第五十八話 憂鬱な偽両片思いごっこ
確かに姉様と王城へ来たタイミングでクリフィードと話してはいたけども。なんで、このクリフィードと二人きりの時に姉様に見つかっちゃうかね…。
「どこにいるのかと思ったら…」
驚いたように言葉を紡ぐ姉様を見て、直感的にマズいと察する。これはあれだ、絶対勘違いしてるやつ。
「ね、姉様?」
「ごめんなさいね!邪魔しちゃったかしら!」
やめて!その嬉しそうな顔やめて!!妹の甘酸っぱい初恋とかじゃないから!今は姉様の恋愛一番だから!!
「姉様!これは誤解でっ」
「何も言わないで!わかってるから!えーと、時間空けた方が良いのかしら。あ!まだ未婚なんだから節度は守るのよ?じゃぁね!」
いつも落ち着いている姉様とは思えない慌てっぷりで、最後には扉に脚を躓かせながらも部屋を後にする。え、待って、弁解も何もできなかったんだけど。
「お、追いかけてくる!!」
ヤバイ!と冷や汗をかきながら後を追いかけようとする私を見て、クリフィードが「おい!」と声を張り上げた。
「何!?今急いでんだけど!?」
「これ、チャンスなんじゃないか…?」
「はぁ!?!?」
どこが!?女嫌いの王子と恋愛に興味ない私に噂が立ってなんのチャンスなわけ!?私は姉様に誤解されたくないんだけど!
「どんな手を使っても二人をくっつけたいってなら、俺とお前をくっつかせるために二人を動かせば良いんだよ」
「…………はっ」
それはつまり、妹の恋を応援する姉と、それに協力するブラッドフォードって図を作るって事か…?
確かに私が脅したとは言え、女嫌いなクリフィードとこうして会っているのは姉様の恋を応援するためだ。いくら恋の試練的な何かのせいで会う事のできない二人でも、自主的にお互いが「相手に会う」という意識を持てば、会えないはずはない。相手に会うための目的を私達で作ってしまうというのは、結構良い案なのかも…。
「でも、あんた女嫌いじゃん…」
相手が普通の人間であれば素直に頷く提案でも、クリフィードでは話が違う。女嫌いという三文字のせいで、攻略にどれほど苦労させられた事か。
「うっ…まぁ、確かにそうだけど…これ以上付き合わされるくらいならマシだ」
「付き合わされるって…一応あんたのためでもあるんだけど」
尊敬する兄を救えるんだって言ってもクリフィードは信じないのだろう。…仕方ない、姉様とブラッドフォードをくっつけたら即座にネタバラシすれば大丈夫か…。
「……わかった」
「……俺だって嫌なんだぞ。さっさとお前が出ていけば良いのに」
「るっさい。私だって好きでここにいるんじゃないんだよ」
ギロっと威圧感の欠片もない目で睨まれたので、とりあえず睨み返す。するとどちらともなくわざとらしい溜息がお互いの口から溢れ落ちた。
「お前が脅さなきゃ、俺は今も平穏だったんだ…」
「なんで姉様取られるために頑張ってんだろ、私…」
こうして、憂鬱すぎる偽両片思いごっこが始まったのだった。
───
クレイグ、エスター、ヨルの三人にクリフィードとの作戦を話せば、意外にも乗り気になったのはエスターだった。
「第二王子といえば女嫌いで有名な方ではないですか!きっとアステア様の美しさに目を奪われたんですね!」
「ない。それはない。あいつは死ぬほど私が嫌いだと思うよ。というか女が嫌いだからね」
可愛い顔で可愛い事を言ってくれるけど、クリフィードが私に見惚れてるところを想像するだけで悪寒がしてくる気分だ。
「クリフィード第二王子殿下がそのようなご提案をされたのは驚きですが、それならいくらか手がありそうですねぇ」
「あ、やっぱそう思う?」
「はい。ブラッドフォード第一王子殿下をどう誘導するかによりますが、アステア様と第二王子殿下の演技次第では急接近できるのは?」
クスクスと笑われて、完全に面白がられていると察する。クレイグめ、楽しんでやがるな?
やる気になっているエスターと面白がるクレイグ、そしてヨルは、なぜか剣の手入れをしていた。
「……なにしてるんですか」
「手入れ」
「見れば分かりますよ」
首を傾げてヨルを見つめれば、本当に小さな声で「…やる事がねぇ」とぼやかれた。………もしかして、騎士なのに戦う事がなくて拗ねてらっしゃる?
「姉様の件が終わったら兄様に頼んで騎士の稽古に混ぜてもらうとかします…?」
「…する」
今日の発見、ヨルは戦えないと拗ねる。
騎士って言葉で戦う事を連想したんだろうな…可愛い。リンクと本当に少しだけ剣を交えたけど、あれだって異例中の異例だ。政治ごとに関与しない私を暗殺する意味なんてないし、ヨルはこれからもあまり戦う事はないだろう。
…ちゃんと、発散場所作ってあげなきゃだよね。姉様の件が終わったら、考えてみますかぁ。
「ま、とりあえず姉様第一だけどね」
お読みくださりありがとうございました。




