間に恵まれているらしい。


「早かったですね」

「知らなかったのか?噂好きってのは男にも多いんだ」


そう言って笑う男は、見た事もない誰かさん。だけど、少しすれば細かく美しい砂が男の体から落ちていく。砂の中から現れたのは、私の大好きな夜の色だ。


「やっぱ王族は魔道具から違うんだなァ。王城の魔道士にまで気付かれなかったのには驚いたぜ?」

「…さすがに魔力までは消せないから、そこはあんたの技量だろ」


不服そうに返事をしたクリフィードと楽しそうなヨル。私はそんな事関係ないとばかりにヨルの言葉を急かした。


「王子サマが乗り気になったみたいだな。姫さんの姉ちゃんの反応もそうだが、あれは結構押しが強いタイプと見た」

「…………へぇ」


食事会にすら顔を出さなかった馬鹿男がやる気になったと?…姉様にあんな悲しげな顔をさせておいてどういう了見だ。喜ばしい事ではあるけど、うん。


これは…ちゃんと確認しておかないと、ね?

お読みくださりありがとうございました。

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