第七話 自分の事は棚に上げるとして
アルバは商業が盛んな国であるからか、よくパーティーが行われる。
何度も行われるものに律儀に出席するには各国の王や重鎮達は忙しすぎるので、だいたいは代役であるその子供達が参加する事が多い。
なので、アルバで開かれるパーティーは国を挙げてのお祭りなどではない限り、年齢層が若干若めだ。
「お前にしては可愛いドレスだな」
あぁそうだね、兄様よ。
心の中で明後日の方を向きながら、小さく頷く。
私が着ているのは昨日、クレイグとエスターが引っ張り出したクローゼットに入っていたドレスの一つだ。
クレイグに勧められて選んだドレスは裏葉という色と白色の、少しゴシックが混ざったような可愛らしいデザインのものだった。
緑にしては薄く、黄緑にしては目に痛くない色合いは落ち着いたように見える。
装飾は白のレースで統一されていて可愛らしく、スカート丈の長さは足の脛あたりまであるので、清楚と言えるだろう。
皇女という立場と、まだ子供という点を総合すればなかなかセンスの良いドレスだ。
だが問題は髪型で、クレイグとエスターの意見が別れてしまった……。
「アステア様の美しさを最大限にするには何も手を加えずに可愛らしい帽子かカチューシャをつけるのが良いと思います。アステア様の麗しい白髪の御髪がサラリと揺れる様は美以外のなにものでもございませんでしょう?クレイグさん」
「ははは、わかっているじゃないですか、エスター。ですが、今回のドレスには美しさではなく可愛らしい髪型が合っていると思いますよ。皇族の証でもある美しい白髪ではありますがアステア様の魅力を引き出すには可愛らしく揺れるゆるふわのハーフアップが最適です」
どっちも可愛いよね、“アステア”って可愛いもんね。
でもさ、その言い合いを一時間もする事ないだろう。
最初はそのうち終わると思ってたけど、聞いてるだけで疲れたよ。
そもそも「ゆるふわのハーフアップ」とかこの世界にもあるのね。
結局はドレスをクレイグに選んでもらった事もあって、クレイグの案が起用される事になった。
エスターは悔しがっていたがクレイグは華麗にスルーして、ニコニコの笑みで私の髪を整えていたよ。
「女性は大変だな」
私の心情を察してか、気遣うように言ってくれた兄様に少し感謝する。
「だが、これだと心配事が増えそうだな」
「?」
「このパーティーには同世代の令息達が多く参加しているし、お前に惚れる輩も出てくるかもしれない。いや、今のアステアに惚れない馬鹿などいないな…」
シスコンここに極まれり。
なんだこの兄、気持ち悪い。
自分の事を棚に上げるのはどうかと思うが、この際関係ない。
妹に惚れない男を馬鹿呼ばわりする兄を気持ち悪いと言って何が悪いか。
姉様と同じ血が流れているのだから“アステア”が可愛いのは当たり前だが、それを口に出す事に一切の躊躇いがないのは普通に怖い。
「アステア?どうかしたか?」
「イイエ、マッタクナニモ」
「なぜ目を逸らす?心なしか口調もおかしい気がするんだが」
それは貴方が気持ち悪いからです、兄様……なんて心の声がこのシスコン兄に届くはずもなく。
私はエスコートしてくれる兄の腕に手を回す事になるのだった。
───
「カタルシア帝国、皇太子クロード・カタルシア・ランドルク殿下、並びに第二皇女アステア・カタルシア・ランドルク殿下の御成です!!」
会場の大扉が開く。
他国の皇族とあって名前を大きな声で告げられてしまい、会場中の視線が私と兄様に注がれた。
極力目立ちたくないが、見られている時に顔を下げてしまうと国のメンツに関わるので、堂々としていなければいけない。
……こういう時、兄様と姉様の凄さを再確認する。
こんなにも目を向けられる地位にいても臆さず様々な場所に赴いているのだから、二人は正真正銘の「皇族」というやつなのだ。
私の場合、精神は普通の姉大好き人間だからな。
目立つのキライ。
だが、本当に仕方なく、ものすごーく仕方なく、堂々とした振る舞いをしてみた。
だって、リリアが見ているから。
正確には、主催であるアルバの王族達が、だ。
その中には自国のパーティーに嫌々出席しているリリアもいるわけで、このパーティーに参加した目的さんに舐められるわけにはいかない。
というか、これから兄様に近づけないようにしなければいけないのだから、「おどおどしている姫」と思われては色々と都合が悪いのだ。
隣を歩く兄を盗み見れば、どうしてか笑顔を浮かべている。
なので私はできるだけ意地悪く、不用意に近づけないような無表情を貫いて、兄に連れられるままにアルバの王族達の元へ向かった。
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