第七十話 頭が追いつかないんだけども!!
「大変な事になった!!!」
冷や汗ダラッダラで現れたクリフィードを、静かにしろという意味を込めて睨み付ける。するとクリフィードは負けじと睨み返したが、それよりも大変な事が起こったらしく「そうじゃない!!」とよくわからないツッコミをした。
「登場早々意味わかんない事しないでよ。こっち本読んでるんだけど」
「お前が本…!?」
「ショック受けてんじゃねぇぞコラ」
あぁん!?と下からさっきよりも更に目鋭く睨みつければ、とうとうビビったのか、「うっ」と声を溢すクリフィード。はっ、参ったかこのヤロー。
……というか、面白いんだよな、神龍の本。ヨルが本を読むなんて意外だったけど、神話とかはクロスの中にも時々登場してたから有難い。何より、神龍はクロスのストーリー上、四章で大きな鍵を握っていたりするから、今のうちに把握しておいた方が良い。
「おい!」
多少上がっていた気分のまま顔をあげれば、「俺の話を聞け!」とクリフィードが怒鳴る。…フィニーティスには声のでかい男しかいないのかね。
「何よ」
「兄上がいない!!」
………………はい?
───
クリフィードの説明をまとめると、クリフィードがブラッドフォードを探しに行った直後、ブラッドフォードの部下である騎士が慌てた様子で走ってきたそうだ。騎士を捕まえて話を聞けば、なんとブラッドフォードが消えたのだと言う。いつも戦場にいるブラッドフォードからすれば、王城はあまり居心地の良いところとは言えないため、消えてしまう事は実はよくある事なのだが、今回は王妃様との話を中断して逃げてしまったらしい。
「しかも話していた内容も相まって王妃様は激怒されて、部下達が慌てて「第一王子捜索隊」を結成して探し回っている、と」
「あぁ。たくっ、兄上は何考えてんだよ…」
頭を抱えるクリフィードを見て、多少同情心を抱いてしまう。
王妃様、怒ると怖そうだもんね…。
ほのぼの国王陛下の妻だ、しっかりしていないと国が危うい。そんな女性相手に話を中断なんて、ブラッドフォードも度胸があるのか馬鹿なのか。
「いつも第一王子が行く場所とかないの?」
「滅多に国に帰ってこないんだぞ?そんな場所あるわけないだろ!兄上は自分の事をあまり話さないし、部下に慕われてはいるけど口数も多くない。特定できる情報がないんだよ。だから毎年自主的に帰ってくるのを待ってるけど…」
「今年は王妃様が激怒してるから見つけないといけないわけか」
珍しく素直に頷くクリフィードを見て、これは相当厄介な事らしいと肩を落とす。なんでよりによって今日なのか。今日は本当に気色が悪くて仕方ないけど、クリフィードと両片思いである場面を見せようと思ってたのに。……え?なんで両片思いなんだって?私だけが思ってるみたいなのは不公平だからだよ。そもそも好きなキャラでもない奴を思いたくはない。
「とにかく!!第一王子がいないと話にならないじゃん!!」
「そうだよ!!だから大変なんだって!!」
やっと理解したのか!!と上から目線で言ってきた馬鹿王子の耳を抓りつつ考える。正直、王城まで来たのに何もしないで帰るのは頂けない展開だ。何か有益な事をして帰りたいのが本音。ブラッドフォードの捜索に協力すると言っても、私のそばにはクレイグとヨルしかおらず、人探しという点で一番有利なエスターはホテルでお留守番中だ。
………別に差別とかじゃありませんよ?エスターが一番他の人に敵意を向けやすいから仕方なくお留守番してもらってるだけ。……決して、帰った時に迎えてくれるエスターの尻尾のぱたつき具合に癒されているからとかじゃない…決して!!
「いてっ!!いきなり力入れるなよ!!」
「え?あ、ゴメン、存在忘れてた」
「はぁ!?」
真っ赤になった耳に優しく自分の手を当てるクリフィードを見て、なんだか焦るのも馬鹿らしくなってくる。耳を真っ赤にした犯人は私なんだけどね。
「……クレイグ、今日って姉様ホテルに一日いるんだっけ」
ブラッドフォードが駄目なら姉様にアピールしとくのもアリだ。けれど、クレイグから告げられた言葉は、私の想像を絶するものだった。
「今でしたらリディア伯爵家にいらっしゃるのではないでしょうか」
「………うん?」
え?今なんて?
「なんだ、姫さんは気づいてなかったのか。俺達が乗ってた馬車に途中まで着いてきてただろ」
いや、いやいやいや、私そんな特殊能力ないから!姉様探索機能だったらいつでもバッチこいだけど残念な事に持ってないから!!ていうか、は!?途中まで着いてきてたって!?
「伯爵家がある方面には第一皇女様が好むような店はありませんし、おそらくはリディア伯爵家へ赴かれたのでしょう」
おぉ、説明どうも…って、違うよ!!だからなんでリディア伯爵家に姉様が行くわけ!?頭が追いつかないんだけども!!
私がこんなに焦るところを見るのは初めてのクリフィードが目を見開き、私も同じように目を見開く。
「姉様の行動が読めん…!!」
それから数時間後、ブラッドフォードと共に王城へやって来た姉様を見てまた叫ぶ事になるのは、皆様予想できた事なのかもしれない。
お読みくださりありがとうございました。




