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第五十六話 切り抜かれた一枚の絵画のようだった

レイラ視点のお話です。前話と少し落差が激しいかもしれないです。ご注意ください。

…カリアーナ様がおかしい。

行動はいつも通り優雅で美しいのだが、時々空を見上げて何かを呟いているのだ。しかも少し紅潮としたお顔で………やっぱり、おかしい。


「それで、私に相談しにきたと?」


目の前で鎮座されているのは、カリアーナ様の妹君。アステア・カタルシア・ランドルク第二皇女。カリアーナ様同様お美しい方だが、14歳故の儚さと危うさ、そして皇帝陛下と皇妃様から受け継がれた二色の瞳は、どこかカリアーナ様とは違った魅力を作り出している。その瞳に見入ってしまう人間は多いだろう。


「…姉様わっかりやすいな…」

「え?」


私が聞き返すように声を返してしまい、後ろに控えていた執事の目が一瞬光る。おそらく私が第二皇女に無礼を働いてしまったあの事を思っているのだろう。私だって、カリアーナ様に無礼を働く者がいれば同じ反応をする。それほど、私は第二皇女様に失礼な事をしてしまった事があるのだ。


「なんでもない。姉様が呟いたって言葉、何か一つでも覚えてたりする?」

「そうですね…。「もう一度…」と、おそらくですが、そう呟かれていたかと」


その瞬間、第二皇女の顔が思い切り曇り、そしてどうしてかわからないが「初めてなのかな…」と呟かれた。…カリアーナ様の様子がおかしい事を察したのだろうか?第二皇女様は自分の中だけで何かを完結してしまうから、いまいち言動がわかりかねる事が多い気がする。

けれど、カリアーナ様を本当に慕っていらっしゃる第二皇女様の事だ、きっと帰ると言ってくれるに違いない。

だが、第二皇女様が告げた一言は、私の予想から大きく外れてるものだった。


「帰る事はしないよ」


当然だろう、とでも言いたげな口調に思わず眉間に皺が寄ってしまう。そんな私を見て、第二皇女は笑った。その表情はカリアーナ様と似ていて、それでも、カリアーナ様のように和ませてはくれない。逆に何を考えているのかわからなくて、気が締まるのを感じた。


「レイラは学習しないね〜。姉様にしない顔は私にもしちゃダメだよ?私だって一応皇族なんだから」


まだ幼さが残る可愛らしい微笑の隙間から放たれた言葉で、背筋が伸びる。

そうだ、この方は、こういう方なのだった。

自由にしているようで、人を振り回しているようで、ちゃんと人を見て、見極めている。砕けた口調の中から覗く皇族然とした態度がそれを物語っているではないか。それなのに、気づけなかった私は無礼を働いた。あの時の自分の行動は酷く幼くて、目の前に立つ人がどんな方なのか忘れていたのだと思う。そのせいで、カリアーナ様の逆鱗にまで触れてしまったのだ。あんな事、二度と体験したくはない。思わず震える体をどうにか抑え、すぐに頭を下げる。


「も、申し訳ありません!」


口から自然と謝罪の言葉が吐かれれば、「騎士なのにすぐ頭を下げるんだ?」と意地悪な言葉がかけられた。どうしよう…完全に機嫌を損ねてしまったのかもしれない。また、体が震える。

そして、第二皇女は一言、「ダメだよ」とおかしそうに囁いた。


「姉様の騎士なんだから、私なんかに臆してちゃダメだよ。しかも騎士団長なんでしょ?がんばらなきゃ」


クスクスと上機嫌に笑う声が聞こえて、微かに肩の力が抜ける。あぁ、からかわれていただけなのか。良かった。本当に、怒らせなくて良かった。

もう震えなくなった体を軽く動かし、第二皇女を見る。カリアーナ様と同じ麗しい白髪が目に止まって、次いで二色の瞳と目が合った。


「カタルシアには帰らない。その理由を話しても良いけど、主の事をちゃんと理解するためにも自分で解いてみなよ。きっと、すぐにわかるよ。姉様はレイラを信頼してるからね」


全く妬けちゃうよ、と付け加えられた言葉は微笑ましいけれど、微笑の中で何を思っているのか全くわからない。なのに、その言葉に嘘がないという事はなんとなくわかった。直感でしかないが、それでも第二皇女様は、カリアーナ様を慕う一番の方だから。


「……わかりました」


頷いて見せれば、満足そうに笑う幼い表情。綺麗に弧を描いた口元は皇帝陛下を彷彿とさせ、顔全体の雰囲気は皇后様のそれだった。


「それでは、失礼いたします。お時間を作っていただきありがとうございました」


窓から差す光で一瞬青く輝いた瞳が私を真っ直ぐと見据えて、「どういたしまして」とごく当たり前の事を告げる。どこからか吹いた風が皇族の象徴の一つである白髪を揺らして、絵本に出てきた妖精のようにキラキラと輝いて見えた。


その場面が、まるで切り抜かれた一枚の絵画のようだったとカリアーナ様に告げたら、笑われてしまうだろうか。

お読みくださりありがとうございました。

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